第10歩 『死闘』
ゴブリンの巣の最奥。
大広間らしき場所で、レイと、“ゴブリンの王”は対峙していた。
双方、相手をじっと見つめたまま動き出さない。
レイの頬を汗がつたる。
“ゴブリンの王”が息を吸い込み、
「ヴオオオオオオオォオオオォオオオオオオオオオオッッツ!!!!」
床が揺れるほどの雄叫びをあげた。
ーーー怖い!怖いっ!!
剣を構える手が震え出す。
自分より遙かに大きく圧倒的な威圧感の敵に、レイの決意は揺らぎそうだった。
ーーー今すぐ、ここを逃げ出したい・・・・・・
・・・っ!
・・・・・・でも・・・っ!
レイの背後には、フラエがいる。
まだ、震えがおさまっておらず、両手で身体を掻き抱いている。
ーーー逃げ出すのかっ!?
ここで、フラエを見捨てて?
逃げたら、僕は助かるかもしれない。
そんなの・・・・・・・・・。
出来るわけないだろっ!!
逃げたら、フラエは間違いなく死ぬ。
なら、逃げれるわけない。逃げちゃいけない。
少年は決めたのだから、彼女を助けると。
彼女のため?
違う。
自分のためだ。
彼女を死なせたくない。死んでほしくない。
ーーーだから、守る!!
決意を改め、目の前の怪物を睨み付ける。
だが、それでも、“ゴブリンの王”に勝てるわけではない。
王の威圧感は変わらない。
時が止まった。
王も、少年も、相手だけに意識を向ける。
そして、互いに向かって駆けた。
ドッ!と地を蹴る音が同時に響いた。
そして、互いはぶつかる。
王の棍棒が音をたて、空中を走る。
レイは、“ゴブリンの王”の攻撃を間一髪のところで避けていく。
ーーー 一撃でも受けたら、それで
終わり・・・・・・!!
右から、迫る棍棒を片手剣で上へ流す。
凌ぐ。
凌ぐ。
凌ぐ。
何十回と王の猛攻を凌いだだろう。
レイの呼吸が、どんどん荒くなっていく。
上から振り下ろされた獲物を、レイは左へずらしながら右に避けた。
だが、避けた先に“ゴブリンの王”の左腕が迫っていた。
「がっ!!・・・・・・ふっ・・・」
豪腕はレイの脇腹を直撃した。
体勢の崩れたレイに、王は棍棒を振りかざした。
うなる音、そして、嫌な音をたて、レイの体が吹き飛んだ。
「・・・・・・・・・かはっ!」
レイの口から血が飛び散る。
「レイさんっ!!!」
フラエが叫ぶ。
倒れ込んだレイに追い打ちをかけるように、3体のゴブリンが取り囲んだ。
内一匹が、レイの腹を蹴る。
「がっ!!」
口から、血が大量に吹き出た。
「いや!いやぁ!!」
フラエは駆け寄ろうとするが、足が震え立ち上がれない。
そんなフラエを見て、一匹のゴブリンが卑しい笑いを受けべ、彼女の方に歩き出した。
「・・・・・・・・・ギッ?」
だが、その足は止まる。
「レイ・・・さん・・・・・・」
ゴブリンの足を少年の手が掴んでいた。
静かに少年は立ち上がる。
そして、その
彼の瞳は、まだ燃えていた。
少年を取り囲んでいたゴブリン達が、まるで彼に威圧されように後ずさり始める。
“ゴブリンの王”は思った。
なぜ、目の前のちっぽけな人間はそんなボロボロになっても、尚、立ち上がろうとするのか。
なぜ、そんな目をするのか。
今まで、誰かが自分を見る目には、畏怖の感情しか無かった。
だが、この少年は違う。
自分を恐れながらも、敵対心を向けている。
ニィッ・・・・・・っと王の口角が釣り上がった。
互いに、相手を睨む。
そして、地を蹴り、駆けだした。
レイは王の攻撃を凌ぎ続ける。
「グガァアッ!!」
王が棍棒を横に薙いだ。
レイはしゃがみ、紙一重で避ける。
王の重心がずれ、片足によった。
初めて、王が隙を見せた。
打ち下ろした、レイの片手剣が王の肩に入った。
「グギャァッ・・・!!」
続けて、腹を真一文字に切り込む。
王の体が大きく揺れた。
レイは、深く、腕を振り絞る。
そして、
「うぁあぁあああぉぉおぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
咆哮し、王の心臓を突いた。
「・・・グゥッ!・・・・・・ガァ・・・・・・・・・」
ドプッと音をたて、王が吐血する。
王の腕が棍棒を振り上げようとし、そして、力なく落ちた。
王の巨体が傾く。
“ゴブリンの王”は床に、倒れ込んだ。
「・・・・・・はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」
レイは息を荒げ、その場に佇む。
彼の体も限界だった。
ふらっと揺れ、膝からこぼれ落ちる。
「・・・・・・・・・あ・・・」
倒れそうになったレイの身体を温もりが包む。
フラエが彼を抱き留めていた。
優しく微笑む彼女の両の瞳からは、大粒の涙が溢れていた。
彼女の頬に手を伸ばし、レイは意識を手放した。
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