シュレディンガーの箱庭 レポート 5

 魔王は多くの国を滅ぼし、多くの人を殺害した。世界は荒廃し、人類は滅びへのカウントダウンへと突入した。

 なぜ人類は魔王を倒すことができなかったのか。圧倒的な能力を持っていたからか。多くの能力者たちを率いたからか。

 それらも一因ではあるが、一番の要因は誰も魔王の正体を知らなかったことだ。犯行声明のようなものも出さなかったから、声すら聞いた者はいない。どうせ全て滅ぼすつもりだからと考えられているが、本当のところは本人にしかわからない。唯一知っているのは、五年前、同じ場所に閉じ込められた愚者のみだ。その愚者も、魔王誕生の一翼を担ったとして酷い迫害に遭い、人前から姿を消した。後に愚者こそが魔王を倒しうる唯一の存在だと気づくが、気づいた時には遅かった。

 いずれ、魔王は我々レジスタンスにまでたどり着くだろう。我々の仲間の持つ力は、魔王にとって厄介なものになりうるからだ。

 魔王の力がどれほど強力であっても、唯一出来ないことがある。歴史の改編だ。だが、彼の力は、応用すればそれを可能とする。

 とはいえ、最後のピースである愚者がいなければ、我々の計画は成功しえない。

 階下で大きな爆発音が聞こえた。魔王の手の者に侵入されたようだ。まもなく、彼らは私を殺しにやってくる。最後の希望はここから離れている。どうか無事に、魔王の防衛網を突破してくれますように。そして、誰か、心ある者、魔王の理不尽に抗う者へ、このレポートが届くことを祈って。

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