ステータスレンタルやっております

モンスターなカバハウス

第1犠牲者 呪いレンタル

噂では金さえ払えば臨んだものが手に入る店があるという。


「その店さえあれば俺も…俺も!!!」


そして野心に燃える男が一人。

その熱意のおかげか噂の店を発見することに成功。

人気の無い山奥というベタな場所にあり、その風貌に彼は驚愕する。

その店は何をどう間違えたのか洋風で出来た家の壁に『おかし』とびっしり書いてある。

洒落か?洒落なのか?

男は困惑するもドアをそっと開けてみることにした。


「今日もお客さんが来ませんねー」


ドアを開くと暇そうな若い受け付けの女性とモンスターのスライムが一匹。

仕事が無いのか、彼女はそのスライムに向けて羽ペンを刺して遊んでいる。

無害なモンスターとして有名だが何をやっているのだろう?


「ほらほら、これがええんやろ?ええ?純情ぶって本当はこういうのが好きなんやろ?」


何かのプレイだろうか?

スライムの方はというと


「オウ、オウ、オウ、オウイエス、オウ」


と凄い単調な声で喘ぎ声(?)らしきものを出している。

そもそもスライムって喋れるのだろうか?

その不思議な光景で戸惑っていると女性が男の存在に気付いた。


「お、お客さん!?」

「えっと、その、ああ客だ」

「み、見ましたか?」

「…」


妙な沈黙が流れる。


「どうもいらっしゃいませ、ステータスレンタル屋でございます。ステータス関係のものならなんでもおまかせ!ご希望に沿った商品をお貸しします」


何事も無かった、いいね?と目で訴えてきた彼女に対して男は無言で頷いた。

ここで頷かなかったら命は無い、そう目が語っていたからである。


「本日はご希望の商品はお決まりで?」

「そのだな、金さえあればどんな能力でも手に入れられると聞いたんだが本当か?」

「ああ、お客様も男の子ですからね。分かる分かるよーその気持ち」


女性が今にもぶん殴りたくなるような顔をしながらため口になる。


「ロマンですからねー。いいよいいよ、あー分かってる何も言わなくても。今一番のオススメは空を飛べるようになる能力!やっぱこれは外せませんよね?」

「空を飛べるように!?ああ、いやそうじゃなくてだな」


空を飛ぶ。

大魔法使いでも無理難題とされている行動をあっさりと。

だが男が求めているのはこれでは無い。


「今ならなんと1ヶ月たったの1億ゴールドでレンタル可能!お客さんカッコいいからサービスしてローン可能にしてあげちゃう!どうよ?ねね、どうよお客さん?」

「1億!?空飛べるだけで!?」

「だけってお客さん。空ですよ空!?物理法則とか重力的なサムシング難しいことすっ飛ばして飛べるようになるんだから安い安い。そしてそれよりなによりロマンがあります」


この女性の無駄なドヤ顔はさておき値段を聞いて男は焦った。

1ヶ月しか使えないのに1億ゴールド。

1流冒険者になって初めて届くような額を提示され自分が欲しい能力が手に入らないのかもしれないと思ったからだ。


「いや、そんな額は払えない...というよりも俺は100万ゴールドしか持ってきていない」

「100万?チッ、ではどんな安くてお手軽で夢の無い、空が飛べない能力をお求めで?」


露骨にテンションが下がり、隠す気の無い嫌味。


「ほら、あれだよあれ、その男ならわかんだろ?」

「女です」


冒険者の男が何かを言いよどみ、体を絶妙に気持ち悪くクネクネさせている。


「キモイです」

「だから、ほらあれよ」

「とりあえずクネクネするのやめてもらえます?」

「それがさー」

「聞けよお客様」

「女にモテる能力を」

「3億」


男が言い終わる前に女性がとんでもない額で遮る。


「3億!?空飛ぶ能力より高いじゃねぇか!?」

「モテない男性をモテるようにする代償が物理法則を捻じ曲げるより難しいってことだよ。言わせんな恥ずかしい」

「そんなに!?」


現実は無常である。

どんなに男が頼んでも3億ゴールドから下がることは無い。

それだけこの願いが常軌を逸しているということなのだろう。


「それじゃあ、そのなんか無いのか?全財産で100万ゴールドなんだ。この値段内で女にモテるようになる能力は無いのか!?」


必死である。


「女にモテていると自分が無駄に自意識過剰になる能力でしたらございますが」

「ただのイタイやつじゃないか!?」

「そうですね、空を飛べないイタイやつになります」

「どんだけ空飛ばせたいんだあんた!」


もう帰ろうか?

例え金があったとしてこの店が本物だという保証はどこにもない。

そう思い始めていたところに女性が何かを思いだしたかのように手を叩いた。


「あー、そういえばあれならありますよ。お客さんも運がいい」

「いや、俺もう帰るから...」

「まぁまぁ、ぶっちゃけレアですよ。なかなか出回らないんですが今なら100万ゴールドぴったしでお売りできますし、お客様の希望もある程度叶えられると思いますよ?」

「ほ、本当か!?」

「ウェイウェイ、焦る気持ちは分かるが落ち着こうぜブラザー。今裏の特にヤバげでなんちゃって封印された倉庫から取ってくるから」

「なんちゃって!?封印!?」

「アイル・ビー・バック」


なぜか親指を立てて裏へと消えていった女性を男はただ待つしかなかった。

封印されてるものはヤバイんじゃ…?

でもその分俺の願いも叶う可能性がある...

