第4話 三つ巴
「私の歌を聞け!」
どこからか取り出したマイクを持ち、大声で叫ぶマリ。いつの間にかジョージの車の上にセッティングされている小型スピーカーからマリの声が響く。
「ジョージは右前方を!俺は左前方を守る。気合出せよ!」
鬼鉄が檄を飛ばす。
「了解!」
笑顔で答えるジョージ。
車の上のマリを、
「つまらない駆け引きは抜きよ♪ドッグファイトに飽きたわ♪偽りの言葉なんていらない♪感じたいの♪欲しいのはpassion♪受け入れるわ♪アナタのseed♪」
キレキレのダンスを決めながらノリノリで『夜のアクロバット飛行』を歌うマリ。
―狐小路商店街から少し離れたビルの屋上―
「ねえ、メグ姉、マリさんは何で歌っているの?」
「建物の左の方を見てみて。見づらくて分かりにくいけど、下の方から黒い壁が出てきているのが分かる?」
双眼鏡で眼鏡屋の左側を見るキララ。
「何あれ?」
「あれがマリの能力。マリの付喪神は『
キララの頭上に豆電球のライトが付く。
「分かった!歌わないと空間を作れないのね!だから、歌を途中で邪魔されないようにするために鬼鉄は『
「いいえ。歌は関係ないわ。」
「じゃあ、あのとても素人とは思えないキレッキレのダンス?」
「いいえ、それも違うわ。あれはマリが夜な夜なダンスホールで踊りあかした賜物ね。私は当時のマリをよく知らないけど、相当モテたみたいよ?今は、私の方がイイオンナだけどね♡」
ライフルを構え寝そべった姿勢のまま、器用にお尻を突き出してお尻を振るメグミ。
「それじゃあ、あの歌とダンスは何なの?」
「あれはマリの趣味よ。マリは視覚に入る空間を認識するだけで仕切ることができるの。だから、歌もダンスも必要ないわ。まあ、踊っていたほうが、敵の狙いを外すことができるわね。でも、アタシの狙撃はかわせないでしょうけど……。」
「意味ないじゃん。」
「ただの時間潰しといったとこかしら?」
「マリさんって、本当に変な人……。」
「キララ!あれ見える?右から来る3人の男に囲まれた女の子!」
いつも冷静なメグミが激しく動揺している。
「ちょっと待って、え~と、あっ、いた!ピンク色のドレスの女の子?あの子も操られているのかな?」
「あり得ないわ。あの子、手に何か持っているから。傀儡モンキーになった人はみんな両腕を前にたらすから、物は持てないはずよ。マズイわ。鬼鉄、聞こえる?怪しい女の子が近づいてきているわ。」
鬼鉄から応答がない。
「インカムの無線がジャミングされている!間違いない、アイツも敵よ。」
メグミはライフルで女の子を狙おうとするが、射線上にいる男たちが邪魔で打てない。
「ちっ、やるしかない。」
メグミがライフルで男たちの足を打ち抜く。しかし、男たちの足は止まらない。
「どうするの?メグ姉!」
「急いで鬼鉄たちのところへ行くわよ!」
―狐小路商店街外れの眼鏡屋の前―
歌い踊り続けるマリ。
「揺らしてハートを♪マシンガンは効かないわ♪エクスタシー燃やして♪打ち込んでよトドメのミサイル♪」
マリが3曲目を歌い終わると同時に、マリの作りだした壁が建物全体を覆い尽くす。
「準備完了よ!建物の中には大人が一人いるみたいね。」
「よし。ジョージ、中へ入るぞ!ここは危ないからマリも中へ!」
鬼鉄がそう言って眼鏡屋へ走り出すと、眼鏡屋を覆いつくした黒い壁が消え始める。
「まさか!」
振り返る鬼鉄の目に映ったのは傀儡モンキーと化したマリだった。
「このおばちゃんは、私のものよ。少しでも動いたら、自殺してもらうから気をつけてね?」
緑色のぬいぐるみを抱いたピンク色のドレスを着た少女がつぶやく。
傀儡モンキーを操る犯人は、小学生ぐらいの女の子だったのだ。鬼鉄たちは傀儡モンキーたちに気を取られている間に、密かに後ろから近付いていたのだ。
「どういうことだ。周囲はメグミたちが監視していたはずだ!メグミどうなっている?メグミ、応答しろ!」
「無理よ。無線は私たちがジャミングしたから。あなたたちは、そのまま何もできずに黙って死になさい。」
「くそ!」
少女の言うとおり動かない鬼鉄とジョージ。しかし、傀儡モンキーたちの攻撃は止まらない。全身に激痛が走る。意識も朦朧としてきた。
鬼鉄は痛みの中で考える。
俺やジョージは人や物を壊すのが得意だ。だが、回りを囲んでいるモンキーたちは、催眠状態のただの人間だ。罪のない人を殺すわけにはいかない。だから、気絶させて行動不能にするか、足の関節を外して動きを封じるしかない。手っ取り早い解決方法は、目の前の少女を倒すこと。子供に手を上げたくないが仕方ない。しかし、マリが人質にとられている。俺が動くとマリは殺される。だからといって、このまま殴られ続けたら、俺だけでなくジョージも殺される。メグミはこちらに向かっているだろうが、あいつも手を出せないことに代わりない。他に助けもこないだろう。
絶望的だ。考えろ。この状況を打破できる方法はないか?落ち着け。冷静になれ。冷静に……
「冷静になれるかー!」
大声で叫ぶ鬼鉄。
「何よ、あんた、急に大声をあげて驚くじゃない?」
あまりに大きな声で驚いて、ぬいぐるみを落とす少女。少女は慌てて拾い上げる。
鬼鉄はその一瞬を見逃さなかった。
少女がぬいぐるみを落とした瞬間、傀儡モンキーたちの動きが一瞬止まったのを!
