第7話 バイトとの話2
「……奪う?」
バイトが言った言葉の意味が、最初は理解できなかった。
「どういうことだ?」
「どうって……」
彼女は自分の言ったことの意味が通じなかったことに戸惑っているようだった。
「博士は、お二人の結婚を阻止したいんですよね?」
「ああ」
「えーっとですね……つまり、その二人が結婚してしまう前に、博士がその女の人と結婚しちゃえばいい、ってことです!」
「……お前は何を言ってるんだ?」
ようやく言葉の意味は理解できたが、今度はその提案の意味を理解することができなかった。なぜ俺が出てくる?なぜ俺が結婚することになっている?話が飛躍しすぎている。
「え?だって、博士はその方が好きなんですよね?」
「……いや、好きではないが」
「え?あれ??」
彼女は頭に?マークを浮かべていた。
何か話が噛み合わない。なぜ好きかどうかの話になる?これが恋愛脳というやつなのだろうか。俺は彼女に意見を聞いたことを後悔し始めていた。
そんな中、バイトは首をかしげながら言った。
「好きじゃないのなら……なんで、博士はお二人の結婚を止めさせたいんですか?」
……なるほど。こいつは俺が結婚を阻止したい理由を何か勘違いしているようだった。俺が女の方に好意を持っているから、結婚を阻止して自分のものにしたい……確かに、安易に思いつく理由としてはまっとうである。もっとも、本当の理由を言うつもりはないのだが。
とにかくこのままでは埒があかない。突拍子もない意見だったため最初から否定的になってしまったが、俺一人では思いつかないような意見が欲しかったのも事実である。そもそも相談をしたのは俺なのだから、こちらが相手を理解するよう努めなければならなかったのだ。一度このバイトの提案を受け入れることから始めよう。
冷静に彼女の案を分析してみる。
2人が結婚するのを阻止すればいいのだから、代わりに他の誰かと結婚させればいい__たしかに一見理にかなっているように見える。問題は結果ではなくその手段であった。代わりをどこから持ってくるかという点である。
向こうの世界で誰か適当な男を見つけアルティミシアにあてがう……これは現実的では無かった。彼女はあの部屋にいわば閉じ込められている状態であり、自然な形で出会わせる状況を作りだすのは困難だった。
城内の誰かであればどうだろうか。例えば給仕係……この前の騒ぎに駆け付けた兵士でもいいかもしれない。しかし、これもなかなか難しいだろう。彼らは城に仕える忠誠心の高い兵士達だ。結婚を控えた姫、ましてやその相手は彼らの主君である。万が一にも彼らが主君から姫を奪い取るという行動に出るとは考えられなかった。
こちらの世界から誰か男を連れて行き彼女に合わせるという選択肢もあったが、これは物理的、時間的に難しかった。人一人のオフセット解析には時間がかかり、解析後も隣世界へ移動するには様々な作業が必要であった。そもそも適任な男をどうやって探すかという問題もあるし、当然そのような知り合いはいない。
……俺か。
確かにこの案を採用した場合、適任となるのは俺だった。自然な形かどうかはともかく一度話をしている。再び話をするのは造作もないだろう。城の関係者どころかその世界と何の関係も持たないため身分についてはどうでもいい。隣世界へ行き来するのも比較的容易である。
しかし……全く気は乗らなかった。
理由はいくつかあるが、一番の要因は、そもそもこの案自体に確実性がないことであった。というより、人の感情が絡んでくる問題においては、こういった確実性自体が存在しない。結果が他人にゆだねられる問題は俺が一番嫌いなものであった。
ただ、他にいい案があるかと言えばそういう訳ではなかった。そして、これからも何かいい案が出てくるとは考えられなかった。
よって、現状はこの案を主軸としつつ、他の手段を探していくことが今出来る最善策であった。
「あのー、博士?」
俺が急に黙ったのを見かねてか、バイトは心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。
「一つ質問いいか?」
「あ、はい!なんでしょう?」
案を採用する前に一つ、確認しておかなければならない事がある。
「お前から見て、俺はどう見える?」
「……と、言いますと?」
質問の意味が分かっていないようだった。あまり何度も言うのは躊躇われたが、仕方なく説明をする。
「恋愛、結婚という面から見て、俺はどう評価できるか、ということだ」
俺は恋愛……という以前に、人間関係において他人からどういう評価を受けているのか知らなかった。そもそも、知る機会が無かった。ようは、データが無いのである。少しでも周りからの意見を聞いて、客観的にこの案の成功率を見ておくのは当然とも言える。
「えっと、どうって言うか……」
彼女は苦笑いを浮かべながら、一言だけ言い放った。
「まずは……髪、切っちゃいましょうか」
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