期待と不安を胸に待っていると女性が姿を現した。

横に透き通った女性と一緒に。


「ほれ、キミの願いを叶えてくれるかもしれない素敵なレディを連れてきたよ」

「あのー、透けてるんですが」

「そりゃ幽霊は透けるでしょ。何いってんのあんた」

「いやいやいやいや、普通に怖いって!!何じゃそれ!?え?幽霊?え?存在したの!?」

「そりゃ目の前にいますからねぇお客さん。現実受け止めようぜ。ほらあなたの新しいぎせっ…マスターとなる人ですよ、挨拶して」


何か気になることを言っていたがそれどころではない。

脳がパニックを起こしている男に徐々に幽霊らしきものが近づいて囁いた。


『髪の毛ぇ...』


「ひぃっ!!」


『髪の毛ぇ...がフサフサの男とかマジ許せないっしょ』

「はい?」

『ありえなくない!?マジ私の元カレェ、髪私のほうが綺麗なの気にしてて、でもーそれで私殺しちゃう感じになっちゃってチョーサイコなんですけどウケる!』

「え?何こいつ」

「要約しますと元カレに自分より髪が綺麗だったことを嫉妬されるというわけ分かんない理由で殺されたということだそうです。不憫ですよね」

「いや不憫だけどそれが何の役に?」

「あなたには彼女が 取り憑くと素敵なスキルを手に入れることが出来ます」

「取り憑く!?」

「スキル名は【ロストヘアワールド】、相手はハゲる」

「へ?」

「つまり対象にした男を瞬時にハゲさせることが出来る強力かつ凶悪なスキルなのです!」


後ろで無駄にファンファーレが鳴る。

演出してるの誰だ。


「いや、そんな能力いらないけど、ていうか幽霊がにじりよって来てるんですけどー!!!」

『あんたちょっと好み。ねぇ枝豆は右から食べる派?左から食べる派?あたし真ん中~』

「お客さんはもうちょっと視野を広げるべきですよ。いいですか誰でもハゲさせることが出来るんですよ...そう誰でもね」

「…ハッ!まさか!?」

「ふ、気づかれたようですね。そう!いままで自分よりモテていた男達。彼らが一瞬でハゲになっていき、気づけば髪の毛フサフサなのは自分だけ。そうなったら必然的に」

「俺がモテるようになる? いやいやでもそんな上手くいくわけ…」

「道端を歩いているリア充」

「うっ」

「人目もはばからずキス」

「うぅ」

「そして一人で歩いているとこちらが勝者であると見せびらかすような手つなぎ」

「うぐぅ」


男の耳元で留めの一言を囁く。


「そんなやつらの幸せをぶち壊しにしてみたくありませんか?」

「ああ...そうだな!」


論点がずれていることに気付くはずもなく。

男はスキルのレンタルを決意した。


「こちらの書類にサインをして頂きます。尚、クレーム、レンタルの途中破棄、返金等は受け付けてはおりませんので」

「ああ」


男はリア充をハゲさせることで頭がいっぱいだった。


「ではまた一か月後にいらしてください」

「ああ、じゃあ一か月後に...」

『あたしー、将来子供は二人欲しいと思っててぇー』


