第2話 伝説の鬼だって恋してもいいんだよね☆

第二章「伝説の鬼だって恋してもいいんだよね☆」


 1


 青松号は大江山という駅で停車し、俺たちはそこで途中下車した。


‐おやおや渦潮宇美子さん。今日は鬼退治ですかー?‐


 というナレーションなどもちろん無く、駅はひっそりとしていた。駅員の姿さえ見えない。なんとなく霧が立ち込めて、妖気さえ漂っている雰囲気だった。ていうのは車中、クサビビメさんがやたら恐ろしい話をしていたからで、単に俺の気のせいかもしれないのだが、それでも標高が少し高いのか風がうんと寒かった。

 本当の目的地からは逆方向に進んだ形になるが、距離的にまずこっちに寄った方が早いとクサビビメさんは天橋立駅から青松に俺たちを乗せた。


 大江山。そこは大昔、酒呑童子という酒好きの鬼が退治されたという山だ。退治されたといっても、鬼は死んではおらず、今は山でバイトしながらその日の酒代を稼いで、ひっそりと暮らしているらしい。現在でこそすっかり落ちぶれたアル中オヤジになってしまったが、かつてはここら一帯の物の怪達からも恐れられた剛力の持ち主で有名だったんだって。そのオッサンの力が封印された勾玉が、ここの山にあって、まずそれを手に入れようとここに来たのだった。

 もう俺はどんな話でも信じますよ。鬼だろうがインベーダーだろうがファッションモンスターだろうが。


 俺たちはクサビビメさんの案内で、山を登って行った。それは険しいケモノ道…という具合でもなくて、普通に観光客用の舗装された道路だった。途中からはバスに乗車して。

ただのピクニックやん。


「おっひさー!どう景気の方は?元気にヤッテル?」


 クサビビメさんが、ちょっと大柄なオッサンに声をかけた。あたりはまだ雪が残っていて、大柄のオッサンはスノーダンプで雪を側溝に運び捨てていた。


「なんや、あんたか?ひさしぶりじゃの。二十年ぶりくらいか。あんた確か管轄が変わって今は丹後半島の方に行ったんじゃなかったかいの?」

 大柄のオッサンは被っていたニット帽を取って、顔をこっちに向けた。赤ら顔はオッサンとしては普通だった。ただ頭にツノらしき突起物がはっきりと見えた。


 え?このオッサンが酒呑童子?確かに大柄ではあるけど、これならチャックウイルソンの方がまだ強そうだろ。というのが俺の初見での率直な感想だった。(この時なぜチャックウイルソンが頭に浮かんだかというと、昨日ホテルのテレビでたまたま「あの人は今」って番組にチャックがでてたからで、ここでの喩えは別にボビーオロゴンでも竹内力でも、それこそマキシマムザ亮君であってもよかったんだけど、つまりそのくらい伝説の鬼が普通のオッサンだったのだ)


「景気もなにも、大江山のスキー場クビになってからはこうやって雪かきのバイトでなんとか食いつないでる状態や。相変わらず不景気での。酒も鬼ころしくらいしか買えんわ」


「ぎゃははは。鬼が鬼ころし飲んでんの?マジウケるわー」

 

クサビビメさんが空中で転げ回りながら爆笑した。なんだか想像していた展開と違った。俺は、森の奥にひっそりと建っている苔の生えた古びた社か、もしくは妖気漂う漆黒の洞窟の中で牢名主の如く鎮座する巨大な赤鬼との、勾玉をめぐった激しいバトルに発展するんじゃないかと内心不安だった。だのに、これでは完全なるご近所さんとの会話だ。いやもっと慣れ慣れしい。二人の関係はまったく想像できないが、拍子抜けしたのは言うまでもなかった。


「料理酒よりはマシや。で、わしになんの用や?後ろにおるのは人間やろ。おまえさんが人間連れてるってことはなんか起きたんか?ミサイル撃ち落とすなら自衛隊に任せとけば良いやろ」


「ミサイルなんか自衛隊に任せなくても私一人で充分ヨ」

「じゃあなんや?」

「カニがでたのヨ」

「カニ?はぁ、そういうことか。じゃこいつらが防人なんやな」

 

俺はクサビビメさんがインベーダーをカニと呼び、鬼らしきオッサンがその話を完全に知っているような口ぶりだったことに少し違和感を覚えた。かつても同じようなことが起こったのだろうか?


