第5話 ワラ人形殺人事件
300名無し:はじめまして。
知人から『モリサワちゃんねる』の噂を聞き、早速、アップロードさせていただくことにしました。
迷宮入りになった事件や、警察や司法の判断に納得いかない事件について、詳細をこのBBSに書き込むと、ミステリーマニアの方々に推理していただけるとのこと。実際にここ『モリサワちゃんねる』で、過去に何件か殺人事件が解決しているとのこと。
ミステリーマニアのみなさま、是非、名推理をよろしくお願いいたします。
私は女優、春名カオリ(27)の兄で、彼女の芸能マネージャーをしています。
ニュースでご存じかと思いますが、一週間前、人気俳優、
解剖の結果、百田の胃袋から致死量を超える青酸カリが検出され、毒死と断定されました。百田はマンションに一人暮らしでしたが、彼のマネージャーがスマホも固定電話もつながらないので不審に思い、百田のマンションまで来てみたところ、百田が死亡していたのです。
当初、ドアは施錠してあり、マンションの管理人に頼んでセキュリティー会社にドアを開けてもらいました。部屋のすべての窓は内側から施錠されていて、完全な密室でした。
百田の死体はリビングルームで発見されました。椅子に座り、テーブルに覆いかぶさる恰好をしていました。テーブルにはコーヒーカップが倒れ、黒い液体がテーブルクロスに染みを作っていました。
死亡推定時刻は発見された日の前日。朝七時から九時くらいの間。実はカオリはその直前までこのマンションにいたのです。
カオリの証言では、カオリはその前の晩、百田のマンションに泊まり、朝七時くらいにマンションを後にしたとのこと。そのときは百田は生きていて、別段、健康状態に異変はなかったとのこと。
マスコミでは、警察はこの事件を事故死と自殺の両面から捜査していると発表していますが、実はもう一つ、他殺の疑いで捜査しているのです。
しかも妹のカオリを容疑者と考えているのです。その根拠は、カオリは百田に最後に会った人物なので、百田に毒を盛った可能性が最も高い、とのことらしいのです。
ゴシップ週刊誌をよくお読みの方なら、当代きってのイケメン俳優、百田昌弘が稀代のプレーボーイであることはご存じでしょう。
女優、女子アナ、雑誌モデル、アイドル歌手といった芸能人から、民間人のプロ彼女まで。これまで百田が一体、何人の女性と浮名を流したことか、数え切れないほどです。
とりわけ一年前、百田のマンションに半年間、同棲していた女性の自殺事件は、かなり大きなニュースになりました。みなさんも覚えていることと思います。
自殺した
美穂は百田と結婚するつもりだったのですが、ある日、写真週刊誌に百田が女優の
それを知った美穂はショックを受け、近所の神社にある木に百田の名前を書いたワラ人形を打ち付け、枝にロープを結んで首吊り自殺をしました。
遺書のようなものが木の下に落ちてましたが、百田を「呪い殺してやる」というようなことが書かれていました。
この事件があってからしばらくして、百田は新しい恋人である高木麻衣とも破局したようです。まあ、彼女も百田同様、色恋沙汰のスキャンダルが多い女優ではありますが・・・・。
ネットのSNSやブログでは、今回の百田の死をワラ人形の呪いだとする興味本位の書込みで、ちょっとした”祭り”になったことはご存じでしょう。一般大衆は無責任なものです。
ところで今から一月前、私は妹のカオリと一緒に、百田のマンションに一回だけ行きました。
実は、カオリは非公式ですが百田と婚約していたのです。二人とも仕事が一段落する半年後に挙式しようということになっていました。
カオリがいつから百田とつき合い出したのか、詳しいことは聞いていません。カオリが百田と結婚したいと最初に言い出したとき、私は強く反対しました。あんなチャラ男に大切な妹などやれるものか、という兄としての気持ちからでした。
数年前に父を亡くしてから、私はカオリの兄というより父親代わりのつもりで妹を大事に守ってきました。それだけにカオリの結婚には人並み以上に慎重になってしまうのです。
