礼拝、あるいは長い掌編、もしくは短編。

 小学校、体育館の裏、爆竹、乾いたアルミ・スチールの空き缶、土、汚れた壁、整列した木、持ち手の歪んだナイフ、眩しさ、生ぬるく清廉とした風、温度、斜陽、熱、親指を焦がすライター、風、風…………。それらは、ほとんど一斉にやって来る。一瞬の出来事に息を飲まず、炸裂する。爽やかな土の、風が匂いをする。そういった情景をどうやって思い出すか、体験するしかない。しかし、以前に体験していなくても、原風景として体に染み込んでいる。聴いたこともない音楽を聴いて、昔からそれを聴いて育った母のような懐古と安らぎ、それをただ信用し、任せられ――――実際には、それらの音楽には、不安定や危なっかしさや、昼と夜とを混ぜる物体が紛れ込んでいるが――――、すなわち、原風景である。誰が咎められる、この純粋を?

 …………規則が出来始めてから、人は好き勝手に振る舞うようになってしまった。規則は、ただの生け贄となって、民衆に飼われ、爆竹は地上すべてに及んだ。我々の愛した真昼の秘密など、壊滅的に踏みつけられ、粉になって、夜の森へ帰した。しかし、それでも自然として、私は生きている…………無意味さを確かめながら、それを学ぶように。

 窓を閉め、錠を掛ける……錠を。

 それから背の高いハンガーからコートを引ったくり、帽子をもぎ取る。自らの行為が大衆、然となって自らを轢き殺すのだから、それらを行儀よく着、からくりをする為に、ジーンズは履かず、また、くだらない先見性を躱す為に、先の尖った革靴は履かないことにする。スーツを着て、コートを羽織って、帽子を被り、これは、服装の話ではなかった。

 コォヒーを楽しんでいた彼女を僕は叩き起こした。眠りから目覚めた彼女は美しい貌を取り戻し、偶然を装っていた。嫌がっていたが、なんとなく許してくれるような雰囲気だけを出して、しかし顔はしかめ面をしていた。

「もう少し放っておいてくださいな。まだ熱いままよ。」

 彼女の言うとおり、白いカップは手に熱さを伝えた。それを構わずに口にぐいとやり続けたもんだから、舌が熱さを受けて、跳ね回る液体に火傷するかもしれなかったが、ぐいぐい飲み込んで喉を焼いた。それが数秒だった。

「ふう。熱いままだった……。」

「なにを間抜けを言うんですか。信じられないんだから、やめておけば良かったのに。あなた、やめれば良かったのに。」

「それはもういいから、早く行こう。こんな服も着たもんだから。」

「似合ってますよ……。」

 彼女が嘘をついたように感じたのは僕で、他の誰も彼女を疑わないものだった。それというのも、その後のパーティで、会う人誰も彼もが僕に敬礼をくれるもんだから、こっちも嬉しくなったという話だ…………、ということらしかった。

 

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