第16歩  『強欲』

  

  スープを啜る音だけが部屋に響く。

レイもフラエも喋ろうとはしない。

時々目が合っては、そらし、合ってはそらしの繰り返し。


 ーーーやっぱり、早まったかな。


 軽い男だと思われただろうか。

「えと、じゃ、じゃあ僕は先にお風呂を頂いてくるからっ!」

場の空気から逃げるようにレイは席を立つ。

「は、はいっ!おあがりなさってくださいませっ!!」


ーーー若干、言葉使いがおかしくなってるよ・・・。


 

 部屋に残ったフラエは、レイの出て行ったドアを見て、何かを決心したような顔をする。

事が起こるまで、後少し。



 ◆◆◆



 レイの入る風呂のドアを誰かが叩く。


ーーーというか、僕の他に一人しかーーー。


 「れ、レイさん。フラエです・・・」

「う、うん。何かな?」


そして、彼女は言った。


「私も・・・入って、いいですか?」


・・・・・・・・・。

・・・・・・。

「え・・・・・・・・・?」

戸惑うレイを置いてけぼりにして、ドアは開く。

そこには、すでにタオル1枚の半裸になったフラエ。


「え、えぇ・・・・・・!?」

まだ思考が追いついていないレイはあわあわと口を開閉するばかり。


「お、おじゃまします」

顔を赤らめながらもフラエは1歩踏み出す。




 「え、えと、な、なんで・・・・・・・・・?」


広い浴槽の中で互いに反対側を向いて、湯につかる。


「そ、その、レイさんのお、お背中を・・・」

「いや!流さなくていいからっ!!」

「そ、そんな・・・!ま、前を洗えだなんて、は、恥ずかしいです・・・」

「それもしなくていいからっ!!」


ーーーんな!なんでこんなことにぃ!!


 後ろから聞こえる、湯の動く音に神経が集中する。


・・・・・・・・・。


ーーー無言の時間がつらい!!


「もっ、もう上がるから!!」

前を隠し、脱衣所に向かおうとする、その腕をフラエがつかんだ。

「ま、待ってくださいっ!」

「え・・・?わっ、ちょっ」

レイの足がもつれる。

なんとか、倒れるのは防げたものの視線はフラエの方を向いてしまっていた。


「「あ」」


 二人とも、互いの全身を見たまま固まる。

どちらも、タオルも何も巻いていない、人そのものの姿で。


「あっ・・・う、えっ!?」

風呂場の熱気で、フラエの長い白髪はくはつが体に貼りつき、妙に扇情的で、レイの欲望を刺激する。



 互いに固まったまま動かない。

目だけが、やり場に困ったように動き回る。




・・・・・・・・・夜はまだ続く。

   



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