小さな手

俺は走っている。

その理由はいくつもあるがまず

俺が何者で何をしようとしているのかを説明しよう。

俺は服部氷馬。

そして俺の中には後3人いる。

そう多重人格なんだ。

まず一人が|炎鹿(えんしか)。

こいつが元々この体を使ってた。

もう一人が|月鴉(つきからす)。

こいつは俺の後に出来た。

正確にはもうつい最近生まれた。

俺、いや俺たちは高校2年生だ。

俺たちには一人親友がいる。

小1ぐらいからの腐れ縁。

|水羽勇人(みずばねゆうと)だ。

こいつが、すっげぇんだ。

まずもてる。むちゃくちゃにもてる。

そして勇気がある。

まあそれを証明する事として

何度も異世界に行って

世界を救っている。俺と一緒にな。

その過程で色んな女の子に出会ったりもした。

俺と、水羽は魔法が使える。

俺の彼女のマーガレットもそうだがな。

更に言うと俺は『イザナギ』とか言う

神が気まぐれで創った運命の子だったりもする。

そのせいで今まで大変な目にあっていたのだ


さて次に俺が今何をしようとしているかだ。

一言で言うならば「過去に行こうとしている」だ。

まあ意味分からんな。

じゃあもう少し言葉を増やす。「過去に行って、今起きているそして今まで起きたすべての元凶を

絶つために時間魔法を使おうとしているが

それを使えるには魔法の元となるマナが必要な為

そのマナが豊富な世界に行こうとしている」

どうだ。分かりやすいだろう。


さてじゃあ次に今おきている事についてだ。

今起きていることは大きく分けて二つある。

まずひとつ。『イザナギ』を脅威に感じた神が

俺を消そうとしていて今年の冬まで持つはずなんだけど

と思っていたら何者かがこっち(神の世界じゃない)の世界で

俺を消そうとしていてそのせいで6月ぐらいまで(後1ヶ月)しかもたなくなった。

それで|仲間(ともだち)の一行が何とか神が消してこようとするのを防ごうとするのを

手伝ってくれるという事になった。

もう一つ。そんなこんなで俺の彼女が何かつかんだらしく俺を呼び出して

俺が駆けつけたときには死んでいた。


さて説明は大体終わった。

では俺が走ってる理由を教える。

まず一つ。マーガレットの死体を発見した俺を見ていた何者か(多分いなかったと思うが)が

俺が殺したんじゃないかと疑い警察を呼ぶかもしれないから。

そしてもう一つ。神が本気で消しにくるんなら

早く過去に戻らないとマジで消されるから。

もう一つ。こんな状況で歩いてられるほど

俺は冷静じゃないから。

最後に一つ。時空移動魔法は使うのが大変で

多くの魔力を使いその魔力は戻る時間が多いほどに多く使うから。

以上だ。分かってくれたと思う。

そんな訳で俺は走る。

全てを打破するために。



俺は走って走ってヴァルハラに行く道がある

神社に行った。

なんだかんだ色んなところに行く為に色んなとこからあっちに行ったが

最終的にはここからあっちに行ける。

まあ、移動できる魔法があればだけどな。

移動できる魔法は、マナの少ないこの世界でも

らくらく使える。

神社みたいに元々ドアが開いてるとこじゃな。

さて俺は移動魔法『マラール』を使いヴァルハラに向かった。


通常各世界には柱と呼ばれる統治している者がいる。

俺たちの世界なら『マルン』という奴、

ヴァルハラなら『バーテスラン』だ。

彼らは特に強いわけじゃないが

権力を持っている。

それと長生きして培った知恵や知識もな。

さて俺はヴァルハラに着いてすぐ『バーステラン』のもとに向かった。

ヴァルハラの住民にも迷惑をかける事になるだろうからだ。

時を戻すからな。今は急ぐ必要はない。

奴がいるのは、ヴァルハラの中心にあるマザーラの塔だ。

高さは1000メートルを超えている。

そこに向かうにあたり俺は移動魔法を使う。

先程のとは種類が違う。

さっき使ったのは次元移動魔法『マラール』。

そして今使ったのは今居る空間の中で移動するいわゆるワープ的な魔法、

正式名空間移動魔法『ジーラル』だ。

ただこの『ジーラル』マナが多いところでしか使えないのだ。

これが元の世界で使えたら登校が楽なのに・・・・・・。

そうこうしている内に俺はマザーラの塔に着いた。

塔の門の前にはごっつい騎士が居る。

右に居るのがゴク、左に居るのがマゴクだ。

「服部殿、何用でございますか?」

ゴクが言った。こいつは礼儀が正しい。

「ゴク、こんな奴程度に

敬語など使う価値もない。お前は誰にでも

礼儀正しくするでない。」

といったのがマゴク。

水羽にはライバル意識をもっているんだが

俺はマゴクからするとおまけなのだという。

水羽のな。当たらずとも遠からずされど当たりに近しってとこだな。

「何を言いますかマゴク!!!服部殿。

すみませんでした。うちのマゴクがご無礼を・・・・」

とゴク。

「それで、用件は何でございましょうか?」

更にゴクが聞いてくる。

「ああそうだった。『バーステラン』は居るか。

居るなら呼んでほしい」

俺は言う。

するとゴクは伝達魔法『ザス』を使って『バーステラン』を呼んだ。

「何だ氷馬?