ところがカオリは私の話をどうしても聞きません。是非一度、百田に会ってほしい。百田に会えば、悪い人じゃないことがわかる。カオリは何度も私にそう言うのです。
仕方なく私の方が折れ、百田に会うことにしました。
百田のマンションは世田谷の住宅街にありました。
百田はテレビで見るよりも礼儀正しい男で、私たちを応接室に通すと、コーヒーを淹れてくれました。
私が砂糖はないかと尋ねますと、百田は「気づきませんでした」と言って棚から大きな広角瓶を取り出しました。中にたくさんの角砂糖が入っています。
甘党の私は角砂糖を三つカップに入れ、よくかき混ぜてからコーヒーを飲みました。
「百田さんは砂糖は入れないんですか」
私が訊くと百田はカオリと顔を見合わせて微笑みました。
「ぼくたち俳優は、いつもダイエットしてスリムなボディーを維持してるんです。ちょっと太っただけで仕事のオファーが激減するかもしれないでしょう。だからいつもコーヒーはブラックで飲むんです。たまに砂糖を入れますけど、どんなに多くても角砂糖一つですね」
「兄さんたら」カオリが言いました。「芸能マネージャーやってるくせに、そんなことも気づかないの」
「それにしては瓶にいっぱい角砂糖が入っているじゃないですか」
「まあ、砂糖は腐るもんじゃないし。ぼくはこの先、一生、角砂糖を買わなくていいかもしれません。一生分の角砂糖がこの瓶に入ってますよ」
百田は仕事の話を始めました。特に最近の海外ロケでの面白いエピソードをいくつか披露しました。私はつい話に引き込まれ、百田とすっかり意気投合していました。
だから百田が真顔で
「カオリさんをぼくにください」
と言ったときも、二つ返事で、
「ふつつかな妹ですが、よろしくお願いします」
と答えました。
本当は妹との結婚を諦めてもらう心づもりで百田のマンションに来たのにです。
さて、百田に会った日の三日後だったでしょうか。
都内のホテルで映画『略奪愛クリニック』の制作発表がありました。
主演は高木麻衣。百田昌弘と春名カオリは夫婦役で出演します。
麻衣演じる看護師が百田演じる医師と不倫し、それを知った妻役のカオリが夫を銃で殺します。
さらにカオリが麻衣を殺そうとすると、逆に返り討ちにあって麻衣に殺される、というストーリーです。
百田にとり、麻衣は一年前に別れた恋人です。
後から知ったのですが、週刊誌の記者が「高木さんと共演はやりにくくないか」と質問すると、百田は場を盛り上げるつもりか麻衣にキスして「今も仲いいよ」と記者にウインクしてみせたそうです。
警察がカオリを百田殺しの犯人と疑っているのは、この制作発表が関係あるようです。
つまり婚約しているはずの百田がカオリの目の前で麻衣とキスしたのです。だから嫉妬にかられたカオリが百田を毒殺したというのです。
春名カオリと言えば、ライバルと目される高木麻衣とともに”悪女専門女優”、”不倫ドラマの女王”との異名をとり、映画やテレビドラマでは”悪女役”をよく演じます。
だから日常生活でもカオリは”悪女”ではないかとよく誤解されます。
でも演じる役と素の本人は同一のキャラクターではありません。
高木麻衣のことはよく知りませんが、カオリに関するかぎり、素顔の彼女は決して悪女ではありません。
カオリはとても誠実でやさしい女性で、人に嘘をついたり、裏切ったりすることはありません。ましてや人殺しなんかするわけがありません。
これは兄として断言できます。
『モリサワちゃんねる』の名探偵のみなさん。どうか妹の無実を証明してください。よろしくお願いします。
******************
301小五郎:さて、ハンドルネーム、小五郎です。300からお題をいただきました。今回はマンションの密室殺人事件です。おっと、殺人事件と断言してしまいましたが、事故死や自殺の線もあるかもしれません。住人の名探偵諸君、いつものように推理をお願いします。なお、できるだけコテハンを使ってください。
