山道
@gochisou
(初校)
鮭の皮が連綿と続く山道を歩いていた。鮭の皮は朝の光を受けてきらきらと光り輝いている。歩き始めてどれくらいの時間が経っただろうか。前を行く田中は全く疲れた様子をみせないが、私の呼吸はだいぶん前から荒くなっている。打ち寄せる波に足を掬われないように急峻な山道を歩くのは体力的にも精神的にも疲弊するものだ。しかも終わりの見えない鮭の皮を辿ってと来ている。誰が頼まれて鮭の皮なんぞを辿って山を登らねばならんのだ。きっといま鮭の皮を辿って山を登っているもの好きは私たちだけに違いない。日の光がだんだん強くなるにつれて波の音も大きくなる。波の音以外には足音しか聞こえない静かな朝だ。
「しっかり前を見て歩け、鮭の皮は絶対に踏むんじゃないぞ」
田中の声には少し苛立ちが混じっている。無理もない。正午までに山を登りきらなければならないのだ。一度決めたルールは義務となる。
「あとどれくらいだろう」
「そんなことをおれに聞くな。くそっ、波が邪魔だ」
「なんでこの鮭の皮には身がついていないんだろう」
「蟻にでも食べられたんじゃないか?」
身のついていない鮭の皮は朝の光を受けてきらきらと光り輝いている。蟻は鮭の身は食べるのに鮭の皮は食べないのかしら、と思う。鮭の皮は右に左に曲がりくねりながら山道を上へ上へと続いている。山頂はまだ遠い。
山道 @gochisou
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