また事件か。生憎もうアドバイスできる事はないぞ」

俺たちは『バーステラン』に魔法を習った。

「まあ事件だ。しかも神が関わるな。

よく聞け、俺はこれから8年前に戻る。そして今までの事件の元凶をつぶしてくる。

だが、神や運命の子が関わってくる。

ヴァルハラにも迷惑かけるだろうが頼んだぞ。」

俺は一方的に言う。

「神、運命の子・・・・・。

分かった、気をつけるんだ。時空を移動する事は危険を伴うからな。」

『バーステラン』に別れを告げ俺は魔法を使う為広い場所に行く。

「はぁ・・・・・・・・・・・。」

『バーステラン』が言っていた危険について説明しておこう。

まず時間魔法と呼ばれる魔法はマナを使う。

非常に多いな。だが、最低マナをつかわあんくても出来なくはない。

時間魔法を使う方法。それは過去の記憶を受け入れる事だ。

まず、時間魔法というのは過去に自分と多くの人間が不幸になる時のみ使える。

そして使うとき不安感という概念が異常なほどに強くなる。

恐怖が増幅し通常の100倍以上になる。

そして使ったとき、過去の記憶が一度に流れ込んでくる。

不安感で胸がいっぱいになる。

つらくて怖くて死にたくなって、

でも死ぬのも怖くて独りぼっちになる。

それでも耐えられたとき過去に行ける。

ちなみに元の時間より先にはいけない。

過去に戻ってから帰ってくる事は出来るがな。

ただそれは不安定で、自分じゃ帰れない。

つまり俺はその危険性を持っていながら時間魔法を使おうとしている。

「氷馬は何でも一人で背負うからさ。

マーガレットの事、今までの事、

全部一人で背負おうとしているだろうけど

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

皆で背負えればいいんだよ。

忘れないでね」という水羽の言葉が胸を覆う。

不安だけど、一人じゃない。

8年前にも水羽が居る。

だったら一緒に居ればいい。

一緒に変えればいいんだ。

「後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー!!!」

こういう大きな魔法には呪文が必要なんだ。

ちなみにギランセルクーというのがこの魔法の名前だ。



そして俺は過去に戻った。

本当の戦いが始まる。。



俺は過去に行った。

正確には8年前に行った。

しかし、俺はこの魔法を使えるのは知っていたが

実際使った事が無かったので過去に本当に戻っているのか不思議だった。

だが、もはや俺は、異界に行ったり

魔法を使ったりしているんだ、時が戻せても不思議には思わない。

とはいえだ、神や柱すらも超える事が出来ないんだ。

過去に戻るってのは実際出来る事なんだろうかという疑問は残っている。

「う・・・・・あぁ・・・・・」

俺は嘆いている。上記のように考えている暇なんて無い。

つまり上記のような感情は過去に戻って後で感じるもののはずだ。

大抵タイムスリップするときにはつきものだからな。

とか言うことを言ってる暇もない。

「やめろ、やめろぉ。

黙れ黙れ。うるさいうるさい。

違う違う。うぅあぁ・・・・・・・・・。」

今まで感じてきた感情がまとまって襲ってくる。

この8年間にあったことの全てが流れてゆく。

マーガレットを助けた事。

炎を救ったこと。初めてヴァルハラにいって

バーステランと戦って世界を救った事。

その時々に出てくる、ヒロインたちとの

別れや彼女たちの死。

救え切れなかった命の全てが俺を呪う。

その全ての死が俺のせいでもたらされたもの。

そう思うと更に恐怖が襲ってくる。

「違うんだ・・・・。

違う、知らなかったんだ。

全部俺には関係ないとばっかり思っていたから・・・・・・・。

全部水羽に任せてたから・・・。

だから気づけなかった・・・・・。

俺は・・・・・俺は・・・・・・。

何にも考えずただのうのうと。

やめてくれ、やめてくれ。頼む許してくれ。

俺に力が無かったから・・・・・・。

もっと力があれば・・・・・・。

全て人任せにしてたから。

でも・・・・・・。

今なら今なら出来る。もう一度やる。今度こそ救う。だから・・・」

俺は両耳をふさぐ。怖い。ただそれだけだった。

今まで感じたどの感情よりも強かった。

死への恐怖よりも戻ってこないという事への罪悪感のほうが・・・・・・。

そうだ、俺は死んでしまった事にじゃなく

死なせてしまった事に恐怖を抱いてるんだ。

自分のことしか考えてない。ホント自己中だな・・・・・・・。

そんなんだから俺は何にも気付けなかった。

マーガレットの不安感を・・・・・・・。

きっとあの日持っていたであろう不安感や恐怖に気付いてあげられなかった。

俺って最低だな。俺って最低だな。

心の中で何度も繰り返す。

「水羽・・・・・・・・・・・・・・・・・。

お前がそばに居てくれないと俺駄目だ・・・・・・・・・・・。

悲しむも全部、一人で背負ってお前をサポートして生きるって決めたのにな。

気付けば俺が支えられて・・・・・・。

何でも背負っちゃうよなお前は・・・・。

届かねえよ、全然。お前が高すぎて手が届かねえよ。

俺には、お前の|相棒(パートナー)や

|親友(ダチ)にはなれねえよ。

なる資格がねえよ・・・・・・・・。」

俺は嘆く。水羽のことを考えて・・・・・。

いっつも強いあいつのことを考えて。

不安だった。また救えないんじゃないか。

また水羽に任せちゃうんじゃないか。

そう思うと怖くて怖くてしょうがなかった。

「ただ気をつけて。氷馬は何でも一人で背負うからさ。

マーガレットの事、今までの事、

全部一人で背負おうとしているだろうけど

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

皆で背負えればいいんだよ。

忘れないでね」そういってくれた水羽を思い出す。

あいつはいっつも優しくて、一人で背負うななんていっても

自分は一人で全部背負って・・。

ずるいよな。つらいよな、きっと。

だから今度は俺がつらい思いする。

俺が背負うなって言ってやる。

資格なんか無くても俺たちは腐れ縁で結ばれた|悪友(ダチ)だ。

腐れ縁を今まで切ろうとしてきたけど

どんなに頑張ったって切れないんだ。

今更、資格が無いなんて理由でどうにかなるはず無い。

「見てろ・・・水羽」

俺は微笑んだ。気が楽になった。

ずっと居てくれるあいつが俺を救ってくれた。

「ふ、お前はヒロインだけじゃなく俺も救ってくれるのか。

ありがたいね、ゲームの主人公さんよ・・・・。

俺もお前みたいになってやるよ水羽。」

俺はつぶやく。

過去に戻る少し前。俺がそうつぶやいた後に薄っすらと人が見えた。

その姿は少女だった。黒髪でショートヘアの少女だった。

その少女はこういった気がした。

「無理に決まってるじゃん」と。その声やその様子、

そして何よりその雰囲気が見覚えのあるものだった。

無機質な、けれど優しい声。

どうしても惹かれてしまうような雰囲気。

何か抱えているような、助けを求めているような

そんな感じに感じたんだ。




彼女はいったい誰だったのだろうか?



なぞを抱えたまま俺は意識を失った。

ああ、やばい。失敗した?

俺はそう思う。

がそうではない気がする。

「ん、んん」

俺は目を覚ましそう唸った。

天国?一瞬そう思った。ここは・・・・・・。

俺の部屋だ。長年すんでいるんだ。

間違えはしない。ただ、天国はこういう所だって

聞かなくもないし、天国説も消えちゃ居ない。

が、カレンダーを見てその説は消えた。

そのカレンダーは8年前だった。

俺が小3の年。8月の終わりだった。

という事は、時が戻った?

本当に時が戻った・・・・・・。

俺はベッドから起き上がりこの頃着ていた服を手早く着た。

何かすげえ懐かしいけど、そんな事に時間を使ってられない。

何故か。それは、水羽が異界への入り口を見つけて、俺に知らせるのが今日だからだ。

俺は手早く階段を下りて、水羽の家に電話した。

確か、初めに異界への入り口が見つかったのは

神社だったはずだ。

ならば、そこに行かせず先回りすれば

いい。何故先回りしなきゃ駄目かというと

異界への入り口を見つけてからもう事件はスタートする。

そして、柊真白が殺されるのはその事件の最中のどこか。

ならば、何らかの兆しがあってもいいはずだ。

例えば入り口近くに居たとか。

だから、行かなければいけない。

水羽が見つけると、すぐ中に入ろうと言い出す。

そしたら、その間に何かあったら分からないし

水羽が見つける以前に柊真白が見つけている可能性もあるからだ。


俺は、急いで水羽に電話した。

「もしもし?」

幼かった頃の水羽の声が聞こえる。

8年後でもそこまで声変わりしてないが

若干変わっている。

8年後の水羽は色んな事を経験して強くなった。

だが、今の水羽は何もしていない。

が、それでもやっぱり『強さ』は残っていた。

「今日これから神社に行くつもりだろお前?」

俺は単刀直入に言った。

「え、そうだけど何で分かったの?

あ、もしかして僕どっかでしゃべってた?」

水羽はそう聞き返してきた。

ああ、そっか面倒だなこれからそういうのも誤魔化さなきゃなのか。

「氷馬は何でも一人で背負うからさ。

マーガレットの事、今までの事、

全部一人で背負おうとしているだろうけど

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

皆で背負えればいいんだよ。

忘れないでね」という水羽の言葉を思い出す。

そっか・・・・・・・・・。

誤魔化す必要も無いか。

協力してもらおう。水羽には。

「水羽、お前と俺は何があっても親友だよな?」

俺は水羽に尋ねる。

「何言ってるの?当然でしょ。

氷馬への僕の愛は止まらないよ」

水羽はそう答える。

確かこの時期は水羽、BLにはまってたんだっけか。

「じゃあ、今日一人で学校の校門前に来てくれ。

出来るだけ早く。すごく大切な話がある。」

俺は、そういって電話を切った。


俺は、すぐに学校の校門に走った。

俺の家から学校まで大体10分ちょっとで走って行ける。

水羽の家はそれより幾分か近いから先に行ってるかもしれない。


案の定、水羽は先に着いていた。

「はあ、はあ、早いな勇人。」

俺はそういって息を整えた。

「それで、話しって何?」

水羽は尋ねてきた。俺はぎゅっと手を握り締めて覚悟を決める。

ここで言ったら、水羽は長い戦いを味わう事になる。

それで良いのだろうか?

今言うのをやめれば、水羽の運命を変えてあげられる。


いや、そんな事水羽が望むだろうか?

いままで、水羽は誰かに強制されて、もしくは不可抗力で

何かをやっただろうか?

いいや違う。自分で望んだ。望んで救っていた。

ここで、話さずに運命を変えるのは

今まで、頑張った全ての事と全ての死、苦しみを

ちっぽけな物だったということになる。

そんなのは、嫌だ。今まで苦しんでそのたびに立って来た。

それを、その苦痛をちっぽけな物だなんて認めたくない。

もしそうでも、俺は違うといいたい。

だから俺は救世主に、俺のヒーローに声をかける。

「勇人、これから言うのは全部ホントだ。

嘘みたいな話になるけど

信じてくれるよな?」

俺は確信だけを持ちながらたずねる。

「勿論だよ。氷馬の言う事は何だって信じるよ。

本気で言ってる事ならすぐ分かるからね」

水羽はやっぱりそういった。

「お前は本来今日神社に行って異界への入り口を見つける。

そして俺と九十九を呼んでその後お前は中に入ろうと言い出す。

それでけんかになって俺とお前で行く事になる。

そして、異界に入って異界の問題を解決する。

それでその後、8年以上異界に行って問題が起きては解決してを繰り返す。

そのたびに犠牲を生んで大変な事になるだけじゃなく

8年後には神が俺を消そうとして来る。

俺はその悪循環を消す為に8年後の未来から時空魔法を使ってきた。

それでだ、これらの事件の元凶は俺と

柊真白が今回の事件で死んだ事にある。

だから、これから俺は水羽について行って一緒に柊が周辺に居ないか探した後

1週間後までに異界の問題解決と柊の救出をする。

前回はこれに6日間かかったけど今回は、事情も分かってるし

俺は魔法も始めっから上位魔法が使えるから1日で終わる。

だからあと1日を残すまでに柊真白って言う多分俺たちと同じぐらいの年の子を

探して1週間守り抜く。それが出来ればいいはずだ。

だから協力してくれ」

俺は何故ここに居るのか。

何でこうなったのか。

これからどうなってしまう恐れがあるのか。

何をすればいいのかを説明した。

「分かった。それだけ氷馬が真剣なら手伝う。

まず何をすれば良い?」

水羽がそう言って微笑んだ。

「でも良かった。その事を言ってくれて。

氷馬は何でも一人で背負うし何でも自分のせいにするからさ。

これからもそうしてね。

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

だから、僕がずっとそばに居るから。ね?」

水羽はそう付け加えた。

明るくて頼りたくなってでも一緒に居れる様な

暖かい笑顔を見せて・・・・。

「ふ、ホント水羽は変わんないな。

ホント変わんない・・・・・・。いっつも強くて

でも強くても頼ってくれて、俺とは全然違う。

いっつも『頑張ってる人を応援したい』とか

『僕も一緒に背負ってあげる』とか

『ずっと一緒に居てあげるから』とか臭い台詞を

何のためらいも無く言ってさ。

ホント強いよな。全く敵わない・・・・・・。」

俺はそう呟いていた。

正確にはココロの声が漏れてしまっていたのだが。

「そんなこと無いよ。いっつもこの言葉を言ったら

大きな責任を負うな、とかこの言葉を言ったら後戻りできないな、とか

ためらって葛藤してるんだよ。

でも、そんな葛藤何かお構いなしにこの言葉でその人を楽に出来るならって

心の奥で勝手に思ったら勝手に口が動いちゃうんだよ」

水羽はそうフォローした。

「馬鹿、それがすげぇんだよ。

俺の口はそうは動かない。」

俺はそういって水羽の顔をじっと眺めた。

「違うよ氷馬。氷馬が駄目でも僕がすごいわけでもない。

何かきっかけが無いから口が動く無いだけだよ。

僕の場合そのきっかけを九十九や氷馬がくれたから口が動くだけ。

言ったでしょ。人間一人の力はたいした事無いんだよ。

ずば抜けてすごいとか無いし逆にずば抜けて駄目って事もない。」

水羽はそういった。微笑んでいた。

強いんだってすごい思った。



「それでなんだけどさ」

俺がああだこうだ思っている間に

水羽はそういい始めていた。

「何だ?」

俺は条件反射かの様に尋ねる。

「いや、その助けなきゃいけない子って女の子だよね?」

水羽がそう聞いてきた。

3年生だし女の子を助けるとかが恥ずかしいのかとも疑うが

こいつに限ってそれはないだろう。

実際女の子は若干苦手ではあるそうだが。

「いや、それで柊真白って言うんでしょ」

水羽はそう俺に聞いた。

「ああ、そうだけど知ってるか?

多分この町に関わっていると思うんだけど・・・。」

俺は水羽にそう答えた。

すると水羽は戸惑うように言った。

「昔話だよ。昔話。ちょっと長いし話してるより入り口に行ったほうがいいよ。

そうだ、異界の問題を助けてからじゃ駄目なの?

そのこの救出」

水羽はどこか重い顔をしていた。

「ああ、駄目だ。というか柊を救えば今回の問題も解決する

まあ、6日後までに見つけられなければ異界のほうも発生するけどな。」

俺はそう言った。

勿論誰かにそう言われてはいない。

が、神が柊を消した事をきっかけに全てが始まっているなら柊を救えば

全てがとまるはずなんだ。

「そっか・・・。」

水羽はため息交じりでそういった。

「どうかしたのか?」

俺は水羽に尋ねた。

「ううん。そういうわけじゃない。

でも・・・・・・・・・・・。ちょっと忘れたかった事だから・・。」

水羽がうつむきながら言う。

初めてだった。こんな事初めてだった。

「自分が言ったんだろ人間一人の力はたいした事ないんだから。って。

だったら俺にも背負わせろよお前の重荷。

それに俺がそれを背負えて一緒にその事を共有できたとき

きっとこの事件を解決できる手がかりが見つかる。」

俺はそういった。そういった。

それしか手立てはなかった。する事も。

してあげられる事も・・・・・・・・・・・・・・・・。

「うん、そうだよね。じゃあ聞いてくれる?