 クサビビメさんは構わず話を続けた。


「正確に言うとそこにいる胃弱そうな坊や、名前はなんだったっけ?あっ、天吾クンね。その天吾クン一人が防人なんだけど、お友達の方が使えそうだからみんなにも戦いに参加してもらうことになってね。それで神器を集めてるってワケ」


 誰が胃弱じゃ!確かに小食ではあるけど乗り物には強いぞ。三半規管は丈夫だぞ。やっぱり俺は戦力には入ってないのかクソ!薄々気づいてはいたけど傷つくわ。


「確かにひょろひょろやのー。でもまぁあんたの羽衣を拾えたってことは坊やもそれなりに資格はあるはずやな。しかし、確かにそいつのお仲間の方が戦力になりそうだ。ものすごい妖気を発しておるわ」


 酒呑童子、っていうかただの赤ら顔のでかいオッサンが、俺の背後で相変わらずゴゴゴゴいってる宇美子を見て言った。さすが伝説の大妖怪!あんたにも宇美子のオーラは見えるのか。


「それがさぁ。この見た目はカワイイ女の子が、渦潮宇美子ちゃんて名前なんだけど、この子がカニ喰っちゃったのヨ。それでもう後には退けなくなっちゃったノ」


「なるほどのぅそういう理由か。納得した。そりゃ喰っちまうわな」


 え?クサビビメさんのたったそれだけの説明でオッサン納得しちまうのかよ。そんなに宇美子のオーラは尋常じゃないのか?俺今までよく無事でこれたなぁ。いや何度か死にかけてはいるけれど…と、俺は寒いはずなのに腋から嫌な汗がつたうのを感じた。


「ようするに封印の勾玉じゃな。あれが必要なんじゃろ」


「さっすがー!話が早い。だからオッサン大好きヨ。チュッ?」


 クサビビメさんが宙に浮いたまま、オッサンのほっぺにキスしたので、赤ら顔のオッサンの顔はもはやゆでダコのように真っ赤に染まった。こういうノリは苦手らしい。


「オッサンをからかうのは止めてくれ!これでも昔はここらで最強と言われた鬼じゃぞ」


「分かってるワヨん。じゃないとあいつらと戦えないでショ」


「で、わしの力はだれが継承するんじゃ?羽衣の坊やはすでに防人だから無理じゃな。他のお仲間に継承資格があるかどうか試してみんと、適合せんかったらコロっと死ぬぞ」


 これまで世間話のテンションで、のほほんと会話していたのが急に恐ろしいことを鬼が言いだした。適合しないと死ぬだって?


「ちょっとーさっきから黙って聞いてりゃなんや?早くカニ喰わしてくれるんじゃないの?オッサンこっちは遠くから来とんのやぞ!あん?おん?カニはどこにあるんや!」


 ちょっと黙っててくれんかなぁ。まったく明後日の方角から宇美子が文句をつけてきた。今、カニ喰う喰わないの話してましたっけ?


「恐ろしいオナゴじゃの…」


 伝説の鬼のオッサンもドン引きだ。


「あれを飲むのネ?たぶん大丈夫と思うけど、確かに一番適合してる子に継承させるのが筋ってもんネ」


 クサビビメさんは勾玉の儀式というのだろうか?その内容を知っているようだ。いったいなにをするのか、俺が訊こうとした時、すっかり空気と化していたリキが珍しく口を開いた。


「おおオッサン。鬼の力といったらどう考えてもオレが適任だろう?見ろよこのビルドアップされた筋肉を。このシックスパックの腹筋を」


 リキはそう言って、寒風吹き荒む中、上着を全部脱ぎ去り、上半身裸になって筋肉を自慢した。こういうとこが筋肉バカの嫌いなところだ。なんていうか筋肉至上主義っていうか、脳ミソ筋肉っていうか。


