第6話 スノードロップ

静かな冬の早朝、校門の前に佇む二人の少年少女。

本来の年齢を逸脱した、規範から弾かれた二人だ。

「終わったね、和泉。」

「お疲れ様、杏里。」

偽名でありながら、二人によく馴染んだ名前だ。

校門の下の小さな花壇に、少年はしゃがみ込みそっと花を植える。

「毎回思うんだけど、その植え方であってるの?植え付けの時期とか、その他いろいろ無視してるわよね。」

少女はのぞき込みながら少年に尋ねる。

「さあな?これが咲くのも枯れるのも、こいつの運命。椿さんと紫苑さんが去るときにはやれというんだから。佐倉和泉と浅倉杏里を締めくくるために。」

「兄さんたち、この花好きよね。社名にするくらいに。これは私たちが存在した唯一の証明ね。」

彼女の言う兄さんたちの本当の名にちなんだ花、スノードロップ。小さく儚げな花だ。

椿と紫苑の名にちなんだものであり、咲と蕾が好むものでもある。そしてもちろん少女の名にも。

彼らの名乗るすべての偽名に花の名が含まれているのもそれが由縁だ。

「花言葉、かな。きっと。」

少年はほうと呆けたようなため息をつく。

「”逆境の中の希望””恋の最初の眼差し”なんてのは素敵だと思うけれどね。

でも、この花、贈り物にすると…。」

「”あなたの死を望みます”」

「それ。これは、この場所に贈ったことにならないのかしら?」

疑問で反抗的な表情をする少女に対して、少年は、少女と初めて会ったときと同じ笑顔を浮かべる。

「僕は師匠のセンスわかるけれどね。この花はとても優しく、無意味な花だよ。」

無意味な花、という言葉には微かな棘が含まれているが、そこに悪意は込められていない。

「綺麗な花だけどね。兄さんはそこまで考えてないだろうし。」

「紫苑さんは、それでいいんだよ。そういうのは、僕と椿さんの仕事。」

「ストーリテラーさんたちね。」

「そういうこと。」

少年は気障に少女にウインクを決める。

「これで、おしまい。帰ろう。」

彼女の本名を小さく呼んだ彼の姿は、幼さを纏ったまま、大人に戻っている。

「そうね。」

同じように、彼の名を呼び返した少女は、二人で冬の道に消えていった。

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