僕の話を。少し長くなるけど。」

水羽はうつむきながらそういった。

俺は小さくうなずいた。


「じゃあうまく出来るかわからないけど語ろうと思う。

僕の話を・・・・・・・・・・・・。」

そして始まった。水羽の話が・・・・・。

「僕がまだ幼稚園に入るよりも前の頃、2,3歳のとき

柊さんと出会った。

その頃はね、柊さんすごく明るくてすごく元気だったんだよ。

それで僕のほうが女の子っぽいって言われた位。

でね、柊さんとはすぐ仲良くなっていつも一緒に居た。

あの頃は今の九十九や氷馬よりも

仲が深かったんじゃないかな?

それでね柊さんは、いつもいじめられっこを助けてた。

僕はね、柊さんがきっかけで今の僕になった。

柊さんに影響されたっていうのがひとつの理由だけど

もう一つは僕の力が全然だって気付いたから・・・。

それでね1年生になった位から氷馬や九十九とも遊ぶようになって

それでも柊さんはいい人だったから

友達もたくさんいた。


と思っていた、というべきだね。

実際は、いじめられてた。しかも毎日のように

お腹や足や顔を叩かれたり階段から突き落とされたり。

でも全然つらそうじゃなかったから気がつかなかった。

2年生にはいるまでは・・・・・。

2年生になってから、柊さんは学校に来ない日が多くなった。

違うクラスだったから知らないか。

それで、日を追うごとに来なくなって夏休みぐらいから完全に来なくなった。

で、聞いた話だと柊さん幼稚園でもいじめられてたらしくて、

でもなれちゃってたから助けてばっかでやられても気にしなかったんだって。

でも今度は助けた人たちもいじめてきて裏切られたって思ってつらかったらしい。

僕は救えなかった・・・・・・。

誰よりも知っていると思っていた柊さんのことを

僕は何も知らなかった。

因みに今は、4組にいるよ。今も不登校だけど。」


水羽はつらそうに言っていた。

気付けなかった・・・・・・・・・。

だから水羽は強くなるって決めたんだ。

俺は理解した。理解してだからこそやっぱり強いって思えた。

逃げずに向き合っていて・・・・・・・。

「そっか、すごいな勇人は。

俺なんか何にも知らずに・・・・・。

俺は今から出来る事をする。

勇人、その子の家はどこにあるかわかるか?」

俺は決意してそう聞く。

「分かるよ・・・・。

引っ越してはないはずだし・・・・・・・・。」

そういった水羽に半ば無理やり俺は案内させた。

いや、嫌がってはなかった。

むしろすっきりした感じだった。



俺と水羽は柊真白の家に向かった。

話を聞くにその子は、不登校で学校に来ていないそうだが

俺は1年生のときから見ていない。

たまたまだろうか?

「なあ、水羽。柊さんって1年の頃から消極的で

前に出ないタイプだったのか?」

俺は尋ねる。これを尋ねないと気になって

何も考えられない。

「いや、1年生の冬休みぐらいからいじめを受けていたらしいけど

それまでは、全然活発で友達も多かったし

学年中の人と遊んでいたよ。

覚えてないの?」

水羽がそういった。1年の冬までは活発に?

どういうことだ?記憶に無い。まあ、10年も前の事だ。忘れててもしょうがない。

それからしばらくして木がやたらと多い道を通って

柊さんの家に着いた。

「ここが?」

俺は短く水羽に尋ねる。さすがに緊張するからな。

裏切りにあって人間不信になってる可能性もある。

「そうだよ。ここのご両親とは今も

仲良いしよく話すから大丈夫。」

水羽はそういって扉をノックした。

「こごん、こごん」

ノックする音が穏やかに流れた。

そしてその内足音が若干聞こえおそらく柊さんのご両親が出てきた。

「あら、勇君じゃない。

そちらの子は、お友達ね。どうしたの?」

ご両親といっても母親だけだが。

どうやら随分と温厚な人らしい。

「おばさん、柊さんに会えますか?ちょっと重要な用事があるんですけど」

水羽がまた見事に仲介役をしてくれている。

「別にいいけどうちの子扉を全然開けなくてね会えるかは分からないけど

勇君だったら開けてくれるかもね」

柊さんの母(面倒なので以後柊母、柊父と呼ぶ)

が言った。

「あはは、まあ2回失敗してますけどね・。」

水羽がボソッと衝撃の事実を吐く。

「あらそうだったわね。」

柊母は、そう穏やかに言う。いや、穏やかじゃないぜ。

マジで開けてくれないと俺やマーガレットや里中や水羽や

皆が危ない。神に消される。


「おい、今のマジかよ勇人」

俺は柊母に案内されリビングのソファーに座って言う。

「うん、ホントだよ。何度も話そうと思ったんだけどね・・・・・・・・。

はあ、何でだろう。やっぱ憎んでるのかな・・・・・・・・・・・・?」

水羽はそうつぶやいた。その横顔は悲しそうだった。

「なあ、勇人。お前は俺の救世主だ。今でも、未来でも。

でも救世主を救ってくれる人は居ないからな。

俺がお前の失敗はカバーしてやるよ・・・・・・・・・・。

と思ったけど、そもそも俺、柊さんと面識ないんだよな・・。」

俺は名言もどきを発する。

「あはは、そうだね。じゃあ手伝ってよ氷馬。」

そういって水羽は笑った。


俺と水羽は柊真白の家に向かった。

話を聞くにその子は、不登校で学校に来ていないそうだが

俺は1年生のときから見ていない。

たまたまだろうか?

「なあ、水羽。柊さんって1年の頃から消極的で

前に出ないタイプだったのか?」

俺は尋ねる。これを尋ねないと気になって

何も考えられない。

「いや、1年生の冬休みぐらいからいじめを受けていたらしいけど

それまでは、全然活発で友達も多かったし

学年中の人と遊んでいたよ。

覚えてないの?」

水羽がそういった。1年の冬までは活発に?

どういうことだ?記憶に無い。まあ、10年も前の事だ。忘れててもしょうがない。

それからしばらくして木がやたらと多い道を通って

柊さんの家に着いた。

「ここが?」

俺は短く水羽に尋ねる。さすがに緊張するからな。

裏切りにあって人間不信になってる可能性もある。

「そうだよ。ここのご両親とは今も

仲良いしよく話すから大丈夫。」

水羽はそういって扉をノックした。

「こごん、こごん」

ノックする音が穏やかに流れた。

そしてその内足音が若干聞こえおそらく柊さんのご両親が出てきた。

「あら、勇君じゃない。

そちらの子は、お友達ね。どうしたの?」

ご両親といっても母親だけだが。

どうやら随分と温厚な人らしい。

「おばさん、柊さんに会えますか?ちょっと重要な用事があるんですけど」

水羽がまた見事に仲介役をしてくれている。

「別にいいけどうちの子扉を全然開けなくてね会えるかは分からないけど

勇君だったら開けてくれるかもね」

柊さんの母(面倒なので以後柊母、柊父と呼ぶ)

が言った。

「あはは、まあ2回失敗してますけどね・。」

水羽がボソッと衝撃の事実を吐く。

「あらそうだったわね。」

柊母は、そう穏やかに言う。いや、穏やかじゃないぜ。

マジで開けてくれないと俺やマーガレットや里中や水羽や

皆が危ない。神に消される。


「おい、今のマジかよ勇人」

俺は柊母に案内されリビングのソファーに座って言う。

「うん、ホントだよ。何度も話そうと思ったんだけどね・・・・・・・・。

はあ、何でだろう。やっぱ憎んでるのかな・・・・・・・・・・・・?」

水羽はそうつぶやいた。その横顔は悲しそうだった。

「なあ、勇人。お前は俺の救世主だ。今でも、未来でも。

でも救世主を救ってくれる人は居ないからな。

俺がお前の失敗はカバーしてやるよ・・・・・・・・・・。

と思ったけど、そもそも俺、柊さんと面識ないんだよな・・。」

俺は名言もどきを発する。

「あはは、そうだね。じゃあ手伝ってよ氷馬。」

そういって水羽は笑った。




俺と水羽はその後柊さんの部屋に向かった。

「ていうかさ、そもそも起きてるかな?」

水羽はボソッとそんなことを言う。

確かに夏休みだからといって無茶苦茶夜更かしして

12時ぐらいまで寝てるなんて子供もたまに居る。

が、さすがに無いと信じたい。

「まあ起きてるだろう。毎日お母さんが運ぶ食事は規則正しく食べてるって言ってたし

今日も食べたらしいから二度寝してなきゃ無いだろうからな。」

と俺が言って、ノックする事になった。

「じゃあまず僕がやるね」

水羽が始めに声をかける事になった。

「こごん、こごん、柊さん居ますか?

水羽勇人です。重要な話があるから聞いてくれないかな?」

水羽が言っている間俺は何気なくポケットに手を入れ

なぜか入っていたメモを見る。

「なんだこれ?」

俺はつぶやく。そして思い出す。

「ああ、マーガレットのスマホの近くに置いてあったメモだ。

あの時は見てなかったけど見てみるか・・。」

俺は忙しくて忘れていたメモを開く。

あ、因みに言っとくと時空移動魔法を使ったときに身につけていた服など以外のもの

(携帯とか)はランダムで自分に関わるところに置かれている。

さて俺はメモを開く・・・・・・・・・。

「氷馬へ。

我はマーガレットなり。

あの時は好んでいるなどと申したが

あれはおぬしを調べる上で行った偽りの告白。

我の水羽への好意に変わるようなものではなく

水羽への好意は尽きる事もないのだ。

という事で我とおぬしが付き合っているのは無かった事にせよ」

と書かれている。

ちょっと待て。結構ショックな事かかれていたぞ。

何?マーガレットは死んでも俺を振るの?

急にショックすぎる・・・・・。

「ぐ・・・・・・・。」

俺は半ば崩れ気味で床に座り丸くなる。

「駄目だ氷馬。開けてくれない。

ってどうしたの。顔が死んでるよ」

水羽は報告とともに俺に指摘した。

「いやなんでもない。元々期待はしてなかったんだ・・・・・・。

・・・・・・・。じゃない、今は救わなきゃだからな。」

俺はそういって自分を慰める。

「こごん、こごん、柊さんいますか?

服部氷馬ですっつっても知らないか。とりあえず開けてくれませんか?」

俺は言う。震えた声で・・・・・・・・・。

「ぎ、きき」

その無機質な音とともに扉が開く。

「う、うそだろ」

俺と水羽が同時に言う。

俺はまず俺が言っても無駄だと思っていたし

水羽も初対面の俺が言って一発であけてくれたことに驚いているようだ。

「えっと・・・・。ありがとうございます・・・・・・・・?かな。

とりあえず入っていいですか?」

俺は気まずい空気の中で言う。

何故か赤くなっている柊はうなずき部屋の奥に入る。

呆然としている水羽と俺は柊さんの部屋に入った。

非常にかわいらしい部屋だ。

俺は今一度柊さんの顔を見る。

似ている・・・。時空移動魔法を使ったときに見た少女に。

神は純黒のようであり、肌はつややかだ。

触らないと分からないがおそらくもちもちしているだろう

だが、顔は細い。瞳はというと青を蒼と書くような美しさで

しかし可憐だ。

まあ要するに俺のタイプにどストレートな感じだ。

そう思ってるうちに柊さんは水羽の背後の隠れた。

時々俺を見てはいるが確実に・・・・・。

「避けられてる・・・・・。」

俺は思ったことを口にする。

すると柊さんは真っ赤になりながら首をスンスンと横に振った。

何?避けちゃ無いってこと?

もう理解できない・・・・・。


その内、水羽が仲介役をしてくれた。

「えっと・・・。じゃあとりあえず座ろうか・。」

水羽はほくそ笑みながらそういう。

まるで大人が子供のいたずらを微笑んで見ているかのように。

もしかして何で柊さんがきょどってるのか知っているんじゃ・・・・・・・。

俺は水羽をにらんでみる。するといたずらっ子みたいに

きゅちゅきゅちゅと笑った。

「う・・・・・・・・・。えっと。コホン。

じゃあ話を始めようか・・・・・。

柊さん。単刀直入に言う。君はこの1週間で死んでしまう。

正確には”消される”。それでですね、俺たちは

君を守ろうと思うし、守らなきゃいけないと思っている。

この1週間の間に現れる神の眷族さえ捕まえれば

終わりなんだ。それまで一緒に居てくれないか?」

あ・・・・・。説明がおかしくなった。

ホント俺ってこういうの苦手だよな・・・・・。

「ふぁ?・・・・・」

柊さん?が言う。言ったはずだ。

明らかに疑問系だったので意味が分かっていないんだろうが

柊さんってこういうキャラなのか?

話を聞くにもっと男らしいかとばかり・・・・・・。

「ホント骨抜きにされちゃってるね・・・・・。」

水羽が柊さんに言う。

しかも無茶苦茶満面の笑みで。は?骨抜き?

意味が分かんない。

「氷馬に聞くけど僕の話だけ聞いてて柊さんがどんな人だろうって思ってた?」

水羽が尋ねてくる。

「そりゃ、男勝りな女の子って感じ?」

俺はほほを軽く掻きながら言う。

「でしょ、ホントはそうなんだよ柊さん。

でもねぇひょ・・・・むぐ・・」

水羽が何か言おうとした所で水羽の口が覆われた。柊さんによって・・・・・・。

もう、まるで兄弟喧嘩を見ているようにしか思えない。

「ちょっと柊さん。何するの?」

水羽は柊さんに言う。

「何するも何もあんたが言おうとするからでしょ。

無理に決まってるじゃん耐えられないよそれは・・・。」

怒り気味で、柊さんが言う。


う・・・・・・。俺は気まずくなり話を戻す。

「要するにこの一週間俺の家に泊まるかこの家に泊まるか

秘密基地的なのを作ってそこに行くかして俺と一緒にいてくれって事・・・・。」

俺はそういう。が・・・・。言った後で思う。

ちょっと俺がやばい奴みたいなニュアンスで伝わりそうだ、と。

「あ・・・・・・・・。」

俺は情けない声を出す。

そこに救いの手が差し伸べられる。

「えっと、あれだよ。変な意味じゃないよ・・・・。」

水羽の声だ。

「というか氷馬の家に泊まりなよ。」

水羽が更に言う。何を言ってるんだこいつは。

「なっっっ。」

柊さんは声を漏らした。

そして水羽をける。そりゃもう豪快に。

「どうする?・・・」

俺は柊さんに言う。けっているのを何とかやめてくれたようだ。

「ちょっと外に出よ。二人で・・・。」

柊さんは俺に向かって言う。俺に?水羽じゃなく?

もしやどやされる?と思いながら連れられるままに行く。

水羽は無茶苦茶笑っている。


家の外に出た。柊さんの指示で(いやお願いで)柊母に見つからないように

外に出た。ちょうど空は、雲ひとつ無く家の外でもかなり遠くに行った。

そしてついたのは公園だった。

柊さんはその公園の芝生に寝転がり空に向かって手を伸ばした。

「ホントすごいな空は。ずっと遠くまで繋がってて

なのに汚れる事もなくて自由で。

私は空には届かないよ・・・・・・・・。」

柊さんは、そう悲しむように言った。

「話してもいい?私のこと。」

柊さんはそういった。その瞳に一筋の涙が輝いていた。



「知ってる?私の名前のね、柊って

植物の花言葉、気性が強く、信念を曲げないって意味の剛直なんだよ。

それでね私、頑張って信念の強い人になろうって思ったんだ。」

柊さんの話しはその一言で始まった。

「聞いたかな?私と勇人は、幼稚園入る前からの幼馴染なんだ。

それでいつも勇人を守らなきゃって思ってて

強くなるためにずっと剣道をやってたんだ。

それこそ毎日徹夜で特訓してやっと全国大会で優勝したんだ。

それからもっと強さがほしいって思って

もっと特訓してそれを繰り返して二刀流の練習もして

ドンドン楽しくなっていったんだ。

楽しくなってドンドン大人とも戦うようになって

負けても楽しくて・・・・・・・。

で、ドンドン強くなっていった。

その内大人にも勝てるようになって

勇人を守る事はそっちのけになっちゃったんだ。

それが幼稚園までの話。

でね、そのことは勇人には内緒にしてたんだ。

だから勇人との距離もドンドン離れていった。

それで、幼稚園の卒業の季節。

私は全国大会に出場した。それまでに二回優勝してたから

期待されてた。でも、1回戦で無名の選手に完敗したんだ・・・・・。

それでいつもなら楽しいって思えるのに

今回は全然楽しくなかったんだ。

やめたいって思ってそれで結局やめた。

諦めたんだよ。弱いでしょ・・・・・・・。

でもね、勇人は知らないうちに強くなってた。

武術系の大会では上位メンバーにいつも入ってて。

1回戦負けしてもすごい笑ってて。

そしたら自分が何の為にいるんだろうって思って・・・・・・。

思って・・・・・。思ってそれでも頑張った。

そんな時、それまでいじめっ子から救ってた様な子が

私を徹底的にいじめてきたんだ。

いつもなら耐えられるようなことだったんだけど

裏切られた感じと自分の力の弱さを思い知って自分が取り残されてるような気がして

怖くなって引きこもった・・・・・・・・・。

そしたら、今まで優しかった両親も私の事を嫌って

食事もお金だけぽって置いてあるようになって

その内暴力が今までもあったけど激しくなって鉢合わせになると

お前はくずなんだって殴られてもう訳分かんなく・・・なっちゃって・・・・。

何でこうなっちゃうかなぁ。私がいるせいなのかな・・・・・。

・・・・・。もう耐えられないよ。

助けて服部君・・・・・・。私をどこかに・・・・・・。

空に連れてってよ。あんなに広くて澄んでいて自由なんだから

何でも出来るでしょ?何で人は、私はこんなに弱いのかな・・・・・・・・。」

ポツポツと涙がこぼれていた。

「あれ、何でないてるんだろ。上を向いたら涙はこぼれないんじゃないの?」

柊さんは目をこすった。

「馬鹿だな、上を向いても涙はこぼれるんだよ。

つらいときは涙は必ずこぼれてこぼれるからその人のつらさを知れて

一緒に泣いたり慰めたり出来るんだよ」

俺はそういった。出来るだけ優しく。

「そう・・なのかな?じゃあ服部君は一緒に泣いてくれる?」

柊さんは言った。俺は笑って「勿論だ」とつぶやいて

柊さんの横に寝転ぶ。

「そう言えば、柊の花言葉は剛直だけじゃなかったはずだよな」

俺はそういった。一時期花言葉に請っていていまだに覚えている。

「確か・・・。保護と歓迎。どっちもこれからの柊さんに

ぴったりだな。自分を守ればいいんだよ。それで力が足りなきゃ

俺が空の彼方からでも飛んでいくからさ。

怖くないようにずっと一緒にいるから・・・。」

俺はそういった。言った後で思った。

臭い台詞を言う水羽に似てきたな、と。

「そうだね。ありがと。じゃあ、一緒に居てくれるならさ

私のこと真白って呼んで。」

柊さんがそうった。そのお願いは非常に難易度が高かった。

そんなことしたらただでさえ柊さんがタイプ+つらい過去を聞いて更に可愛いと思う+

ないてるトコを見て守りたいと思っているの状態にさらにポイントが加わって

抑えきれないほどに好きになってしまうからだ。

て、いうかもうすでに無茶苦茶好きになっちゃってるんだけどな・・・・。

でも、水羽のことが好きだろうから(経験上)付き合うとかマジありえないけど。

う・・・・・・。自分で言って自分でへこむ。

「さ、帰ろ」

気まずそうにしている俺に見かねたのか

柊さんはそういった。

そしてばれないように帰った。

「帰ってきた。お帰りなんか進展はあった?」

水羽がそういってきた。

進展?許可を取ったかって事か?

