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 カイルは高身長で黒髪、優しそうで一見すると大人しそうな微笑みをたたえる青年で、リオンはカイルと同じくらいの身長で茶短髪、ニパッという効果音が付きそうな明るい笑みを浮かべる青年。

 カインはこんな風な、いわゆる好青年と言われるような幼馴染み達と、学園でよく行動を共にしていた。

 カインの目は外の国の血のせいか、綺麗な青色で、髪の色はパッと見は黒っぽいのだが、よく見ると深い藍色をしている。

「次、体育じゃなかったかな?」

「お、マジ? ラッキー♪」

「リオンは体育好きだもんね。僕、サッカーは少し苦手なんだよねぇ」

「俺と同じチームになれば大丈夫だ!」

「カインは俺と同じチームになるでしょう?」

「なっ、ちょい待った。前回、カインと同じチームだったろ?今回は俺の番だからなっ」

 リオンの言葉に、知らん顔で首を横に振るカイルを見て、カインがくすくすと笑う。

 こんな至って普通の学園生活を送っているようである三人の青年たちには、しかし人には明かせない秘密があるのであるが、しかし当然そんなそぶりは態度には表さない。



「それにしても、カインへの注目度、すげぇよなー」

「僕が外の人間だから珍しいんでしょう」

「でも目立ちすぎるのも良くないんじゃない?」

「うーん、そうなんだよね。でも大丈夫でしょう? だってカイルもリオンも居てくれるんだから、ね?」

「そーだ! オレたちは必ずカイン、いやハイネの事守るからな!」

「ハイネに手出しするような奴が居たら、俺なにするか分からないなー」

「顔怖い、笑顔怖いぞ、カイル」

「ふふ。二人ともありがとう。二人がいてくれて本当に良かった」

「うん。……という訳だから、ハイネに憑いてる狗、外してくれて構わねぇんだけど?」

 不機嫌とも挑発とも取れる声音で言うのは、カイルだ。つい先ほどまでとは打って変わって、丁寧な様子などがその話し方からは感じられない。

 カイルは、その顔に似つかないような性格の方が本来のもので、優しい口調は(とある人物に対する時は除外して)完全に化けの皮、と呼ぶに相応しいものである。

 幼馴染みの面々はその事実を知っているので、幼馴染みだけでいる時には地が出るのだ。

『我はハイネを護る者だ。そなたらこそ、我のハイネに気安く触れるでない』

 カイルの言葉に続いて、また新たに別の人物の声が聞こえるが、姿はどうしてか見えない。

「チッ。俺はハイネに触れる権利を持ってるつもりなんだが? それに俺は前からお前のことは気に食わねぇんだよ。……男のくせにハイネの影になんか入りやがって。俺のハイネから出てけ」

「オ、オレだって、ハイネは大事な友達だから、オレだって触れる権利あるぞっ!」

 声に反論したカイルの後ろからリオンも言った。

『影は少し出入りが不便だが、我が常に表へ出ているのもハイネに負担がかかるからと、このようにしているというに、そなたはハイネに負担を掛けるつもりか?』

 その声と共に、床に写るカインの影から、和装のような、ヒラヒラと布がはためくような服装の人物が出てくる。

 色彩は全体的に黒基調で、黒い焔の宿る目元には隈のような模様がある。

『我が表へ出ると周囲の温度が少し下がるのだから、ハイネが寒い思いをしては可哀想であろう』

「ならお前は出ていけばいいだろ? ハイネのことは俺が温めてやるから」

『ふん、そなたなんぞに任せられるはずがなかろう? それに我は、ほぼ生まれた時からハイネと共にいるのだ。そなたの入る余地なぞ紙きれ一枚もありはせんわ』

「生憎、俺は狗なんぞに負ける気はさらさら無いね」

 ほぼ恒例になりつつある二人のやり取りを、話題の中心人物であるはずのカインと、放置されたリオンはぽやーっと眺める。

「ハイネは誰が何と言おうと俺のもんだ! なんてったって、俺たちは許婚なんだからな~」

『っ、それもまた気に入らんのだっ! 我の可愛いハイネを誑かしおって。可愛いハイネは優しさと純粋な幼心から、そなたの申し出を受け入れてしまっただけだというに、そのように調子に乗るなぞ!』

「はっ。負け狗の遠吠え、ってやつだろ?」

 売り言葉に買い言葉で、口論に決着が付かないのもいつものことである。

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お忍び学園生活記(仮) 祈影 星来 @sera179

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