第2話「もめちゃったぜ‼」

「買った‼」


 俺は手を挙げてその少女を買う宣言をした。


「えーっと…マジで買うの?ラートワだよ?しかも7歳で病気持ち。いつ死ぬか分からないよ?」


「マジもマジ、大マジよ。こんな値段で買えるんなら買うぜ‼」


「ちょっと待てぇ‼」


「おわぁ‼」


 オルガとシャトナが俺の上に覆いかぶさってきて購入の邪魔をしてきた。


 それを見た客たちはざわざわと騒ぎながら俺達の事を馬鹿な物を見るような目で見ている。


 実際馬鹿みたいな事してるけどな。


「何すんだよ。恥ずかしいからやめろよな。」


「何すんだよ。だって⁉ボスこそ何やってんのさ‼なけなしの金であんな奴隷買う必要ないでしょーが‼」


「そうです‼今にも死にそうな少女を買っても何も特にはなりません‼それならばそのお金で装備を整えた方がずっとマシです‼」


 二人は俺の購入に反対らしく声を荒げて購入の中止をしてきた。


「何言ってんだ‼こんな安く奴隷を買えるんだぞ⁉儲けだろ。病気だって薬で治るかもしれないだろ。」


「この際病気はとか年齢とかはどーでもいいよ‼でも、ラートワだよ⁉あのラートワだよ⁉タダでも買わないよあんな役立たずな種族‼」


「そうです‼正直言ってラートワ種を買うぐらいならそこら辺の動物を調教した方がまだ使えます‼」


「ラートワだって使いようでは使えるかもしれないだろ‼」


 ラートワ種。通称『役立たず』。


 亜人だが大した能力もなく、身長は大人の平均で140ぐらいと小柄な種族。力も亜人どころか人間よりも無く、走るのも泳ぐのも適していない。勿論空も飛べない。唯一の特徴としては声が他の種族より綺麗ってことぐらいである。だが、ラートワよりも綺麗な声の種族がいくつもいるので特に目立ってはいない。


 よって、普通の人は『役立たず』や『ゴミ』などと呼んで蔑んでいる。


「あのー…結局買うんです?買わないんです?どっちなんですか?買わないならとっととこの『ゴミ』を処分したいんですけど。」


 司会の男がそれを言った瞬間、ラートワ種の少女が一瞬ビクッと跳ね上がり悲しい目をした。


 しかし、すぐに死んだ目に戻った。


「買いません‼処分しちゃっていいです‼」


「はぁ⁉何言ってんだよ‼買う‼買うからちょっと待て‼」


「いーえ買いませんよ‼お金の無駄です‼」


 ギャーギャーと買う買わないの言い争いをしていると一人の婦人がケタケタと笑い始めた。


「どこかで見たことあると思ったらあの弱小マフィアの『メッソーレム』ではありませんか。何ですの?メンバーが集まらないなら奴隷をっとでも思ったんですの?でも、弱小でお金もないからラートワ種ぐらいしか買うものがないと。これは滑稽ですねぇ‼私が買ったオーガ種でも差し上げてあげましょうか?まぁ、宝の持ち腐れでしょうけど。おーほっほっほっほ‼」


 婦人が身に着けている服を見ると見たことのある有名な貴族のマークが入っていた。


「(ここは変な事が起きる前に撤収した方が吉か。ちょっともったいないけど仕方ないな。)」


「これはこれはマダム。こんな馬鹿げたところを見せてしまってすみませんでした。そうですね、俺も熱くなりすぎていたようなのでここは引くことに…」


「「買ったぁ‼」」


「えぇ⁉」


 二人はさっきまでの買わないコールとは反転、いきなり買うと言い出した。


「な、お前たち⁉何言ってんだ。さっきまで買わない言ってただろうが‼」


「んな事しらねーです‼あのおばさん馬鹿にしやがって…目に物見せるためにあのラートワ買って買わなかったこと後悔させてやる‼」


「まだ俺個人の悪口ならいいです。でも、ボスが買うと決めた物を馬鹿にし、剰えボスを馬鹿にしたことは許せません‼買ったことは正解だったとあのおばさんに思わせてあげます。」


 お前ら…俺の事をそんなに…


「泣けてきたぜ…」


「誰がおばさんですって⁉この最弱が‼」


「最弱で結構‼今に見てろよ、絶対有名になってやるんだから‼」


「あの~」


 そろそろと司会が手を挙げた。


「「「何⁉」」」


「結局購入でいいですか?」


 俺達三人は力強く


「買います‼」


 ラートワ種の少女を購入した。

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