こうして男は新しいスキルを手に入れ、自分の家に戻っていった。


そして数日後彼は店に戻ってきた。

数日前よりやつれた姿で。


「あら、お客さん。どうしたんですがそんな幽霊に取り憑かれて死にそうな顔して?後2週間ほどありますが」

「原因分かってんだったら助けてくれ!もうこのスキル要らないからお願いだ!」

「お客さん、途中破棄は出来ないってちゃんと契約書に書いてあったでしょう?」

「たしかにハゲた。ああジョバンニの野郎も彼女とのデート中にハゲさせてやったさ!」

「なら良かったじゃないですか」

「だが、ハゲた貴方はスキンヘッドで素敵!、とかで結局前より仲良くなりやがった!なんでだ!なんで俺のところに女が来ない!」

「顔、性格、地位そして存在そのものが負けてるからじゃないですかね?」

「そして夜な夜なあの幽霊が俺に囁いてくるんだ。あたしがいるから大丈夫とか、一緒に逝こうよとか...」

「そりゃ取り憑かれてるからね」

「頭がおかしくなりそうで」

「いやだって取り憑かれてるからね」

「とにかく返品だ!いるかこんな能力!」

「そんなこといっても私ここの店主じゃないですし、ただの受付ですしおすし」

「じゃあ店主出せ!」

「出してます」

「どこに!?」

「そこに」


女性が指さしたところには先日、羽ペンで突かれ喘ぎ声をあげていたスライムがそこにいた。


『ヨロシコ』


「こいつが店主かよー!!!!」

「クロイツ・ニーゼル・ソッケンローさんです」

「やたらと名前が長いな」

「略して黒ニーソさんです」

『スキヤネン』

「ただのフェチじゃねぇか!!」


『ダーリンここにいたのー?』

「ひぃいい!」


例の女性の幽霊が壁の中から頭だけ出して男を見ている。


「いらっしゃーい」

『お久ー、新しいダーリンが迷惑かけてごめんね、ほら帰るよ』

「嫌だ、嫌だー!!!」

『ほら行くよ、もうすぐ洗脳も終わって何もかもどうでも良くなるから』

「ではまた2週間後に」

『はーい、じゃあまたねー』


透けた手で男の頭の中に突っ込んだ後、急に男も大人しくなり、二人寄り添う形で帰っていった。


「青春だねー」


そしてレンタル期間の一ヶ月が過ぎ。


『もうねー今のダーリンとチョー幸せなんだけど』

「良かったじゃん。お似合いだよ」

「アイシテルアイシテルアイシテルアイシテル」

『もういやだ~、人前でそんなこと~』

「ああ、アイシテルとだけ言う機械になってしまっている。これが愛の行きつく先なのだろうか」

『というわけで今回のカレが壊れちゃうまで取り憑いてて良い?ねーお願いー』

「しょうがないなぁ、他のお客さんが来たらちゃんと戻って来るんだよ」

『わーい!やったー!』

「アイシテルアイシテルアイシテルアイシテル」


山奥に存在するステータスレンタル屋。

今日もお客様のご来店をお待ちしております。

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