第15歩 『戸惑い』


 「グギィッ!!」


 森の中にある湖のほとりで黒狼エンドウルフが叫んでいた。

レイの蹴りが黒狼の脇腹にささる。

続いて、空中の銀色の線が走る。


「グ、ギャァ・・・」


 黒狼は力なく地面に倒れ込んだ。


 今レイは、お金を稼ぐために仕事を請け負った仕事をこなしているところだ。

依頼内容は、黒狼の群れの討伐。

人を襲うことが頻繁にある黒狼は、名の通り体が真っ黒で、瞳は爛々と赤く光っている。そして、頭には一本の角。

 

「これで、最後か・・・」


 モンスターを殺すことに抵抗がないわけではない。

ただ、倒す。倒さなくてはならない。

人間や亜人に害を及ぼすからモンスターなのだ。

もしかすると、世界のどこかには自我のあるモンスターもいるかもしれない。

人類と意思疎通の出来る種もいるかもしれない。

 だが、人に害を及ぼすなら殺す。

それが、冒険者の仕事だ。


「早く戻らないと」

落ちている魔石を拾い集める。

屋敷にはフラエがいるはずだ。

あそこにモンスターが入り込むことが、ないとは言えない。

ゴブリンの件もある。

自然とレイの足の動きは速さを増す。


 


 町で魔石を換金し終えたレイは屋敷に戻ってきていた。


「フラエ、ただいま!」

彼女の部屋の前から声をかけると、ドアの向こうから慌てたような声が聞こえてきた。

「れ、れれレイさん!!?お、おかえりなさいっ!!」

早口でまくしたてるフラエ。

昨日からずっとこの調子だ。


 一昨日、レイがフラエに気持ちを伝えてから。

昨日は朝から、レイの顔を見て逃げ出したフラエ。

どうやら、大分ダメージがあるようだ。

 主に心に。


「す、すぐにお夕飯を作りますからぁ!!」

「いや、いいよ。今日は僕が作るよ?」

あの調子では、食事をレイに持って行くことなど出来ないだろう。


「で、でもぉ・・・・・・・・・。うぅうぅぅ・・・」

 渋っているようだ。

結局、フラエは折れ、レイが夕食を作ることになった。



 多少なりと調理の経験があるレイは、次々に料理を完成させていく。


「これってフラれたってやつなのかなぁ・・・」


 一時的料理長の少年の的外れな言葉がキッチンに響いた。












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