「な、もう。その事は口にするな。」

柊さんが水羽にキレる。

「その事?」

俺は不意に疑問に思う。

「え、聞いてないの?てっきりそのことで行ったのかと思ったのに」

水羽は驚いてそういう。

「違うって・・・。もう諦めるって言ったでしょ」

柊さんがそう言う。より何なのか気になる。

「何の事だ勇人。」

俺は単刀直入に水羽に聞く。

「そうだね。柊さんもう言わなきゃだめだけど自分で言ったほうがいいんじゃない?」

水羽は柊さんにそう言う。柊さんはうなだれながら顔を真っ赤にしてこちらを向く。

「勇人と話してるのを見たりしてて

ずっと服部君のことが・・・好きでした・・・・・。今もです・・・・」

だんだん小さく声がなっていったが聞き取れはした。

好き?いや聞き間違いだろう。うんうん。

そう思って首を縦に振った。

「氷馬の返事は?付き合う?」

水羽がそういう。やっぱり聞き間違いじゃなかったか。

「ばっか。そんなの求めてないし。

言えただけでいいもん。て、いうか服部君が私なんかと付き合ってくれるはずないじゃん。」

柊さんは水羽をける。けってけりまくる。

「いや・・・・・・。俺は柊さんのことが好きというか・・・・・・。

さっき初めてあってからずっと気になっているというか・・・・。」

俺はそうつぶやく。

「え、じゃあ付き合えばいいじゃん。」

水羽はそう言う。独り言みたいな声をいちいち拾う・・・・。

まあ正直付き合えるなら付き合いたい。

「・・・・・・・・・・。ホントに?」

柊さんは真っ赤になりながら尋ねてくる。

「う、・・・うん。ホントに柊さんのことが好きだ・・・・。

付き合ってほしいぐらい・・・。」

俺はそう小さな声で言った。

「じゃあ、付き合いなよ。ね?」

水羽がそういった。

「じゃあ、付き合おっか。真白・・・。」

俺はひい、じゃなくて真白にそう言って手を伸ばす。

すると真白は真っ赤になって静かにうなずいて手をつかんでくれた。

「じゃあ、とりあえずこの1週間は俺の家に泊まろう。

この家は危ないんだろ?」

俺は真白にそういう。そうだ。虐待を受けてるんだ。

「うん・・・・・。」

真白はそういった。

「何で危ないの?」

水羽はそういったが悟ったらしく黙った。

「じゃあ、言ってからいくといいよ。

多分お母さんは柊さんがいることにうんざりしてるんだと思う。

ストレス解消とかじゃなくて・・・。

だから言ってから言えば文句も言われないと思う。言わないと警察に通報されちゃうかもだからね。」

水羽の提案どおりにしてから真白の着替えとかを少し持って俺の家に帰った。

途中で水羽と別れた。

「あのさ・・・・・。ホントにいいの?」

真白はその後尋ねてきた。

「言っただろ。俺は一目見てから真白の事が好きでしょうがないんだ。」

俺はそういった。決して話を盛っちゃいない。

そんなこんなで話してるうちに家に着いた。



さて家に着いたのだが・・・・。

よく考えると真白のことをなんと説明しようかと思う・・・。

そこで案を考えよう。

案1.彼女だと伝える。

→ない。まずない。母さんの事だ冷やかしてくるに違いない。

案2.・・・・・・・・・・・・。

友達で今日からお泊り会を開くのだと伝える?

→愚策中の愚策ではあるがやむ無しか。

ただ一週間は長いかな?

少しでも怪しまれると危ない・・・・・。

とはいえ、俺がふざけてないと分かれば力を貸してくれるはずだ。

きっと・・・・・・・・・。だと信じたい。

「と、言う事で真白のことは友達として母さんに伝える」

俺が言う。結構考えながら。

「と言うことでってどういう事で?」

真白は尋ねてくる。心の声とホントの声の区別をつけるのを忘れてた・・・・。

「いや深い意味はないよ。言葉のあやってやつ。」

俺はごまかす。区別も出来ない馬鹿なやつには見られたくない。

嫌われてしまいそうだからな。

「そう。じゃあ何で友達としてなの?・・・・・。

別に良いんだけ理由だけ聞きたい」

真白が尋ねてくる。真剣な顔で・・・。

そりゃそうだよな。不安に思うよな。

「うちの母さんめんどくさい性格なんだよ。

人の恋を勝手に成就させたり各地でしてる。仕事でもないのに・・・。

それで変に探られても嫌だろう?

だから友達って言っとく。まあいつかしっかり言うけど今はな。」

俺はそう説明した。決してうそじゃないぞ。


俺は思っていた。何でうちに来るかなんていっちゃったのかと・・。

まあ、虐待を受けているわけだし仕方がないのだけれど

でも、うちは、いかがなものだろう?

とはいえ、結果的には真白と付き合うことになり

”彼女”と数日一緒にくらすいわゆる”同棲”状態になり

悪い事だけじゃないが・・・・・・。

あ、邪まな思いは抱いてないぞ。ホントに・・・。

とはいえ、うちならまず安全だろうし俺みたいに

神とつながりがなきゃ遠隔的には殺せないから

大丈夫なはずだ。

勢いで言った策だったが

まあ成功してなくもない。

ということで家に入る。

「ピンッポンッ」

はつらつなベルの音が響く。

やがて母さんが来て扉を開けてくれた。

「お帰り、氷馬って何?女の子じゃない。

彼女?」

母さんが尋ねてくる。間違っちゃない。

が、ここでそれを言うとまずい事になる。

だが、さっき友達として伝えると言ったときの

真白の残念そうな顔が浮かぶ。いや、これも真白のためなのだ。

止むを得ない。しょうがないんだ。

「そうだよ彼女」

俺は何故かそういった。勢いで言った。

その説明で正しい。ホントに勢いだ.

気まずくはなったが振り向いたとき真白の顔が

うるうる&キラキラ(いや涙じゃないぞ)で滅茶苦茶可愛かったので

よしとしよう。

「彼女!いや、ホントに?すごいわね」

母さんがどこかうれしそうにいや、どこかじゃない

ハチャメチャにうれしそうにした。

それでもって微笑んだ。つまり危ない。



危険だった。あの微笑みは。

が、もうどうしようもなかった。

俺と真白は靴を脱ぎ家に入ると手を洗うなどの基本動作をする。

そしてリビングは危険と判断した為俺の部屋に誘導するべく

策を講じる。

「なあ、真白俺の部屋に行こう。

ここは危ない」

策っていっても耳打ちで真白に言うだけだ。

策じゃないな。もうこれ。

ホント俺は策士には向いてないみたいだ。

「う、うん!」

が、思うよりも真白が反応した為この策はよかったのかもしれない。

ということで俺の部屋に入る。

思えば、この部屋に女性を入れたのはアコンが初めてだったな。

て、事はいま真白が先になったわけだ。

歯車の回りが変わった・・・・・・・。

こうしてしっかり変えられるんだ。

人一人を神から救うなんて楽だろう。

そう思うが。ふとかつて『バーステラン』が言った言葉を思い出す。

「時間を移動するなんてこと神や柱にだって出来ないことだ。

それが出来るってことは何か特別な事は確かだ。

だが、その力もいつか腐敗する。

使えなくなるならまだいいがその力を使いすぎて

もしくは規定を超えるような事をした場合

どうなるかは分からない。

神が創った運命の子『イザナギ』でさえ

一度時空移動して大きく運命を変えたら時空移動は

出来なくなる。いや、正確には出来るがそれは運命の誤差により

人が苦しむ事になる。更に時空移動は生物の

理に確実に反する。禁を犯したという事になる。

その責任と代償は重い。重すぎるほどに。

もし、時空移動をするときがきたなら

それは本当に禁を犯してもいいようなときのみだ。

そうじゃなければ運命を変える事など許されない。」

そういっていた。本当に禁を犯さねばならないときにのみ

運命を変えても良い。

運命を変えれば重い責任を負う。それを覚悟でやれ。

そういうことだ。俺は、運命を変えてもいいのだろうか?

確かに苦しむ人は減る。が、それで俺は大いなる

責任と代償を背負えるだろうか。

また、水羽に背負ってもらうのか?

