『夢現』残り時間 151:XX
へんな夢を見た。
ここは夢の中だってすぐにわかった。理由は……なんとなく、かな。
べつにほっぺたをつねってみたわけじゃない。いたいのはきらいだ。おちゅうしゃだっていやだ。大人になれないって言われても、そんなことをがまんしてまでなりたくなんかないや。
今は学校にいた。学校の教室の中だ。でもどこの教室かまではわからない。ぼくのクラスよりもつくえの数が多くて、ちょっとだけ広かった。
黒板の前の先生がよくいるところにだれかがいた。だれだろう。先生かな。気になったけど、気にしなかった。
とにかく帰らなきゃ。じゅぎょうはもうおわってて、夕日がしずんでいた。こんなおそくまでのこってたっけ。ランドセルをしょって、ドアに手をかける。
『…………』
その時。なんとなく、後ろをふりかえったんだ。黒板の前、やっぱりだれかがいた。先生じゃない。気になって、顔を見上げたんだ。
見えなかった。いや、見れなかったんだ。顔が黒くぬりつぶされて、なんか、きもい。人にむかってそんなこと言っちゃダメって教えてもらったけど、これはしょーがないよ。だって、ほんとにきもちわるんだもん。
その人?はふくもまたうねうねしていてきもかった。人なのかな。へんな人だ。顔みたいにふくも黒くて、なんだか動いていた。風のせいかと思った。でもちがった。ふくが生きてるみたいに、ふくが動いていたんだ。
『ウフフ……』
黒い顔の中にまっかなくちびるがあった。多分だけど、あの人は笑ってたんだと思う。なんでかって?わかんないや。ちょっとだけぶきみで、いや、うそ。めっちゃぶきみだ。じぃーっと見てられないや。
目を下にむけると、でも動いている服を見ちゃう。これもぶきみだっていうのもあるけど、むねのあたりにふくがなくて、はずかしくなってそらしちゃった。むねはふくらんでいた。大人な女の人みたいだけど、先生じゃなさそうだ。先生はこんなかっこうしないし、こんなにないし。
『ウフウウフフフフ……』
黒い女の人は細長いものを手にもっていた。ほうき?ちがう。かさ?……ちがう。あれは――大きな“かま”だ。よこむきのほうちょうみたいな、切る道具の“かま”。
“かま”をもっているなんてあぶないよ。地いきのボランティアで公園の草かりするときでも、お母さんはかしてくれなかった。手を切っちゃうからあぶないって。
今この人がもってるモノは、お母さんがもってた“かま”よりももっとでっかくて、もっとあぶなさそうだ。草よりも大きいなにかをかりとれそう。たとえば――。
ぼくは一歩後ろに下がった。いやなよかんってやつがしたからだ。目の前の人じゃない人は、また笑って、その大きな“かま”をかかげたんだ。
「ひっ――」
『…………』
“かま”はさっきまでぼくがいたところを切った。びゅんって風がふいて、ぼくのかみのけに当たった。
「へっ。あたらないよーだ!」
わけはわからないし、こわかったけど、このふしんしゃさんは上手じゃなさそうだ。ぼくはすぐにかけだした。ろうかはころぶとあぶないから走っちゃだめ?そんなこと言ってられるか。もっとあぶないやつがうしろからせまってるんだから。
後ろを気にしながら校門に向かった。女の人はゆっくりとこちらに近づいていた。早くはないが、じっとしてたらすぐにおいつかれちゃいそうだ。
「はぁ、はぁ。……もうすぐで、げんかんだ」
学校にはふしぎとだれもいなかった。まるでおやすみの日の学校みたいだ。そんな日にわざわざ僕は学校にきてたんだっけ?ちょっとふしぎだったけど、すぐに頭をふった。今はそんなこと考えてるよゆうはない。
校門をぬけた先には大きな道があって、向かいがわに交番があるはずだ。こまったことがあったらけーさつの人におねがいしてってよく言い聞かされてたから、おぼえてたんだ。まさか役に立つ日がくるとは思いもしなかったや。
「あれ……?おかしいな」
げんかんがあるはずのばしょには、ろうかがつづいていた。かいだんで下りて、すぐ左手にあるはずなのに。いつものがっこうとはちがうのだろうか。
そもそも、さいしょにいた教室がいつもの教室じゃなかったのだ。ほーこーおんちじゃないけど、もしかしたらはんたいがわに出てしまったのかもしれない。
後ろをふりかえる。まだきてないみたいだ。すぐにランドセルをしょいなおして、ろうかをはしる。
角をまがって、でもまたろうかがつづいていた。ずっとにたような景色。学校はコの字の形をしてるから、つきあたりはいきどまりのはず。でも、ろうかはつづいていた。
もういちどだけ、角をまがる。まだつづいている。そろそろ、息がきれてきた。さいごにもういちど角をまがった。
「う、うわぁ!」
なにかにぶつかった。だれもいなかったから、だれかがいるとは思わなかったんだ。走ってたぼくがわるい。すぐにごめんなさいをしようとして、顔を見上げた。
その顔は、見おぼえのあるない顔だった。
「あ、ああ。ああぁぁ……」
『ウフフ。こわがらなくてもいいワ。ぼうや、いいコ。わたしのじっけんにきょう力してくれないかしラ?』
しりもちをついたぼくは、その女の人に足がないことがわかった。人じゃない。ゆうれい?ちがう。ふしんしゃ?……ちがう。この人は大きな“かま”をもっていたんだ。
しにがみ、だ。
「あああぁ――っ!」
しにがみの体からのびてきたへびがぼくのくびにかみついた。みうごきがとれない。うごけない。めもわるくなってきた。
『……テ、――なはんのうを、見…………。……ウウフフフフ――』
なにもきこえない。うっすらと、しにがみが大きな“かま”をふりかぶるのがわかった。わかっただけで、よけることができなかった。
「――……はっ!」
目がさめて、ゆっくりと顔をおこした。
ぼくは学校にいた。学校の教室の中だ。ここはぼくの教室だとわかった。六れつと五れつのつくえがあって、ろうかがわにぼくのせきがある。見なれたクラスだ。
黒板の前の先生がよくいるところに先生がいた。あたりまえだ。どうしてそんなことを気にしたんだろ。
とにかく帰らなきゃ。じゅぎょうはもうおわってて、みんなばらばらになってた。ランドセルをしょって、ドアまであるいた。
『…………』
その時。なんとなく、後ろをふりかえったんだ。黒板の前、やっぱり先生がいた。先生はこくばんをけすのに夢中だった。
なんか、さっきまで夢を見てたんだ。夢?ねてたっけかな。あんまりおぼえてないけど、でも、先生を見たとたんに、ぞわっとしたんだ。先生がこわかったんじゃない。でも、なんだかとてもこわくなってきた。
へんなあせが出てきた。首をかいて、ろうかにでる。いつもどおりのろうかだ。あたりまえだ、なんでこんなことを考えてるんだろう。
だれかに名前をよばれた。クラスでなかのいいともだちだ。今週の土よう日にあそぼうって。ごめんね、その日はお母さんとやくそくしてたんだ。そう言ってから、いっしょにかえろうとさそった。なんだか、今日は一人でかえりたくない気分だった。
やさしいともだちはおっけーってすぐにランドセルをとってきた。ぼくは、なんだか、ともだちがいっしょにいることに今はとても安心しているきもちだった。
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