シュレディンガーの箱庭 レポート1

 魔王、と呼ばれる人物がいる。

 特殊能力者の中で最も強大な力を有する人物だ。その人物が初めて歴史上で確認されたのは五年前のある事件が発端である。

 増加してきた能力者に対して、人々は酷い迫害を行っていた。人権を無視した扱いが多く、しかし誰も咎めなかった。今思えば未知に対する恐怖が人々を駆り立てていた。

 そんな中、ある団体が能力者を誘拐し、一か所に集めて監禁した。彼らの目的は、一種のゲームだ。

 八人単位でシェルターの中に閉じ込め、能力者たちに告げる。


 ・君たちの中に、一人だけドアのロックを解除できるチップを手に埋め込まれた者がいる。

 ・ロックの解除方法は、チップによる認証である。ドアの前にあるくぼみに手を入れればいい。

 ・ただし、チップのない人間が認証を行うとドアから電流が走り、死ぬ。

 ・食料は一週間分用意した。一週間以内に脱出しなければ、全員が死ぬ。


 死の恐怖が能力者たちを襲った。徐々に減る食料。蝕まれ、病んでいく精神。疑心暗鬼になり罵り合い、ついには殺し合いにまで発展し、死んだ者の手を使ってドアを開けようとした。中には自己犠牲精神を発揮し、自ら認証して犠牲になった者もいた。

 様々な人間模様が繰り広げられる中、団体はその光景を酒の肴に楽しんだ。誰が最後まで生き残るか賭けも行われた。彼らはこれを『宴』と呼んだ。

 彼らは能力者たちに対して一つ嘘をついた。ドアを解除できるチップなど、埋め込んではいなかったのだ。

 何度も狂った宴が開催された。誰も気づかなかった。団体を主催するのも参加するのも、世の権力者たちだったからだ。隠ぺい、秘匿は彼らの得意分野だ。それが権力者の特権なのだと彼らは当たり前のように考えている。

 そして五年前。宴はいつもと同じように行われ、いつもと違う結果を生んだ。

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