違う。自分で背負わなきゃいけない

そうだ、背負っていかなきゃいけない。

強くなきゃいけないんだ。


「へえこれが男の子の部屋か。勇人の部屋は男の子っぽくなかったからね

参考になる。それに初めてで緊張する。」

真白はそういった。どうやら水羽の部屋は

男の子の部屋には入らないようだ。

真白は笑っていた。すごく楽しそうに。

思えばあのときの俺はつまらなそうにしていた。

水羽や里中といる少しの時間は楽しかった。

宝物だった。でもそれ以外はまるで

白黒の世界みたいだった。

でも今色づいてきている。2人目の守りたい人ができ、

その子が笑っている。それで十分禁を犯す理由になる。

しかし、もう一度禁を犯さないように今度は

守らなきゃいけない。

近くにいる。水羽と真白と。

それはまるで小さな光のようだ。はかなく消えてしまった真白。

他のものに光をともし、自らの傷みを後回しにする水羽。

俺は守らなきゃいけない。守るんだ。




テンション高くわいわいやった真白はやがて眠ってしまった。

「うみゅ・・・・」

真白はまだ軽くおきているようだ。

いや、起きている、というより起きようとしている、

といったほうが正しい。

うとうととして眠ろうとしてはぱっと目を覚まし

またうとうととする。

やばい。可愛すぎる・・・・・・。

「何で起きようとしてるんだ?」

俺は素朴な疑問を口にする。

「しょれは・・・・みゃだ・・・・・ふぁっとり君に

しょばにいて・・・ほしいきゃら・・・」

呂律が回ってるかすら怪しかったが

もうハチャメチャに可愛かったので良い。

「大丈夫。寝てもそばにいるから。」

俺は真白の頭をなでながら言う。

最近知ったのだが恋人同士とかなら女の子の髪を

触ってもいいらしい。

母さんがいつもキレていたので触っちゃいけないのかと思っていた。

「うみゅ・・・・・・・。」

なでているとまた可愛い声と顔で俺を見る。

少しして真白は可愛い寝顔を見せて眠った。

俺は頭をなでたりほっぺをさすったりする。

そして完全に眠ったところで

メモ帳を取る。明日からの予定をメモする為だ。


さて、今日から一週間。今日はもう終わりなので

後六日間耐えればいいはずだ。

しかも、後五日で捕まえてしまえば片方の事件どころか

いっぺんに両方が解決する。

それに、前回2日目ぐらいで異界のほうが始まったという事は

明日、明後日が山場だろう。

「じゃあ、明日は水羽にも力を借りて

あ、後母さんも利用するか。母さん確か柔道黒帯だし

大人がいて損はない。」

俺は一人でつぶやいてから

メモに『母さん利用』と大きく書く。

「うみゅ・・・・」

またしても真白が声を上げる。

と思ったら、わめくような声が聞こえた。

「助けて、お願い助けて。助けて・・・・・・。

怖いよ。やめて。お願い。どこかに連れてって。」

完全におびえていた。俺は何もできなかった。ただそこにいるだけで。

そこにいるそれだけで時間が過ぎて何もできない。

それがつらくてしょうがない。

苦しんでるのに・・・・。

俺は真白の頭をなで背中をさする。

そして「大丈夫そばにいる」と声をかけ続ける。

かけ続けてやがて真白が目を覚ました。しかしおびえきった顔で

俺を見るなり抱きついてきた。

「怖いよ・・・・・・。」

真白はそういいながら泣き、俺に助けを求めた。

「そうしたんだ?悪い夢でも見たのか?」

俺が尋ねる。

「夢・・・・。うん、そうだよね夢・・・・。

なんかね、真っ暗な闇の中で一人っきりで居るの・・・・・・。

そしたら色んな不安とか全部こみ上げてくるんだ・・・・」

真白はつらそうにそういった。

「いつも見るの。服部君がいるし大丈夫かなって思ったけど

やっぱ駄目だった。

私は苦しむしかないんだね。だって弱いもん。逃げたもんね。

しょうがないんだよ。」

真白はそう言って号泣した。

「しょうがない・・・・・。」

真白はそうつぶやいた。悲しげなその声が心の奥に

響いた。

「水羽はさ、そこにいる、それだけで人に力を与えられるし

あいつ自身も強くなれるんだよな。

仲間や友達1人を救うその小さくて大きい力があるんだ。

でも、俺や真白にはその力はない。だから弱い。

弱いけど思うんだ。

人一人の手は小さいんだって。

水羽みたいな人でも一人じゃ何にもつかめない。

だからこぼれないようにいろんな人で助け合っていく。

今の俺には真白を救えはしない。

でも水羽や真白とそばにいてこぼれたものを拾ってもらうことで

強くなる。いや、そばにいるためにそのために強くなりたいって思う。

だから待っててくれ。きっと助ける。

救い出す。だから闇の中でも火炎の中でも

自分がこうなってもしょうがないって一人で思って

苦しまないでほしい」

俺はそういった。心の声があふれ出していた。



俺はそういってから真白と共にリビングに行った。

すると、予想通り山盛りの夕食が用意されていた。

「ごめんね、急だったから少ししか用意できなくて・・・。」

母さんは笑いながらそういった。

ったく、これのどこが少しだ。大盛り、山盛りなんかじゃ足りないぐらいあるじゃないか。

「い、いえ全然・・・・。」

真白はドン引きしながら言う。俺は額に手を当てて呆れ果てる。

そういえばアコンのときもこうだったな。

懐かしいな。いや、今からすれば未来の話でそもそも

それ自体ないことになるかもしれないが。

まあいい。そんな事よりもこれをどうやって消化するか考えないといけない。


まあそんなこんなで地獄のような夜が過ぎていった。

そして夜。協議の結果俺のベッドで真白は寝る事になった。

俺にとっては都合がいい。別に女の子に添い寝してもらえるからとかじゃない。

(いやまあそれも無きにしも非ずだが)一応言っておく。

変な誤解を招くといけない。

じゃなくて、話を戻そう。俺にとっては都合がいい。

そのわけだが、簡単に言うと勝手にどこかに行ったりしたときに

監視できるという利点があるのだ。監視って言っても

べつにトイレとかについていくんじゃない。

て、分かってるか・・・・・。

「服部君と一緒に寝れるなんて夢みたいだな」

真白がうれしそうに言う。

「それはよかったけど、もしさっきと同じ夢とか見て怖い思いしたら

言うんだぞ。俺が一緒にいるんだからさ。」

俺はそう真白に言った。

「うん分かった。じゃあおやすみ」

真白はそう言って眠った。

さっき眠ったばっかなのに早いな。そう思いながら俺も寝ようとするが

どうも寝付けない。

よもや、真白がそばにいるせいで緊張して眠れないとかじゃ?

俺はなんだかレベルの低いが、深刻な不安でいっぱいになる。

やることもないので仕方がなく真白の顔を眺めている事にした。

やっぱりその寝顔は滅茶苦茶可愛かった。

しかし、俺が思うにきっと今日も夢を見る。

さっき言っていたような。

だとしたらそれからも救ってあげたい。

いや、救わなければなるまい。それが禁を犯した事への償いにもなる。


ただ、俺は思うのだ。禁を犯した罪人に償う資格があるのか、と。

即ち禁を犯したものは償いもせず一生禁を犯したという事に縛られ苦しまなければならないのではないか?

人一人を守る資格なんてないんじゃないか。

そう思うと怖くてしょうがなかった。俺に大いなる責任と代償を

背負う覚悟なんかなかったんだ・・・・・・・・・・・・・・・。

そう思うとつらくてつらくてしょうがない。

でも、逃げ続けるよりは良いんじゃないか?守ろうとするのは。


いや違う。俺がここにいた。そう証明したいから

守りたいんだ。守ることもしなければ俺はつぶれて

消えてしまうから・・・・・・・。


「やめて・・・。怖いよ」

真白がそう嘆いた。こんなとき俺に何ができるのか?

俺なんかちっぽけじゃないか。何もできない。

それでも、守りたいそう思う。



しばらくしてやっとその夜は眠った。

翌日。俺が目覚めた。時刻にして7時ちょっと。

まだ、真白は眠っているようで気持ちよさそうにしていた。

昨日の夜あれだけ苦しんでいたがとりあえず治ったようだ。

多分一時的だろうが・・・・。

さて、俺はまだ眠っているうちに電話をした。

誰にだと思う?里中と水羽だ。

水羽については事情を話したが里中には

あいつは馬鹿なので説明が面倒だった。そのため

遊んでほしい子がいる。といった。


またしばらくして8時ほどになり真白が目覚めた。

そして二人で少し遅めの朝食を食べた。

その途中。俺は昨日考えた計画を実行すべく

母さんに話しかけた。あ、因みに言うと

この頃は母さん仕事をしてなかったため家で主婦をやっていて

その趣味で柔道をやっていたそうだ。

「なあ母さん。今日皆で出かけるんだけど大人にも来て貰いたいから

来てくれない?」

俺は母さんに頼む。が、多分答えはイエスのはずだ。

「勿論いいわよ。九十九ちゃんと勇人君と

あんたと真白ちゃんで言うの?」

母さんはそう俺に尋ねてきた。まあ、真白については自己紹介したし

彼女って言ったから行くとして後二人は何で行くって分かったかというとだな。


まず一つ。俺は”皆”でって言った。

そしてもう一つ。この頃の俺はその二人しか友達がいなかった。

これらの理由で推察したのだろうがどうでもいい。

「そうだよ。その辺で買い物とか遊んだりして帰ってくる。」

俺はそういった。この話は、真白にもしていないのだが

きっと来てくれるという確信があった。

「じゃあ、こないだオープンした美術館に行けば?

あそこ人少ないし、雰囲気いいからおススメよ。」

母さんがそういう。こないだオープンした美術館・・・・・。

ああ、羽場の経営する美容院に後に変わるところか。

いいかもな。プチ人気だったらしいからな。

「10時に公園で待ち合わせてるから準備しといて」

俺はそう母さんに言って朝食を終わらせた。

やがて真白も食べ終わり俺の部屋に二人で行った。

「あの・・・。九十九って里中九十九さんのこと?」

真白がそう尋ねてくる。

「ああそうだけど。」

俺はそう答える。

「そっか。じゃあ勇人が好きな子ってその子なんだ。」

納得したように真白が言う。

やっぱり水羽も里中のことが好きだったか・・・・・。

これで他の|美女(ヒロイン)達を選ぶ可能性は消えたな。

って。そっか、このまま運命を変えればヒロインと水羽のかかわり自体が断ち切られ

俺や水羽、ヒロインたちとの楽しかった記憶が

全部消え去っていくんだ・・・・・・・・・。

今一度繰り返せはしない。この事件を解決したらヒロインたちとの出会いは消えて

なくなってしまう。

・・・・・。それでも救うべきなのだろうか?

俺が消えればいい。それだけで良いんじゃないか?

「どうしたの」

不意に真白がそう尋ねてくる。

その時ふっと我に返り思い出す。

そっか、そうだよな。ここで救わなきゃ真白が苦しむ。

俺の為に救うんじゃないもんな・・・・・・・。

別に異界にいけなくなるわけじゃない。

ならどうにだってなる・・・・・。

「ありがと真白。今は、真白を守ることに力を尽くす。」

俺はそういった。

「うん。約束ね?私を守ることができたら私は絶対

服部君のお嫁さんになるから。」

真白はそういった。約束か・・・。

今の俺にはまだ力がない。だからこんなとき

「俺なら真白を救える。絶対だ」

なんて言葉はいえない。水羽なら言いそうだな。

そして余裕でやってのけそうだ。

もっと強くならなきゃいけないな・・・・・・・。

俺たちは9時半頃家を出発した。早すぎると思ったのだが

真白が「誰かと遊ぶのは勇人以外じゃ、初めてだから

早く行こう」とまた可愛らしく駄々をこねた為早く行った。

少し待ってやがて水羽と里中が到着した。

「お、氷馬君。久しぶりじゃない?電話で遊ぼうっと言うから

すごい驚いちゃった。氷馬君から誘ってくるの久しぶりだしね」

里中がそういった。確かにこの頃の俺はそうだった。

「で、その子は・・・・。って柊真白さんでしょ?

私すっごいファンなんだよ。剣道がねスッゴイ強いの。

特に二刀流を始めたぐらいからすごかった。

でも私は一番後の戦いが好きだな。一回戦負けしたけど

でもスッゴイかっこよかった。

なんだかすがすがしくて・・・。」

里中はそういう。

あ、言うのを忘れてたな。里中は剣道好きなんだ。

やるのも見るのもな。里中は手を拭くと真白に握手を求め

困りながら真白は握手をしていた




真白は、真白のやった事は確実に”逃げ”ではなかった。

そう里中が証明してくれた。

ファンがいて、今も逃げた今でもファンでいてくれる。

ならばそれは”逃げ”ではない。

まだ終わってはいないんだ。

「ありがと九十九さん」

真白は里中と握手しながらそういった。

俺が思ったことと同じ事をきっと真白も思ったのだろう。

すっきりとしていた。そして何かずっと先を見ているようだった。

「決めたよ。服部君。私剣道に戻る。

そしたら、あんまり服部君と会えなくなる。

でも今は、剣道や純粋な思いで見てくれるファンの人と

向き合いたい。中途半端な感じは好きだからこそ

嫌だから今日を持って彼女をやめさせてくれないかな?」

真白はそういった。

即ち振られたわけなのでが俺は何故かつらくも苦しくもなかった。

むしろ真白が前に進めた、それだけでうれしかった。

ただ、寂しさはあった。二回連続で振られてるんだからな。

でも、いい。そう思った。寂しさの分だけ

助けられた人がいるなら・・・・・・・・・。

俺の手じゃないにせよ初めて特殊能力を使わずに

人を救えた。それは俺にとっても大きな一歩だった。


「勿論。元々俺にはもったいないような女の子だったからな」

俺はそういった。そう答えた。

母さんは俺の背中をたたいて「ドンマイ」とささやいてくれた。

いつもならつらいときにこんな事言われたら「うるせぇ」とでも返すだろうが

今日は、今は「ありがとう」そう言えた。

「じゃあ、真白の復帰を祝って美術館に行きますか」

俺はそう言った。そして道中しゃべりながらぐだぐだと歩いて

美術館に着いた。

そこは個展を開いている美術館でそれも狭かった為

それはそれは雰囲気が出ていた。


皆で笑って話してそうやっている時間は宝物みたいだった。

が、俺はそんな中、気になるもの(人)を発見した。

それが誰なのかわからなかったがどこか見た事があるような感じだった。

「どこで見たかな・・・・。」

俺はふと考え込む。

年は俺たちと同じぐらい。そして女の子。

俺たちに近づこうとして何を思ったのか

逃げるように去っていった。

「まさかな・・・・。」

俺はある疑惑、(即ち彼女が真白を消した犯人ではないか?)

