第8話 哀しき決意
「お願いです。お祖母様。必ず、あなたの言う通りに生きますから…。猶予を…いただけないでしょうか。妹が成人して、大切な人を見つけるまで、僕は…妹と共に生きたいのです。」
そう、頭を下げたのであろう幼い日の彼を私たちは生涯忘れることはないだろう。
静かな空間を襖の外で妹と二人、聞いていたのは、凍えるように寒い日だった。
私たちも、彼も、自らの血に連なる咎を、祖母を踏みにじる過去を知らないわけではない。二人の両親が何を想って、幼い娘をよそで暮らさせているかも。
それでも、彼が生まれて初めて願ったわがままとも言えない願いのために、私たちと、彼の親友は悪魔に魂を売った。
「選べ。お前の将来の自由と、幼い妹との短い時間。」
残酷な選択を突き付けたのに、彼はなんのためらいもなく、悪魔の手を取った。
痛いほどの沈黙の中、切り裂いたのは御祖母様の声だった。
「双子、いるんでしょう。入りなさい。」
私と妹を呼ぶ声に逆らう気はなかった。お祖母様の御前に立つと、御祖母様は
「お前たち二人は、この子を縛り続けると誓いますか。」
私と妹はそろって、頭を下げ続ける少年を見やり、言葉を紡いだ。
「それが、お祖母様の命ならば。」
それは、今までと何も変わらない。私たちと、弟の宿命だ。私たちの言葉に小さく、お祖母様は頷いた。
「苑と紫織はすでに了承済みなのでしょう。双子、園に告げなさい。娘の成人まで、二人を預けると。」
「承りました。母には必ず。」
御祖母様はくいっと顎をやる。私たちへの退出の指示だ。私と妹は頭を下げる。
「ですが、覚えておきなさい。あなたはこの雪村の家と共にあるもの。妹とは違います。」
「…絶対権力者は、お祖母様だというのに?」
「もともと女系のうちです。そして、それを崩さざるを得なくしたのは、お前たちの母親です。よく覚えておきなさい。」
「ええ、ですが御祖母様。自らの罪もお忘れにならぬよう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます