たけちゃん台風

@britney

第1話

おおきな、おおきな、嵐のよる、たけちゃん台風はママ台風の目のなかから、ぽんっと生まれました。


たけちゃん台風には、お兄ちゃん台風がいました。お兄ちゃん台風はいつもママ台風のまわりをびゅんびゅん走りまわっています。


たけちゃん台風は、ママ台風に抱っこされたり、背のたかいパパ台風にかたぐるまして貰って、お兄ちゃん台風を応援しています。


お兄ちゃん台風は速いぞ〜。たけちゃん台風はうれしくてしようがありません。お兄ちゃん台風はすごいぞ〜。


そのうち、たけちゃん台風もお兄ちゃん台風のように空を駆け巡りたくなりました。


ある秋の嵐の日、そらに舞う黄金色の葉っぱをお兄ちゃん台風が追いかけていました。

ぴょん、くるくる、ぴょん、くるくる。

なかなか葉っぱはつかまりません。

ぴょん、くるくる、ぴょん、くるくる。

たけちゃん台風もお兄ちゃん台風と一緒に葉っぱを追いかけ始めました。

ぴょん、くるくる、ぴょん、くるくる。


ふと気付くと、二人の台風は葉っぱを追いかけてパパ台風とママ台風から離れてしまっていました。


ポトポトポツポツ、ポトポトポツポツ。


地上の葉っぱを追いかけていた、たけちゃん台風とお兄ちゃん台風の頬に温かな雨粒が落ちて来ました。


ポトポトポツポツ、ポトポトポツポツ。


真上の雲から、温かな雨粒が落ちて来ます。


ポトポトポツポツ、ポトポトポツポツ。


たけちゃん台風とお兄ちゃん台風はその雲に近付いて行きました。


すると雲の上には、太郎ちゃんという男の子が膝を抱えて俯き泣いていました。

温かな雨粒は男の子の涙なのでした。


温かで優しい涙は、太郎ちゃんのお父さんの為に流されたものでした。

お父さんが倒れて太郎ちゃんはショックのあまり眠れなくなってしまっていました。


僕たちに任せて!

たけちゃん台風とお兄ちゃん台風は太郎ちゃんのお父さんが入院している病院まで急いで飛んで行きました。

窓から病室に眠る太郎ちゃんのお父さんと傍で泣く太郎ちゃんが見えました。


たけちゃん台風とお兄ちゃん台風は目一杯の力を込めて病室を包み込みました。

窓ガラスがメリメリと軋み、コンクリートの壁はドドドドと低い音を立てました。

お兄ちゃん台風のエネルギーは力強く、うねりを上げ、たけちゃん台風の力も引き上げられて行きます。

メリメリ、ドドドド。

メリメリ、ドドドド。


太郎ちゃんのお父さんを明るい光が柔らかく照らしていました。


もう大丈夫。

お兄ちゃん台風はそういうと、またびゅんびゅん空をかけめぐり始めました。

西にびゅんびゅん。

東にびゅんびゅん。


待ってよ、お兄ちゃん!

やっとお兄ちゃん台風に追い付くと、太郎ちゃんの笑顔が見えました。

太郎ちゃんとお父さんとお母さんがにこにこ笑いながらひろい公園を歩いています。


たけちゃん台風は安心して、お兄ちゃん台風に言いました。

さあ、僕たちも帰らなくちゃ。

二人の兄弟は仲良く追いかけっこをしながら、パパ台風とママ台風が待つ南の海へと帰って行きました。

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