を胸にしまいこんだ。


だが、その疑惑はより濃くなっていくのである。

俺たちは帰り道俺の提案で公園で休憩する事になった。

俺の考えとしてはあの女の子にしろ誰にせよ

近づかなければ消せない。

そして人が少ない公園がチャンスなのだ。

水羽と里中にはこの作戦から外れてもらい先に俺の家に帰ってもらい介抱の準備を

してもらった。

そしてあえて真白を一人にして、俺と母さんは隠れた。

母さんは俺が誘導しただけだが。


すると人が近づいてきた。

しかもあの女の子だった。俺は母さんに公園に一つしかない入り口に行ってもらい

その女の子の元に向かって走った。

真白はというと相手が子供と言うこともあり油断しきっている。

「ご、ごめんなさ・・・・・・」

その女の子がそうつぶやくと女の子の顔を隠していた帽子がとび、

女の子が手を通さずに着ていた?(かけていた?)服が舞った。

そして、その女の子の両手から刻印が浮き出た。

俺はあれが魔法、上位魔法に思えた。

だから走って対抗魔法(といってもこっちでは下位のものしか使えないが)を使い

少しでも守ろうとした。

「くっ」

俺は唇を軽く噛み気付けなかった自分を悔やむ。

それと共に考える。

彼女が言ったごめんなさいとは何なのだろう。

自分の意思ではないのだろうか?

だとすれば何かあるはずだ。

しかし俺の力は及ばなかった。

俺は魔法に押され倒れた。

そして立ち上がったときには真白はもう消えていた。

そして彼女は崩れていた。




俺は救えなかった。そういうことになる。

自分のみを呈してでも救おうとしたが

呈すどころか俺は運よくまだ生きながらえている。

じゃあ、俺が禁を犯す意味は何だったのだろうか?

助けられるそう思ったらその逆。

全く無意味な行動をして守りきれずに終わってしまった。

そこに崩れている女の子を今すぐにでも殴ってやりたい。

そう思った。でもそんなの無駄だった。

彼女はきっと自らの意思でやってはいない。

相手は神だ。人を操るぐらい自由なはずだ。

何故気付けなかった・・・・・・・・・・・・・・・・。

何で?何で?何で?真白は自分の生きる道を見出して

戻る事を決意して強くなったというのに・・・。

俺は、強くなんかない・・・・・・・・・・。

結局何も変えられなかった。いや、それどころかもっと酷くした。

いろんな人の心に真白が結びつきそのせいで消えてしまった苦しみを

味合わせてしまう。

「俺は・・・・・・・・・・。俺は何で・・・・。」

泣きたくなかった。救えなかった事に泣く資格なんか俺にはなかった。

それは分かっていたのに邪魔な涙がぽつぽつと・・・・・。

泣きたくなんかないのに・・・・・・・・。

涙なんか見せたくないのに・・・・・・・・。

真白にこんなの見せたら怒られる。

何で泣くんだって。泣く資格なんかないだろって。

「くっそ・・・・・・。何でだよ!!!!っ」

俺は叫んだ。叫んで走った。

どこにかって?

そんなの分かりきっている。異界へだ。

異界に行ってもう一度やり直す。

やり直して今度こそ変える。変えなければいけない。

それが俺の役目。いや、禁を犯す代償。

助けられるまで助け続ける。

だから。だから走った。

「ちょっとどこに行くの?」

母さんが聞いてきた。

「俺がやらなきゃいけないことをしにいく」

俺はそういった。

「それは正しい事なの?正義?」

母さんが言って来た。

確かに正しくないかもしれない。

何度も生物の理を破る事は間違っている。

正義なんかじゃない。力を乱用してむしろ悪だ。

でも、でもこのままじゃ。このままじゃ誰も報われない。

皆が傷つく。傷が一生残ってそれで終わる。

そんな正義間違っている。

「違う・・・・・・。正しくない・・・・」

雨が降り出し、俺はそうつぶやいた。

「じゃあ」

母さんは「じゃあ行くな」そう言おうとした。

「でも、正義じゃないけど・・・。正義のせいで傷つく人しかいないなら。

報われる人がいないなら。いないなら俺は、悪にだってなる。

皆の為のホントの正義の為に生きる!」

俺はそう叫んだ。雨がより強くなる。でも。でも守りたいと思ったから。

だから、走る。もしかしたらしまってしまうかもしれない。

異界への扉が。なんせ神は『イザナギ』である俺に勝ったと確信している。

しかし、自分たちのところに乗り込まれてはいけないとも思っているに違いない。

だったらゲートを閉めるはずだ。だから走らなきゃいけない。


少しして神社に着いた。でも

そこにあったはずのゲートは消えていた・・・・・。

「うそ・・・・・だろ。」

俺は崩れる。雨がより強くなって俺に降りかかる。

「どうしてだよ!!俺は、俺はいつもこうじゃないか。

もっと強くなりたいのに・・・・・。

だから禁を犯してでも救いたいと思ったのに・・・・・・。

守りたいと思う。その気持ちが報われないんじゃ俺は

何の為に禁を犯す力をもったんだよ!

頼む。後、後一回戻ってくれ。こっちだって魔法は使えるはずだ。

何とか使えるように・・・・・。」

俺は叫んだ。叫んでつぶやいて、崩れた。

拳をぎゅっと握りしめ魔法を使った。

「後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー!!!・・・・」

魔法を唱えても変わらない。

「もう一度・・・。後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー!!!・・・・」

何も変わらない。

「何でだよ。何で守れないんだよ俺は。

戻れよ。魔力を失ってもいい。後一回だけ

戻らせてくれ。頼むっ。後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー。

後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー。

後ろを向き、過去にとらわれる我あり。

過去に囚われ我ここにあらず。

幾千の不幸が生み出される前に戻り

我を取り戻そうぞギランセルクー。

戻れ。もどれぇぇぇぇぇ」

俺は全力で叫んだ。叫んで、その瞬間視界が暗転した。



視界が暗転した。そして光が戻った。

「・・・・・・・・・。」

俺は目をぱちくりさせる。目の前には真白がいた。

そして母さんや、水羽、里中がいる。

「決めたよ。服部君。私剣道に戻る。

そしたら、あんまり服部君と会えなくなる。

でも今は、剣道や純粋な思いで見てくれるファンの人と

向き合いたい。中途半端な感じは好きだからこそ

嫌だから今日を持って彼女をやめさせてくれないかな?」

真白がそういった。そう。そのときに。

あのときに戻った・。

「よかっ・・た・・・・。まだ、チャンスがある・・・・・・・」

俺はそうつぶやく。誰にも聞こえないように。

「よかった・・・・。」

俺は泣いていた。泣きじゃくって笑っていた。

「何?そんなにショックなの?」

母さんが言ってくる。

「・・・・・・・・・。違う。うれしんだよ・・・・・・・・・。

まだやれる。まだ終わってない・。」

俺は一人でそういって目をこすった。

「さ、行くよ」

母さんが言った。

「ねえ、氷馬聞いてもいい?」

水羽がそういったことで俺は皆とはなれ水羽と二人きりになる

「何だ?」

俺はそう聞き返す。

「これから何が起きるの?何が終わるの?」

水羽はそういった。さっきの声が聞こえていたようだ。

地獄耳の水羽には・・・・・・・・・。

さすが主人公。さすが救世主だった。いつもつらいときにそばにいてくれる。

「おまえはすごいなぁ。ホントにさ。」

俺はそういってごまかす。

これは俺が背負うべきものだ。だから助けてもらっちゃ駄目だ。

これ以上巻き込みたくない。

「もしさ、巻き込みたくないとか思ってるなら間違ってるよ」

水羽はそういった。俺の心を読んだような発言だった。

「たった一人の子供がさ、そんなにつらい事を背負っちゃ駄目だよ。」

水羽はそういった。俺は思い出す。1回目の昨日。

水羽が異界への入り口を見つけて俺と里中を呼んで・・・・。

水羽が入ろうって言って俺が子供だけで行くのは危ないって怒鳴った。

でも、今回は違うんだ。俺は高校生。水羽はまだ小学生なんだ。

今は水羽に頼っちゃいけないんだ。

「氷馬は何でも一人で背負うからさ。

マーガレットの事、今までの事、

全部一人で背負おうとしているだろうけど

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

皆で背負えればいいんだよ。

忘れないでね」

その言葉、この旅で俺が頑張れた根源といってもいい言葉。

それが胸に響く。

みんなで背負う・・・・・・・。

でも、今の水羽はまだ幼い。

そんな水羽に背負わせられない。

「グン」

水羽は俺の頬を思いっきり殴った。

背負わせちゃいけない。もう苦しまなくて良いんだ。十分苦しんだ。

俺が水羽をつらい戦いから逃げさせなきゃいけないんだ。

そんな事水羽が望むだろうか?

いままで、水羽は誰かに強制されて、もしくは不可抗力で

何かをやっただろうか?

