第5話 怜那の話

「行きなさい!怜那!」

「姉さん…。」

「…私とあなたは他人だけれど、誰より深く愛しているわ。…いつかまた逢えればいいわね。」

妹のように可愛がった娘を兄弟ではないけれど、兄弟として育った少年と、兄弟でありながら他人である少年と守ろうとするややこしい状況になるとは思わなかった。

燃え盛る火は、私たちの未来を暗示するように見えた。

燃え盛る地獄で生き抜くことになる二人の青年と、二人が黄泉路へ踏み出す理由である少女。そして、その間でどちらにもいけない知りすぎた私。

「怜那、お前だけでも、俺達の分まで自由になれ。お前が自由でいてくれれば、それでいいんだ。」

「みんな…。でも、それじゃ…!」

「いいから!早く!南に行け。あそこなら…。」

因果な運命は、私たちの間を無情に遮る。南に行け、それはこの先、燃え盛る地獄の火の中に踏み出す私たちができる最後の指示だった。

「罪の子は、私たちだけで十分よ。」

「怜那に未来を託して、俺達は炎の中に生きようか。」

「格好つけすぎ。」

「とりあえずは、守れるものを守って。燃やすものを燃やして。怜那だけは必ず守るぞ。でも…。」

「怜那を何より踏みにじる。」

それは私たち3人にとってとてつもなく残酷で、最後に示せる唯一の愛だった。

「罪もほころびもたいていは、愛という名の得体のしれないものから始まる。それを信じて何が悪い。俺らが怜那を愛し続けることは危険だ。俺達にとっても、怜那にとっても。」

「わかってる。」

「全員ここで死ぬ。それだけだ。」

「ええ、そして私は私を殺して…。わかっているだろうけれど、一生は持たないわ。」

「承知の上だ。俺達が成人するまで…。そうすれば、すべてを動かせる。」

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