第4話 小説を読みなさいよ!
それから雅島はボクに声を掛けなくなった。
昼の休憩時間は一人でどこかへ行ってしまう。放課後もすぐに下校してしまう。
考えてみればあいつとはハルヒの話しかしたことがなかった。
それを禁じられるのはボクと話をするなと言われたのと同じだったのだ。
正直、少し寂しい気はした。高校で初めてできた友人だったのだから。
しかし、気の合わない友人と無理に付き合い続けても、どちらも不幸になるだけだ。ボクはそう考えて自分を納得させた。
やがて世間はゴールデンウィークに突入した。暇を持て余していたボクは街に出た。
特に目的はない。なんとなく人ごみの中に身を置きたかったのだ。
適当にモールを歩く。適当にランチを食う。適当に休憩する。適当に古本屋に入る。
「これは……」
それは本当に偶然だった。百円コーナーに雅島の言っていた「暴走」が置いてあったのだ。
「なんだ、古本屋で安く手に入るんじゃないか。百円なら買っても良かったのに」
そう思って手に取った瞬間、棚に戻したくなった。
何だよこの表紙のイラストは。恥ずかしすぎるだろ。
レジを見る。若いお姉さんだ。こんな表紙の本を持って行ったら、
『ぷぷっ、何この人、ロリ属性? 妹萌え? 最近多いのよね、こんな男子、くすくす』
と言われかねないではないか。
仕方ないので同じ百円コーナーにあったイワナミの「郷愁の詩人与謝蕪村 萩原朔太郎著」を手に取ると、「暴走」の上に置いて萌えイラストを隠し、レジに並ぶ。
やがて自分の順番が来れば、
「えっと、頼まれていたのは憂鬱じゃなくて、消失でもなく、暴走だったよなあ」
と、自分の物ではなく誰かに頼まれた本であることをアピール。
こうして無事に手に入れた本を帰宅後すぐに読んでみた。
それはボクが初めて読んだラノベだった。
意外だった。
ページの下半分はメモできるくらいの空白、それがボクの抱いていたラノベ観だった。
しかしこの本は違っていた。普通に小説だった。
表紙カバーを捨て、数枚のカラー口絵を切り取り、読んでいる途中で唐突に出現するイラストを墨で塗り潰せば、本棚に置いても良いと思える本だった。
「ガトーに悪いことしたな」
腹が立っていたとはいえ、何もあそこまで言うことはなかったのだ。
雅島に悪気は微塵もなかった、ただ少し強引すぎただけだった。
できれば仲直りしたいと思った。
「俳句か……」
ボクは吟行ノートを開いた。
雅島はハルヒによって十七文字を究めたいと思っている、ならばその願いを叶えてやろう。
ボクはペンを回しながら句想を練った。
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