第7話 ソラの日記 一月十五日

 そういえばわたしのことを書いていませんでした。


 吾輩は猫である。名前はソラ。



 ……でいいのかな。だめだよね。ちゃんと書きます。



 わたしは生まれた場所を知りません。

 お父さんとお母さんがどんな猫だったのかも知りません。


 とうやは遺伝子的には純血のアビシニアンだと言ってました。

 毛の色はブルーっていうのかな? 灰色に青みがかった感じ。

 瞳の色は緑がかった水色。はるきはこの色をとてもきれいだといつもほめてくれます。そのたびにわたしはうれしくてウキウキします。


 誕生日はわからないけど、だいたい生後六か月。人間のねんれいでいえば十歳くらい。

 どうしてこういうふうに日記を書いたりおしゃべりできるかというと、知性化処置をうけたから。

 知性化処置のくわしい内容はわからないけれど、とうやはだいたい十倍あたまが良くなると言ってた。


 とうやとはるきも生まれてすぐに知性化処置をうけていて、二人とも十八歳だけどもう世界でトップクラスの科学者としてかつやくしてる。



 で、わたしがこうなったきっかけなんだけど、これがひどい話。

 さいしょにとうやがわたしを見つけたとき、わたしはもう死ぬまぎわだったらしい。

 ひんし状態だったってとうやは言ってた。


 見つかったのはこのひとく研究所の中庭のしばふの上。

 ここは外からのら猫が入りこむようなことはないから、迷い込んだとか、親猫がここで産んだということはありえない。


 たぶん元のかい主の家のベランダにいたところをカラスにさらわれて、それをほかのカラスとあらそっているうちにここに落ちたんじゃないか──というのがはるきの推理。

 そのしょうこに近くにカラスの羽根が一枚おちていたんだって。


 とうやとはるきはすぐに研究所の中にわたしをはこんで治療をはじめたけど、問題になったのはわたしの命を救ったとして、そのあと。

 ただのら猫が死にかけていたので助けました。じゃ、この研究所にはいられないんだって。だってここは科学者とその実験動物しかいないひとく研究所だから。


 そこではるきが知恵をはたらかせて、人間なみの知性を持つ動物をつくり出す実験ということにしたんだって。

 これまでゾウやイルカでは成功していたけど、わたしみたいな小さな猫での成功例はまだなかったから。


 そして、実験は無事成功。

 わたしは世界トップクラスの知性化猫として生まれ変わったわけ。


 わたしのまだ短い人生のお話はだいたいこんなとこ。

 実験室を出てからは、とくべつにとうやとはるきがくらす家に迎え入れられたわけ。もちろんわたしがあるじで、とうやとはるきはわたしに仕える執事だけどね!

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