第3話 少女との話2

「お前は何故この部屋から出ない?」


早速、一番気になっている疑問をぶつけることにした。


「部屋から出ない理由……でしょうか?」


そう聞き返すと、アルティミシアは少し下を向き考える素振りを見せた。


「あの……」


「なんだ」


「失礼なことをお聞きしますが、あなたは、敵国のスパイか何か……でしょうか?」


恐る恐るといった感じで彼女はそう聞いてきた。質問を質問で返されるのは好きではなかったが、たしかにこちらが敵なのかどうかを先に判断しておくのは意見としてはもっともである。が、それを相手に直接聞いては駄目ではないか……?そう思いつつ、俺は正直に答えることにした。


「違う」


「そうなのですか……!それは良かったです」


そう言うと彼女はふっと緊張をほぐし安堵の表情を浮かべた。色々な意味で良くないと思うのだが、あまり無駄な話をしたくなかったためこちらの質問に戻ることにした。


「それで、何故お前はこの部屋から出ない?」


「そ、そうでしたね。何故部屋から出ないか……ですか」


「うーん、何故かと聞かれますと……部屋から出られないといいますか、出る必要がないといいますか……」


ぶつぶつと言葉を選びながら、彼女は何から話そうか考えている仕草を見せている。


「そうですね……話すと少しだけ長くなりそうですが……」


「構わない」


俺はすぐにそう答えた。


「分かりました。それではお話しします」


コホン、と一つ咳払いした後、彼女は話し始めた。


「まず最初に……私はまだ、この国の人間ではないのです」


「まだ、というと?」


俺の問いに、彼女は目を閉じながら答える。


「近く……私はこの国の王子と結婚します」


目を閉じたまま、彼女は話を続けた。


「この国では、17歳を過ぎてからでなければ結婚することができないという決まりがあります。そのため、私は17の誕生日を迎えるまでこの部屋で過ごすことになっているのです」


そこまで喋ると、彼女は目を開き、少し困ったような顔をした。


「なので、この部屋から出たところでお城の方々のお邪魔になるだけですし、そもそも部屋を出る理由もありません」


なるほど……つまり、彼女は今、丁重に扱うべきお客様という扱いを受けているということになる。あくまで外部の人間であるため、勝手な行動は控えているとのことだった。


いくつか腑に落ちない点もあるが、大事なことから優先的に質問することにした。


「誕生日までどれくらいだ?」


「誕生日まで……あと、50日ほどでしょうか」


「王子は今どこにいる?」


「王子……ローゼ様は、只今遠征中とお聞きしております。お忙しい方ですので……」


「結婚するまでの間何かイベントはあるか?」


「さあ……私自身はまだ把握しておりません。あ、あの……」


矢継ぎ早に質問していく中、彼女はそれを一旦遮った。


「私からも、あなた様について質問をしてよろしいでしょうか?」


「駄目だ」


俺は即答した。

こちらについての情報を話すことは極力避けたかったし、あまり無駄な時間を取りたくもなかった。


これで簡単に諦めてくれると思っていたが、意外にも彼女はむーっとした表情をしていた。初めて見る不満顔である。


「それは少し、不公平だと思います!」


「不公平……?」


質問に不公平も何もないと思うが……


「そうです!私もあなた様のことが知りたいです!あなた様は4つ私に質問をされました!なので私も4つ質問をします!」


彼女は興奮気味にそう答えた。あまり声を大きくされるとまた兵士がやってくるかもしれない。俺は仕方なく了承することにした。


「答えれる範囲で答える」


「やった!」


不満気だった顔が一瞬で晴れていく。最初に持っていた彼女の印象が、少しずつ変わっていく感じがした。


「ではまず、お名前を教えていただけませんか?」


名前……それが質問?名前を知ってどうするんだ?

そう思ったが、名前自体は別に隠す必要性は感じられなかったため、素直に答えることにした。


「相下衛門……だ」


「あいしたえもん……アイシタエモン様でございますね!」


恐らく姓名合わせて名前だと勘違いしているが、訂正は面倒な為しなかった。


「変わった名前ですね……あっ、でも私の名前と似ています!……ああっ!!」


彼女は言葉毎に慌ただしく表情を変化させていった。観察時に物静かな印象を持っていたためか、その落差に少し気圧されてしまう。


「申し遅れました!私、アルティミシア・ラ・ラードミリと申します!」


「……ああ」


アルティミシアは素早く頭を下げた。とうに知っていたが、とりあえず相槌を打っておいた。


「それで名前なのですけれど、アルティミシアとアイシタエモンって、ほら!なんとなく似ている気がしませんか?」


まるで大発見でもしたかのように、うれしそうな表情で彼女は話す。


「……そうだな」


頭文字と語数しか合ってないが、とにかく無駄話をしたくなかったためとりあえず肯定しておいた。なんか、こいつと喋るの疲れてきたぞ……

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