「そうやのー。そこのひょろちくりんよりは強そうじゃが、適合者かどうかはやってみなくてはわからんのー」


 そこのひょろちくりんってのはもちろん俺のことだろう。ああ、みんなして俺をバカにするがいいさ。こんなのは昔からもう慣れてる。心だけは鋼鉄だ。クソクソクソ…。と、俺が不貞腐れブツブツ言っている間に、適正テストは行われることになった。


 俺たちは鬼のオッサンに案内され、舗装された道路から横に外れた山道を歩いて目的の場所まで連れていかされた。所々雪が積もったままで、スニーカーで軽装の俺は何度も谷底に滑落しかけたが、鬼のオッサンはもとより、宇美子もリキも桜ちゃんまでもが、軽々とした足取りでその場所まで歩いていった。クサビビメさんは宙に浮いたままなのでなんの問題もなかった。いったいどこから盗ってきたのか、いつの間にか暖かそうな白いファーのショールを首から巻いていた。成人式の地元ギャルのような姿だ。

「にしても、なぜ俺だけダメキャラのままなのか?俺YOEeeeでは話が成り立たんではないか。否、主人公はもしかして俺じゃないのか?」なんてなメタ発言的な妄想が頭を駆け廻りつつ、俺は必死にみんなのあとをついて行った。景色はだんだん当初想像していたような、妖気漂う森の中へと入って行った。



 2


 まず結果を先に言おう。いや別にどっちでもいいんだけど、こっちの方がオモロいかなと思って。いやゴメンゴメン。よけいややこしくなるわな。ああややこしや。ややこしや。ところで長兵衛さん、あんさんとこにめんこい年頃の娘さんがおったなぁたしか、なにねぇ、ちょうどええ縁談話が舞い込みましてな、そらええ話っちゅうわけですわ。あんさんの娘さんもこう言っちゃぁなんだが、度胸はええと思います。そこはホンマにええ娘さんやと認めますけども、どうも器量の方が、言いにくいことですが、ここはわいも男やはっきり言わせてもらいまひょ。あんたんとこの娘さん、度胸は良いがどうも肝心のお顔の方が、ちょっとばかり明後日の方角を向いておると思いますんや。ああ、怒らんといてくださいな。そりゃ親っちゅうもんは、どんな娘でも目に入れても痛くない可愛い可愛い娘でおます。その気持ちは充分わかってまんがな。だけども所詮世の中は見た目が良いにこしたことはないって風潮でっしゃろ?ただ、この縁談相手の桶屋のセガレってぇのが、いわゆるB専。分かります?B専ってぇのはブス専門っちゅう意味で、あんたのとこの娘さんにどうもひと目惚れしたって話やおまへんか。それをなんでわいが知っておるのかって?それはちょっとまた話がややこしくなってしまいますけんども、お訊きになりたいのなら教えまひょう。おっと、B専の件は横に置いといてくんなはれ。えっと話っていうのは、まぁややこしいややこしい、遡ること一週間前…。と、その前に、おいおい客人が見えとるのにお茶のひとつも出したりぃな。ほんま気のきかん女房ですわ。しかし亭主がこないな昼行燈じゃあしょうがありませんわな。ワッハッハッハッ。カンラカラカラ…。


って、突然本筋と関係のない創作上方落語に突入しているのはその「結果」のせいであって、決して持病の人見知りが発症したわけではないのです。すんません。

 つまり俺はその時酩酊していたわけで…。俺だけじゃなく、おおむねみんなも。ああ楽しいこと。ワッハッハ。カンラカラカラ。

 どうもまだ酔いが醒めてないみたいやね。すんまへん。で、どうなったかと言うと。


 鬼のオッサンは俺たちを、森の奥にある巨大な岩が重なるように入り口を構築している洞窟へ案内した。中は外界よりもさらに気温が低く、水滴が氷柱になっていた。頭上の氷柱を注意しながら奥に進むと、小学生の背丈ほどの小さな祠が祀ってあって、真っ白い陶磁器の徳利が供えられていた。鬼のオッサンは徳利を指でひょいと掴んで「これが試験や」と俺たち一行に差し出した。


