『 』残り時間 21,852,010,607
ニンゲンの遊戯のひとつに「かくれんぼ」というものがある。
オニと呼ばれる役割と、それから逃れるために隠れる役割に分かれて我慢比べする遊びだそうだ。オニに見つかってしまったら終わり、もしくは交代となる。ちなみにオニの語源は古くから言い伝えられている化け物だそうだ。
今で言うとオニは僕だった。死神だってニンゲンにとっては化け物とも呼ばれるし、似たような者かもしれない。
隠れた仁愛を探すため、街中を必死に駆けていった。数日前に“誤った生命”反応を探したように、縦横無尽に空を巡り巡った。何十往復もした。小さな姿を収めるには、街はあまりにも広すぎた。そして、ニンゲンもまた多く行き交っていた。生い茂る森の中の木一本を探すような、針の穴に糸を通すような、そんな困難が降り注いだ。
星々が鏤められる。街の灯りも点けられ、ぼちぼちとニンゲンが姿を消していく。街灯だけが照らされた住宅街にはほとんどニンゲンの影は減り、各々家々にそそくさと戻っていった。
まだ見つからない。生きている姿も、そうでない姿も、どこにあるのかわからなかった。跨線橋にもいなかった。さっきまでは川底をずっと這ってみたが無駄足であった。仁愛の足ではそう遠くには行けないとは予想しているが、ここから離れてしまったのだろうか。
気が付くと仁愛のアパートの手前に戻っていた。三階の高さまでふわりと浮いてみては、閉まり切った一室を見て失望する。
『……坊主、どうした。そんな必死な形相して』
同じくふわりと後ろから見慣れた姿が顔を見せた。もう離れてしまったかと思っていたが、まだこの街にいたようだ。
『死神兄さん……』
ナイフが敷き詰まったローブは軽やかにたなびく。死神兄さんは様子を窺うようにゆっくりとこちらに肩を並べてきた。
『そんな必死そうに動き回ってちゃ嫌でもこっちの目に入っちまってな。どうやら訳ありみえだが。聞いてもいいか?』
『…………そうですね』
遮光カーテンで見えない部屋を見つめながら、僕はこの間の続きを話した。
『例の僕が追っていた少女――仁愛の行方が見当たらなくなったのです』
『死んだ、ってわけではなさそうだな』
『はい。想像ですけど。そう簡単に死ぬようなやわなニンゲンではないと僕は考えてます』
『俺も聞いた限りじゃ、そうとも言えるしそうじゃないとも言えるな。もうかなりの時間が経過してるはずだ。
『魂……確かに、そのようなものを検知できてませんね』
死神兄さんは掌で空気を捏ねるように指を動かす。
『無意識に食っちまったらあれなんだが。このあたりは魂はそうそう出てくる感じしないもんな。魂の回収をやろうって行動しなきゃ、やれるもんもやれないよな』
『逆に、魂から探知することって、死神兄さんにはできます?』
僕の質問に対して、死神兄さんはすぐに頭を振るった。
『そんな細かいことは俺にはできねえ。第一、俺はそのニンゲンとやらを見たことも会ったこともないんだ。なんか、そういったオーラみてえなのを知ってればまだ希望はあるかもしれないが』
『オーラ……。それって、例えばですけど――』
それは一瞬だった。
光が迸るような、風が吹き抜けるような感覚。
ああ、悍ましい。そして懐かしくもある。僕が理解するにはあまりにも経験が少ないすぎた。だが、それが唯一無二の証拠でもあった。
『――っ!!』
この感覚はやはり忘れられなかった。
『これは……』
だが、その気配もまた刹那にして消え失せる。
不安定で、恐ろしくて、ドス黒くて。僕の背中を一瞬だけでも震わせた。
『駅……』
アパートより学校とは真逆の方向。大通り沿いから直通し、日中にニンゲンが集い通う場所。
この時間にはほとんど誰もいないはずだ。駅で働くニンゲンもそこは離れている。その中に、僕が知っている何かがいた。
『お、おい。坊主っ。急に、どうしたんだっ!?』
死神兄さんの掛け声にも顧みず、僕はその不安定な“誤った生命”反応に向かって一直線に駆け出した。
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