第7話 動物病院

 三種混合ワクチン。

 中二心をくすぐられる名前だが、なんのことはない、ミィが受けている予防接種のことである。

 ミィは完全家猫なので三種になるが、お外猫の場合は最大七種混合になるらしい――何それカッコイイ!――。



 今日は年に一度の定期検診&ワクチン接種の日だった。

 こう書くとまるで忘れていたのかと思われるかもしれないが、そんなことはない。

 確かに動物病院から連絡の葉書が届くまではすっかりきっかり忘却の彼方ではあったが、それから時間の予約をしたのは僕である。


 やればできる飼い主です(キリッ)。


 と、まあ僕のことはどうでもよろしい。

 それよりもミィのことである。当のミィは全く分かっていなかった。

 別に病院が好きなわけではない。


 どちらかというと苦手な方だと思うのだが、年に一回のことなので僕同様に忘れていたようだ。

 猫用キャリーバッグに入れられて始めて、何かあると気付いたようである。


 うちの猫用キャリーバッグは顔が出せるように穴が開いている。

 仕様です、閉じられません。

 そこから見事に脱走しました。うちの玄関で。

 そしてあっさり捕まりました。


 早っ!


 ただビックリしたのが、逃げられないようにバッグの中にある紐を首輪に取り付けていたのに逃げたのである。

 ほどけた?ちぎれた?と思ってバッグの中を確認すると首輪ごと外れていましたヨ……。

 どうも、どこかに連れて行かれることよりも、突然狭いバッグに入れられたことが気に食わなかったみたいだ。



 病院や外で脱走されたら困るなあ、と思いつつも紐はつけずにバッグに入れていざ出発。

 実はミィは車があまり好きではない。

 最初はバッグから出てごそごそしていたのだが、すぐに怖くなったのか自分からバッグの中に入ってしまった。


 そして「みゃー、みゃー」鳴く。


 一番最初に連れて帰った日のことを思い出してしまい、つい合の手のように僕も「みゃー」と言っていた。

 いい年したおっさんが「みゃー」とか言っている、想像するとキモい。

 他人の目がない自分の車の中だからできることである。



 車で走ること二分――信号待ちの時間も含むので、走行していた時間は一分――、ミィのかかりつけの動物病院に到着する。

 え?ご近所さんですが何か?


 受付に診察券の入った袋ごと渡して、待つ。

 ひたすら待つ。

 一応予約してその時間の五分前に行ったのだが、そう上手くはいかない。

 何せこの動物病院、大人気でたくさんの患畜さんが来ているのである。

 僕が行った時も十頭ほどが待っていた。


 で、待っている間ミィは怖いけれど退屈だったのか、時々バッグの中でもぞもぞ動いたかと思うと「にゃー」と鳴いたり、穴から顔を出して周りを見たりしていた。

 飛び出さないようにバッグを縦にして持っていたため、さながらアメリカの大草原の巣穴から顔を出すプレーリードッグのようだった。



 結局三十分ほど待って診察開始。

 体重に体温の測定、検便、ごく軽い問診、そしてワクチンの接種まで十分程度で終わった。


 そうそう、この動物病院では写真を撮ってプリクラを作ってくれる。

 今回もばっちりだったぜ!


 そしてお会計まで再び待つ。

 待合室には大型犬から小型犬まで――今日は犬が多かった――たくさんいた。

 なぜか『ショコラ』という名前が多かったが、流行りなのか?

 そして無事に会計を済ませて、僕たちは家路についたのであった。


 ミィ、お疲れ様。

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