「はーい。ワタシが説明しマース。酒呑童子の力を得るには、絶対条件として、酒に強いかどうかってのがポイントになりマス。そこで能力試験として今からこの鬼殺しの酒を呑んでもらいマス。あっ、鬼ごろしって言っても、あの…プッ。プクク。ああ笑っちゃう。あの安っすいパック酒とはちがうわよ。この落ちぶれオジサンがいつも呑んでる安パック酒でなくて、本物の鬼殺し。アルコール度数はそうね、280度ってとこかしら。え?そんな度数は無いって?だから本物の鬼殺しって言ってるじゃナイ。これ呑んで大丈夫な人は酒呑童子の勾玉を継承できマース。ね、簡単な試験でショ?ちなみに酒呑童子さん本人も昔これ呑んで酔っ払ってる間に退治されちゃいマシタけどネ。酒呑童子のくせに…プププ、ククク」


 クサビビメさんの説明によると、ほぼ毒を呑んでみろっていう話だった。惜しい人を無くしてしまった。リキ、桜ちゃんは俺が引き取るから安心してあの世で暮らせよ。と、試験とは関係のない俺は、リキの事を気の毒(まさに毒だけに)に思いつつ、目頭を押さえるふりをした。

 リキはバカなのでクサビビメさんの説明を聞いてもなお、やる気満々だった。


「そんくらいやったろうやないか!てっきり鬼と戦うんやと思ってたから拍子抜けしたわ。桜ちゃーん。オレがパワーアップするとこ見といてなー?」


 リキはにっこりとほほ笑む桜ちゃんにすでに酔っ払ったあとのように頬を赤らめながら徳利に手を伸ばした。


 その時だった。背後からギラリと二つの怪しい光がリキに近づいた。光っていたのは鋭い眼光。あっ、勘のいい方ならすぐ分かりますね。そうですね。あいつです。もちろん宇美子のバカです。


「なんであんたが先に試すのよ。最初は私が呑むでしょうが!」

 と、最後まで言う前にリキの徳利をバカが奪い取り、そのまま中身の鬼殺し(毒)を一口呑みこんだ。


 俺は内心、宇美子なら大丈夫ちゃうの?と楽観視していた。が、盲点だった。世紀の大発見だった。この世の奇跡だった。

 一口飲んですぐに宇美子の様子がおかしくなった。急に地べたにへなへなと座りこんだ。


「うう、ごめんなひゃい。今までごめんなひゃい。私なんか私なんか…。ううう」


 信じられない光景が目に飛び込んできた。あの宇美子がメソメソと泣きだしたのだ。宇美子は泣き上戸だったのか。しかし、毒を飲んで普通に泣き上戸が発動してるとこを見るとやはり普通の人間じゃないな。そら恐ろしい。


「天吾くーん。これまでひどいことしてゴメンね。私嬉しかったよ。私なんて嫌われ者だからさ、こうやって、えぐっ、えぐっ、ごうやっで…わだしに…着いてきてくれただげで…。わーん。天吾くんゴベンナザーイっっ!ぐすっ。私を嫌いにならないでー」


 宇美子は突如、滂沱の涙を流しながら俺に抱きついてきた。これはこれで恐ろしかった。でも俺の首に回された宇美子の二の腕は思っていたよりも華奢で抱かれ心地も悪くなかった。押し当てられた宇美子の胸が、コート越しでもはっきりと感触があった。鼻先に、優しい柑橘系のシャンプーの匂いがした。胸がドキドキと波打った。

「そうか、宇美子もこうやって普通にしてると可愛い女の子なんだよなぁ。よしよし、頭をこうよしよししてあげるね。よしよし」と、変なフラグが立って別のルートに分岐してしまったのは、実は宇美子の飲んだ鬼殺しのせいだった。宇美子の息を嗅いでも充分酔ってしまうという事実を知ったのは翌朝のことである。