いいや違う。自分で望んだ。望んで救っていた。

ここで、話さずに運命を変えるのは

今まで、頑張った全ての事と全ての死、苦しみを

ちっぽけな物だったということになる。

そんなのは、嫌だ。今まで苦しんでそのたびに立って来た。

それを、その苦痛をちっぽけな物だなんて認めたくない。

もしそうでも、俺は違うといいたい。

水羽は逃げたくないって言ってるんだ。

そしてこんなところで逃げるやつじゃない。

真白のことも今までずっと背負ってきていたんだ。

「氷馬は何でも一人で背負うからさ。

マーガレットの事、今までの事、

全部一人で背負おうとしているだろうけど

自分のせいだって思えるほど

人間一人の力はたいした事ないんだから。

皆で背負えればいいんだよ。

忘れないでね」

また、この言葉が胸に響く。

水羽は望まない。でも、俺がまいた種は自分で・・・・・・・・・。

それにもう涙を見せたくない。

つらいときは涙は必ずこぼれてこぼれるからその人のつらさを知れて

一緒に泣いたり慰めたり出来るんだよ。

涙はこぼれるもの・・・・・・。

一緒に泣いたり慰めたりする・・・。

そうだよな。

「水羽はさ、そこにいる、それだけで人に力を与えられるし

あいつ自身も強くなれるんだよな。

仲間や友達1人を救うその小さくて大きい力があるんだ。

でも、俺や真白にはその力はない。だから弱い。

弱いけど思うんだ。

人一人の手は小さいんだって。

水羽みたいな人でも一人じゃ何にもつかめない。

だからこぼれないようにいろんな人で助け合っていく。

今の俺には真白を救えはしない。

でも水羽や真白とそばにいてこぼれたものを拾ってもらうことで

強くなる。いや、そばにいるためにそのために強くなりたいって思う。

だから待っててくれ。きっと助ける。

救い出す。だから闇の中でも火炎の中でも

自分がこうなってもしょうがないって一人で思って

苦しまないでほしい」

かつて真白に言った言葉が胸を刺さる。

「俺は・・・・・・・。」

俺は、俺は、水羽にも背負ってもらいたいんだ。

水羽にずっと一緒にいてほしいから相手の機嫌を伺って・・・

「いいか、真白はこの後消える。守ろうとしたけど元凶が予想もつかないものだった。

でも、元凶は分かった。だから、やられる前に止める。

水羽には九十九や真白、母さんの気を引いててほしい。

これがきっと最後のチャンスなんだ。

頼めるか?いや、頼めるよな」

俺はそういった。

「当たり前でしょ」

水羽は、やっぱりそう答えた。




水羽は笑った・・・・・・。

笑って答えたのである。

つまりそれは、俺が決めた水羽に言って協力してもらう

という選択肢が正しかったわけなのだ。

「頑張ってよ、氷馬。」

水羽は笑って、かつ真剣な顔をして俺に言う。

俺は、なんだろうな・・・・・。

悔しい?悲しい?何かそういう悲観的な感情で

いっぱいだった。

何でか分かんないけどな・・・・・。

まあ、いいんだ。救えれば。

今度こそ救えれば。ただそれだけで良いんだ。


そして、俺たちは母さんたちと合流した。

美術館に入り、その後は、前回と同じように見回った。

それと共に俺はより注意して周りを見た。

それはあの少女を見つける、ただそれだけの為の行動だった。


しかし、ふと思う。俺なんかが、彼女を見つけたところで

止めたり出来るのか?と・・・・・・。

事実、さっきは、魔法が使えなくなっていいだの言ったりして

いたが、よく考えるとそれはまずいな。

てか、こっちで魔法が結構何の問題もなく使えちゃう相手に

勝てるはずがないのだと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

とはいえだ、あの少女は確実に神にコントロールされている。

だったら、何か出来る事もあるはずだ・。

例えば、神が使う制御呪術の印を何とかして

外すとか・・・・・・・・・・?

でも、もう一度戻ってくれたんだ。

禁を犯す許可が得た。つまり、何か方法があるはずなんだ。


そして、その少女は現れた。

見つけ次第水羽に目で合図をしてから

走ってその少女の元に向かった。

が、その少女無茶苦茶早かった。

というより確実に飛んでいた、といえるほどのスピード。

いやあれは、浮遊魔法の類だと思う。

「待て、逃がさない・・・・・・・。はぁ、はぁ」

俺は息切れをしながらもそうつぶやく。

いや待てよ、俺も魔法を使えばいいんじゃないか?

こっちでも各属性の下位魔法なら使えるだろう・・・・。

「土魔法『ガステル』発動。」

俺はそう言う。このぐらいの低級なら詠唱など

必要ない。ガステルを発動した俺は、

その少女の行く手を阻みついに追いついた。

「はぁ、はぁ」

俺は息を整える。そして言う。

「はぁ、ふぅ。さて、君、神に操られてるんだろ?」

俺はそう言って少女に近づこうとした。

「な、何でそのことを・・・・・・・?」

その少女は俺の使った魔法の跡に目を輝かせながらも

俺に敵意を向けてそう言う。

「お前・・・・・・。何者だ。」

その少女はそう言った。

「そんな事はどうでもいいっ。神に操られているのかと聞いている。」

俺は怒鳴る。

「ひぃ・・・・・・・。そんな大きな声・・・・・・。

私だってあんな同年代の女の子を殺りたくはない。

が、私にだってやらねばならぬのだ。

だから・・・・。だから神と契約した・・・。」

その少女はそう言った。

「やらねばならないこと?」

俺はそうつぶやく。

「そうだ。私は運命の子『イザナミ』として私の世界

ジャバースの魔王を殺さなければならない・・・。」

その少女はそう言った。ジャバース?聞いた事のない世界だ。

更に運命の子といったか?

どういうことだ?彼女が運命の子?

「早くしないと8年後には世界が同期してしまう。」

彼女はそうつぶやいた。

「なあ、その契約の内容は?」

俺は尋ねる。

「2日、今日までにあの少女を殺す事。

出来なければ力が失われる。」

その少女は言った。

「分かった。じゃあ、力を諦めろ。

その代わり俺が救ってやる」

そう俺は言った。それが歯車を掛け違えて行く事を俺は知らなかった

真白を救う事に精一杯で・・・・。



「ホントか?」

その少女はそう尋ねてきたのである。

「ああ、俺も魔法が使える。ただ、こっちじゃああんまり上位のは使えないけどな。

でも、異界に行けばマナも多いだろう」

俺はそう言う。が、その少女はまたしてもこう言うのだ。

「え、ここは、ジャバースに比べるとものすごくマナが多いじゃないか」

その言葉は、俺に希望を与えてはくれなかった。

「な、ここより少ないのか、マナ」

俺はそう聞きなおす。しかしその答えは分かりきっていた。

即ちイエス、である。

それはつまり絶望を表していた。

「・・・・・・・・・・・・・。」

俺はだんまりした。じゃ分かりづらいので言い直すと黙った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

心の中までもが沈黙する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、待てよ。

もし魔法が使えなくてもいや、ここより状況が悪いなら

魔王とやらも魔法を使えないはずだ。

それにさっきの俺の魔法にあんなに目を輝かせるって事は

そんなに強い魔法の使い手はいないのだろう。

・・・・・・・・・きっとな・・・・。

それに、殺さなくてもいいはずだ。

「なあ、殺さなくても魔王が思い直せばいいんだよな?」

俺は尋ねる。

「ま、まあそうですが魔王は頑固なので・・・。」

その少女はそう言う。でもまあ、不可能じゃないって事だ。

ならいける。いけるはず・・・だ。

「ちょっと待ってくれ。」

俺はそういうとケータイで水羽に連絡した。

「プチッッ」

その音と共に水羽の声が聞こえる。

「どうしたの?」

水羽がそういった。

「勇人。俺はちょっと用事が出来た。でも真白は守れそうだ。

だから、こっちは頼めるか?

俺は異界に行く。」

俺はそう言った。

「・・・・・・・。絶対帰ってくるなら任されるよ」

水羽はそう言って電話を切った。

「・・・・ふ。」

俺は前にもこんな事があったと思い出す。

俺はやっぱり水羽がいてくれるからいるんだ。ここに・・・・。

「よし、じゃあ、行こう。と思ったんだけど

ちょっと今日は寝ちゃ駄目か?眠い」

俺はそう言った。うむ、これは真実であり嘘や誤魔化しじゃない。

そもそもそんなんで時間稼いでも

嘘だとわかったらこの少女は絶対にもう一度契約するだろう。

「勿論いいですよ。寝ないと何も出来ませんしね。

じゃあ、少し仮眠を取りましょう」

その少女はそう言って公園に俺を連れて行った。

まさか公園で寝るのか?そう思いながら半ばやむなしの気持ちで

公園のベンチに寝転がる。実にマナー違反だが人がいないので大丈夫だ。

「じゃあ、おやすみです」

その少女がそういった後俺は目を閉じて眠った。


「そうじゃない。皆の為なの。この世界のため・・・・。

このままじゃ神に皆滅ぼされる・・・・・。

あんたも運命の子なら分かるでしょ?

それとも何?『イザナギ』と『イザナミ』じゃ違うって言うの?

そんなの違う。もし分かんないならあんたが馬鹿なだけじゃない?

そんなやり方間違っている?俺が神から守るから?

無理に決まってるじゃん。あんた一人に何が出来るの?

私は吸血鬼にわざととりつかせて黒かった髪を

紫にしてまでやろうとしてるのよ。

あんたみたいな覚悟がないやつに出来るわけないじゃない。

そんなんで私を説得しようとか馬鹿じゃないの?

私を殺せばいいじゃない?何?

殺せない?やっぱり覚悟がないんじゃない。

覚悟があるなら私を殺せるものね。私を・・・・・・・。

私だって私だってホントは皆に嫌われたくない。

でも皆を、世界を守るためなんだからしょうがないでしょ。

ば、馬鹿なこと言わないでよ。私、つらくないんだから。

この程度で弱音を上げるようなあんたとは違うんだから・・・・・・・。」

女性の声が聞こえる。若い女性。高校生ぐらいだろう。

しかも、かなりのアニメ声。途中からつらそうな声をしていた。

誰かと話しているようだ。聞き覚えのない声だ。

さっき話していた少女とはまるで対のように

ツンツンと棘のある声だった。


さっきまで白かった視界が黒くなった。

「真っ暗?」

俺はふと声を漏らす。

真っ暗だ。まるで真白が言っていたような。

そんな時バーステランが言っていた事を思い出す。

「運命の子が見た夢は心の同調する人と

リンクし、その人も同じ夢を見るようになる」

そういっていた。

だとしたらこれはあの少女の夢?なんだろうか

何か違う気がする。こんな夢を見ていない気がする。

こんな夢を見て尚、ああも笑顔でいたり

睡眠への恐怖がなかったりする事はないはずだ。じゃあ誰?


俺は怖くなり不安が何倍にもなりまるで時間移動魔法の時みたいだった。

怖くなってそれで目を覚ました。



そして俺の運命を決める物語が始まったのだ。

ついに。このときはおまけぐらいにしか思っていなかったが

これこそがメイン。今回や今までの事件は序章、いや

物語の前置き程度でしかなかったのである。

しかし、このとき俺はそんなこと知っているわけもなかった。

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