シュレディンガーの箱庭 レポート2

 愚者、と呼ばれる人物がいる。

 何故その人物がそう呼ばれるに至ったか、これもまた、五年前の事件が関係している。

 その人は、普通の人間でありながら、能力者を擁護するスタンスを取っていた。

 そのため団体から疎まれて、能力者たちを監禁し見世物にする『宴』の中に放り込まれてしまった。そして、全員が死ぬはずの宴で、彼は生き残った。偶然が重なり、愚者ともう一人はシェルターから脱出できたのだ。

 その一人が、後の魔王だ。

 事件後に覚醒した魔王は、何百万、何千万の人間を殺害し、いくつもの国を滅ぼした。あらゆる兵器も訓練された兵の大軍も、魔王の進撃を止めることはできなかった。

 故に、覚醒前の魔王を唯一殺せたその人は愚者と呼ばれる。間接的に多くの人間を殺す魔王を救ってしまったからだ。

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