鬼鉄は一つの仮説を立てる。あの少女は緑色のぬいぐるみを持っていないと傀儡モンキーを操れないのではないか?この仮説はあまりに根拠に乏しく、推測の域は抜けない。しかし、このまま何もしないよりマシだと鬼鉄は判断した。そして、一瞬で少女に近寄りあのぬいぐるみを取り上げるしかないと考えた。チャンスは一度、あの緑色の猿みたいなぬいぐるみを奪い取るしかない。
鬼鉄は視界に少女をとらえ、足に力をこめる。
「俺、参上!くぅー!俺、最高にカッコイ!!!」
緊迫した場面にあり得ない陽気な声が響く。声の主は青い軍服を着た中年の男だった。隣には同じく青い軍服を着た小柄な女が立っている。
「誰よ、あんた?」
少女が青い軍服の男に問いかける。
その隙を鬼鉄は見逃さなかった。傀儡モンキーを振り払い少女に向かい走り出す。
ドサ!
走り出したはずの鬼鉄が地面に倒れている。後ろでジョージも倒れ込んでいる。
「おいおい、無理すんな~。カナリヤの能力でお前の体を動けなくした。お前は限界だ。もう休んでろ。」
「俺に限界はない!限界は自分で作るもんだ!俺は今の俺を超えて見せる!!!」
歯を食いしばりながら立ち上がろうとする鬼鉄。
「おいおい、マジかよ?何で意識があるんだ?まあ、いい。カナリヤ、次はコッチだ。」
青い軍服の男が少女に指を指す。カナリヤと呼ばれる女が口を大きく開ける。
「何?クラクラしてきた……」
急に倒れ込む少女。次々に倒れだす傀儡モンキーたち。
「お前は誰だ?目的は何だ?」
立ち上がりながら質問する鬼鉄。
「俺?俺の名はグリル・シーブリーム。グリル隊長と呼びたまえ!ちなみに、こいつはカナリヤ。君たちと同じ神殺しだ。あの少女は俺たちの組織で必要なサンプルなんでね。いただいていくよ。悪く思うなよ?助けたんだから?」
グリル隊長は答えながら少女に近づく。
「いや~、それは困るなぁ~。みどりは私のお気に入りだからさ。」
鬼鉄とグリル隊長の前に突如出現した40代ぐらいの女。
「おいおい、そりゃ~ないぜ?K《ケイ》。」
「あら、隊長、お久しぶりね。でも、今日はこれでおしまいよ?グッバーイ!」
Kと呼ばれる女が少女と緑色の猿のぬいぐるみを持って異空間へと消える。
「くぅー!また、逃げられたぜ!戻るぞ、カナリヤ!」
無言でうなずくカナリヤ。
「まだ、話が終わっていない。お前ら一体何者だ?」
気合で立ち上がった鬼鉄。
「お前、マジ凄えーわ。意識を失っていないだけでもあり得ないのに、本当に立ち上がるとはよ。お前、噂通りの化物だな?俺については、また今度な?でも、安心しな。俺はお前たちの味方だぜ!」
笑顔で答えるグリル隊長。
耳をつんざく爆音がして、上空から縄梯子が下りてくる。爆音の正体はヘリコプターのローターの音だった。ヘリコプターで立ち去るグリル隊長たち。
メグミたちが鬼鉄の元へ駆けつけてくる。
「鬼鉄、大丈夫?一体何があったの?」
「メグミ、悪いけど、もう動けん。いつものところに連れてい……。」
言い終わる前に倒れ込んで気絶する鬼鉄。
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