第4話 少女との話3

「では、2つ目の質問です!」


アルティミシアは手をブイの形にしながら元気に言った。


「アイシタエモン様は、何故私の元に現れたのでしょうか?」


「言えない」


「そ、即答ですね……」


この質問は予想しているものだった。よりにもよって世界を滅ぼす可能性のある張本人に今目的を言うわけにはいかなかった。後々動きにくくなるかもしれない。よりにもよってその本人から情報を聞き出しているわけではあるのだが……


「質問はあと2つだ」


「ええっ!?今のも数に数えるのですか!?」


「当然だ」


「ううっ……分かりました……それでは3つ目の質問です」


ここまではテンポ良く進んでいた彼女の質問だったが、次の質問は少し言うのを躊躇っているようだった。


「アイシタエモン様は、その……もしかして、"御心の大精霊様"、なのでしょうか?」


何だそれは。


「何だそれは」


心の声をそのまま口に出した。


「い、いえっ、違うのであればいいのです!」


アルティミシアは少し赤面しながら答えた。


「前に、そういった本を読んだことがあるのです。精霊様はそのお姿を見ることはできず、頭の中に直接語りかけてくると……あなた様が今、まさにそのような存在であるので……」


そういえば未だにステルスは解いていなかった。割と対面で普通に話していたためあまり自分が消えている感じはしなかった。


「お前、今、頭に直接語りかけられてるように感じるか?」


「い、いえ、普通に正面から声が聞こえてきます……あっ!でも、最初にあなた様の声が聞こえた時は、頭どころか全身に声が響き渡るようでした……あの時は人生で一番驚きました……」


彼女はその時を思い出しているようで、心臓に両手を当てて呼吸を整えていた。


「俺は人間だ」


ステルスは解かなかったが、そこは正直に答えることにした。精霊として話を通していこうかとも一瞬考えたが、なんというか、普通に恥ずかしかった。


「人間……なのですか?」


彼女は確認を取るようにそう言った。


「人間なのでしたら、それでは、最後の質問なのですが……」


当然、最後に残った疑問を彼女はぶつけてきた。


「あなた様は、なぜお姿が見えないのでしょうか?」


正直、一番最初に来るかと思っていた質問だった。勿論姿を見せるわけにはいかなかったので、再び「言えない」と口にしようとしていたのだが……


「姿を消す"心術"なんて聞いたことがありません……」


「……ほう」


ここへ来て、とても興味深いことを彼女は口にした。


「"シンジュツ"とはなんだ?」


「心術をご存じないのですか?」


彼女は、そんなまさか、とでも言いたげな表情を見せていた。


「そうですね……心術が何か、ですか……皆当たり前に知っていることなので、改めて説明するとなると中々難しいのですが……」


彼女うーんと頭をひねりながら、説明を始めた。


「簡単に言えば、"人が、その者の持つ潜在エネルギーを目に見える形に変換して放出する力"、と言ったところでしょうか……」


「"目に見える形"とはどんな形だ?」


間髪入れずに質問をする。


「それは人によって様々です。"炎"として放出する者もいれば、単純に"筋力"に変換して身体機能を強化する者もいます」


「人間一人が放出するエネルギーの規模はどれくらいだ?」


続けざまに俺は質問を投げかける。


「それも人によって様々、としか申し上げられません。一般の方々であれば生活に役立つ程度……軍人の方ともなると、心術だけで人を殺めるほどの力を持つ者が多いです。とても優秀な心術使いの方であれば、一人で1つの軍隊に匹敵する戦力になる者もいます」


「お前の心術はどうだ?」


ここで俺は最も聞きたかったことを質問した。返答次第では、この少女が特異点である理由が分かるかもしれなかった。


「私は……心術を使えません」


「使えない……?」


予想外の返答だった。


「先ほども申し上げましたが、放出する力の大きさは人によって様々です。中には、心術を使えない者も少しの割合で存在します。私も、その中の一人です」


「力の大きさは遺伝によって決まるのか?」


これが、今日最後の質問だった。


「ある程度は遺伝も関わってきますが、極端に力の強い者や力を持たない者は、突然変異のような形で発現することがほとんど……です」


そう話す彼女は、今までと比べて元気がないように見えた。




とにかく、いくつかの収穫を得ることができた。


「帰る」


今日はここまでにしておこう。既に夜も更けてくる時間帯であったし、状況の整理も必要である。何より、単純に喋るのが疲れた。今日一日だけで普段の一週間分は喋ったように思う。帰りたい。



「あっ……」


元気の無くなっていた彼女の顔が、さらに曇った。


「お帰りに、なさるのですか?」


「ああ」


「あ、あのっ!」


彼女は引き留めるように声を上げた。


「また、ここに来ることはあるのでしょうか……?」


「分からん」


俺は正直に答えた。


「私、大体はこの部屋で本を読んでいるだけなので、またいつでもお越しください!」


(彼女からすれば)誰もいない空間に向かって、アルティミシアは大きくお辞儀をした。


俺はそれ以上は何も言わず、時空の狭間に消えた。






自宅に戻り、状況を整理する。


特異点の姫、アルティミシア……

王子との婚約……

心術の存在……

彼女は心術が使えない……


これらの情報を加味した上で、ある仮説を作りだす。



「……子供、か」


まだ一つの可能性に過ぎないが、彼女と王子との間に生まれる子供が、世界を滅亡させる何らかの原因になるかもしれない。彼女自身は心術を使えず、しかし特異点であることを考えると、この仮説が今のところ一番可能性が高かった。


いずれにせよ、彼女と王子の結婚が最大のファクターであることは間違いなさそうだった。


問題は、それをどう阻止するかだ。


さあ、考えろ……


そう思いつつも、疲労と眠気がピークに達していたため、俺はベッドに転がり込むとすぐに眠った。

普段は研究部屋で眠ることが多いため、久々のベッドであった。

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