 すっかりシオシオになって、洞窟の端の方で丸くなっている宇美子はほっといて試験は続いたわけであるが、本当のこと言うと、俺もここから先の記憶が曖昧なのだ。


 翌日クサビビメさんから聞いた話では、あのあとリキは、一口飲んで豹変してしまった宇美子の姿を見て、すっかり怖気づいてしまった。「あの宇美子がこんなことになってしまうならオレは無理なんじゃあないかなぁー」って。


「どうしマス?止めておきマスかー?」とクサビビメさんに問われたリキは、それでも震えながら徳利を口に近づけていった。

 徳利から一滴、鬼殺しがリキの口の中に入ろうとした瞬間、またも信じられないことが起こった。らしい…。


「あ、あの…。あれホントに桜ちゃんですよね?偽物じゃないですよね?」


 俺はズキズキと痛む頭を押さえながらクサビビメさんの肩を揺すった。リキは真っ白な灰となって、まだ酒の抜けていない宇美子と並んでシオシオになっていた。

 桜ちゃんはニコニコと、そのへんのアイドルなど霞んでしまう輝く笑顔を振り撒きながら、眼前に広がる海に目にも止まらぬ早業でマッハパンチを繰り出していた。

 一発一発がまったく見えないが、衝撃波が波を引き裂いて海が割れる。ものすごい轟音があたりに響く。心なしかプラズマ的な発光現象すら起こっている。


「すごーい!これ超楽しい」


 笑顔とのギャップが激しすぎる。そのシーンだけ切り取れば、もはやクライマックスの必殺技だ。ラスボスを倒すやつだ。


 そうだったんだ。なぜかリキが飲むはずだった酒呑童子の酒は、桜ちゃんが飲み干した。しかも一滴残らず。だけど桜ちゃんはまったく平気だったのだ。少しだけ明るさが増しただけで他に身体の異常はなかった。クサビビメさんの話によると、あれは酒であって酒ではなく、単に酒に強い弱いの問題ではないそうだ。そりゃそうだろう。280度などもう酒ではない。


 じゃあなんでリキじゃなくて桜ちゃんがアレを飲んだのだろう?もちろん俺も気になって桜ちゃんに訊いた。


「だってなんかおいしそうだったんだもん」


 平然と桜ちゃんは言ってのけた。それだけの理由で?


 俺は新たな不安に包まれた。

 え?桜ちゃんて本当は不良?そんな雰囲気なんかいっさいないんですけど、もしかして元ヤンとか、だから宇美子とも仲良く友達でいれたとか。いやまさか桜ちゃんに限って。なにかの間違いであってくれ。


「ふふふ」


 桜ちゃんはやはり変わらずのアイドルマスタースマイルで俺のハートを鷲掴みにしながら、鬼の力を得た轟拳を鈍色の海原に向けて繰り出し続けたのだった。

「フラッシュゴーリキーバスター!なんちゃって。ふふふ」って。


 プライドを人生で二度破壊されたリキはとうぶん使い物にならないだろうなと、真っ白の灰になったリキに同情さえ覚える俺だった。


「大丈夫。まだ神器は酒?童子の勾玉だけじゃないし、リキ君には次ガンバッテもらいましょネ」


 クサビビメさんがやさしくリキに声をかけて、リキは男泣きにむせび泣いた。ぜんぜん酔いの醒めていない宇美子も一緒になって泣いた。


 変貌を遂げてしまった桜ちゃんを見て俺も本当は泣きたかったが、その光景があまりにシュールだったので泣くに泣けなかった。代わりにどういうわけか大江山から宿泊先のホテルまで着いてきた酒呑童子のオッサンの目尻に涙が光っていた。


 俺ははっきりとこの耳で聴いた。


「わし、恋してしまったかもしれん…。あんなめんこい娘が、わしの力を継承してくれるなんて。あの娘は女神さまじゃ」と。


 オッサンてもしかしてロリコンか!ていうかオッサン何歳やねん。許さん。それだけは許さんぞ!


 インベーダーはそっちのけでどんどんややこしくなってきたこの旅は、俺たちの想像もつかないような展開を今後見せるのであるが、それは宇美子の酔いが醒める次回へ続く。


 ああややこしや。

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