シュレディンガーの箱庭 4

 起きてください、という声に意識が引っ張られ、覚醒した。くるまっていた毛布から体を起こすと、目の前に二宮がいた。心なしか、青ざめている。何かあったのだろうか。

「どうしたんですか?」

「米澤さんが、いないんです」

「いない?」

 どういうことだ。まさか、死んだのか。あたりを見渡すと、すでに起きていた武庫川、七尾が食糧庫から出てきた。こちらの視線に気づくと、七尾が横にふるふると首を振った。

「いなくなったって、いつから?」

 立ち上がって、彼らに近づく。

「わかりません。私が起きた時にはすでに」

 二宮が言うには、米澤を除く七名の中で、最も早く起きたのが彼らしい。らしい、というのは、起き上がり、トイレに行こうとした時に毛布にくるまっている僕たちの様子を横目で確認しただけだからだ。トイレを終え、自分の毛布に再び戻ろうとしたとき、毛布が少ないことに気づいた。一人一人に声をかけて回り、早くに起きた武庫川たちが探すのを手伝っていたようだ。とはいえ、こんな狭い場所では探すところも限られる。

「トイレも食糧庫もいなかった。昨日も探したけど、もう一度、どこかに隠し扉とか隙間とかないかと探してるところ」

 武庫川の声がしぼんでいく。結果は芳しくなかったようだ。

「だめだ」

 五木が音を上げた。

「手の届く範囲の壁全部叩いたり引いたりしたけど、何も出てこない。マジでどこ行きやがったんだあいつ」

 苛立ちまぎれに壁を蹴った。ゴッと小さく音がするのみで、反響音等がすることはなかった。

「もしかして、殺されたんじゃないの」

 震えた声を出したのは実川だった。

「殺されたって、いったい誰に」

 市川の問いに、彼女はヒステリックに喚く。

「そんなもの、能力者に決まっているじゃない!」

「死体もないのに、殺されたって決めつけるのは早いんじゃないですか?」

「米澤がいなくなってるのがその証明でしょう。人間を消してしまう能力なのよ。それ以外にいなくなった説明がつく?」

 そんなことありえない、と言い切れないのがつらいところだ。能力というでたらめな存在は、不可能という言葉を殺してしまった。

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