302涼子:時系列に事件を整理する必要がありそうね。
2014年7月頃 百田昌弘と高木麻衣がラブホテルから出る
2014年7月頃 東福寺美穂が首つり自殺。百田のワラ人形を木に打ち付ける
2014年8月頃 百田と麻衣が破局
2015年6月頃 春名カオリ、春名哲也が百田のマンションを訪問
2015年6月頃 『略奪愛クリニック』の製作発表。百田が麻衣にキス。
2015年7月19日 カオリが百田のマンションに泊まる。
2015年7月21日 百田の死体が発見される。死因は青酸カリの服用。
303耕介:事故死や自殺の可能性はないのか。
304光彦:自殺の可能性は低いでしょう。百田みたいに女にもてる男が自殺なんか考えるわけありません。まだワラ人形に呪い殺された可能性の方が高いでしょう。
305耕介:それは違う。おまえが女にもてないから、もてる男の気持ちがわからないだけ。もてる男もそれなりに悩むし、死にたくなることもある。太宰治みたいに女と心中しては失敗し、最後に自殺した例もある。
306涼子:百田は前の晩、カオリと過ごしたのよ。美男美女の恋人同士の若い二人が、その晩何をしたかは、誰でも推理できるでしょう。二人は別に心中なんか企てなかったようだし・・・・。むしろ百田は、自殺とは一番遠い、幸せの絶頂にいたんじゃないかしら。だとしたら自殺の線は消えるわ。
307光彦:事故死の可能性もないはずです。青酸カリなんて、普通の人は簡単に入手できないでしょう。砂糖を塩と間違えることはあっても、青酸カリを間違って飲むなんてことはあり得ない。
308耕介:だったら、自殺や他殺だって同じだ。青酸カリなんて簡単に手に入らない。
309涼子:つまり、もう答えは出たみたいね。
310耕介:どういうことだ。
311涼子:300の話の中で、青酸カリを入手できる人物は、いるとしてもたった一人しかいないわ。薬剤師の東福寺美穂。彼女が犯人よ。彼女は薬物の専門家でしょう。
312光彦:美穂は一年前に死んでるんですよ。どうして死者が百田を殺せるんですか。ワラ人形の呪術ですか。
313涼子:一年前、美穂は自殺する直前に、青酸カリを液体にして角砂糖に注射したのよ。それを角砂糖が入った広角瓶に混ぜた。それも瓶の底、あるいは真ん中あたりに混ぜたんじゃないかしら。
同棲している美穂は内縁の妻のようなもの。百田が仕事で外出しているときに、いくらでもそんな細工をする時間はあったはずよ。
瓶の一番上に毒入りの角砂糖を入れておいたら、百田は数日後にそれを口にしていたかもしれない。でも瓶の真ん中に毒入り角砂糖が入っていたらどうかしら。百田はコーヒーはブラックで飲むのよ。たまに角砂糖を入れても一個だけ。その他、コーヒー以外の用途で角砂糖を使うことがあっても、容姿を気にする百田は基本的にいつもダイエットしてるのよ。滅多なことで角砂糖は使わないわ。
角砂糖が最も消費されたのは、春名哲也のような甘党の訪問客にコーヒーを出すときだったかもしれない。
いずれにせよ、美穂が仕込んでから一年後に百田は毒入り角砂糖を口にした。
モーニングコーヒーに入れて飲んだのよ。
美穂はもちろん百田への殺意はあったわけだけど、ある意味、百田の死は事故死でもあるわ。いつ百田が死ぬのか、美穂にもわからなかったかもしれない。
なにしろ一年後に爆発する時限爆弾を仕掛けたようなものだからね。
婚約したはずの百田が高木麻衣と不倫したことを知り、美穂は自暴自棄になった。毒入り角砂糖を広角瓶に混ぜたのは、ワラ人形や首吊り自殺とともに、自暴自棄になった彼女が思いついた百田への復讐だったんじゃないかしら。
314小五郎:一通り意見は出たようですね。今回は涼子さんにポイントを差し上げてよろしいでしょうか。
315耕介:つまらねえな。
316光彦:異議ありません。
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