少年の望み 少女の願い

第11歩 『英雄』



 額を温もりがなぞる。

「ん・・・・・」

「あ!も、申し訳ありません!起こしてしまいましたか?」


 レイがうっすらと瞳を開けると、視界に白髪はくはつの少女の顔が飛び込んできた。

出会ってからまだ、何日と経っていないがよく見知った顔だ。

「・・・・・・・・・フラエ」

これは、膝枕というものだろうか。

「レイさん、どこか痛みはありませんか?」


ーーー痛み・・・・・・・・・。

   あ、そうか。僕は、

   怪物ゴブリンの王と戦って・・・・・・。




「僕は、勝てた、のかな」

「はいっ!と、とても、かっ、格好良かったですっ!!」

フラエは、満面の笑みで首肯した。




「僕は、君を・・・・・・」

ーーー守れたのかな。

そう紡ごうとしたレイの口の動きは停止した。

「・・・・・・・・・え?」

フラエの唇が、レイのひたいに微かに触れていた。


 そして、離れていく。

膝に頭をのせたレイを見下ろすフラエの顔は、耳まで朱に染まっていた。

「レイさん。ありがとう、ございます・・・・・・・・・!」

少女の紅の瞳から涙が一滴こぼれ落ちる。



 少し逡巡しゅんじゅんし、そしてレイは、微笑んだ。

「うん・・・。無事で、よかった」



 ◆◆◆





この日、少女の中で少年は【英雄】となった。





 ◆◆◆


 少年少女は屋敷に戻ってきた。

「ち、散らかってますね」

2人は、フラエの部屋の前で固まっていた。

ゴブリン達に荒らされ、部屋はグチャグチャになっていた。


「ぼ、僕も片付けるの手伝うよ」

レイは苦笑しながら、散らばった本を集め始める。

「お願いします・・・」

 フラエも、壊れた家具の欠片を集めようとして、気づいた。

レイが、手を伸ばそうとしているところにーーー。

「れ、レイさんっ!!そこはダメですっ!」

「えっ!?」

急に飛びついてきたフラエにレイの体が揺らめき、そのまま倒れ込んだ。



 「い・・・・・・っつ!」

打った頭を押さえる。

「ご、御免なさいっ!・・・・・・・・・って、あ、え?~~~~~~っっ!!?」

フラエが何かに気づきボッと顔を赤く染め上げた。

「ど、どうかした?」

不思議に思い、レイはフラエの視線の先を見る。

ーーーと、そこにあったのは。


 下着だった。


 「え?」

 下の、下着。

ソレも、一着どころではない。

何十枚と下着が散らばっていた。

「ーーっ!れ、レイさんっ!こ、こここれは、ですね・・・・・・」

フラエが涙目で慌てる。

「だ、大丈夫だよ?フラエ」

レイはフラエを安心させようと、ニコッと微笑み、



 「し、下着なんて一着も見てないから」

その言葉がフラエにトドメをさした。

「う、うぅう~~~っっ!いやぁぁぁあああああああぁああああ!!!!!」

絶叫。

そして、フラエは自らの部屋を飛び出していった。





「え、えと・・・・・・。掃除、した方がいいのかな?」

あとに、残されたレイは誰もいない部屋の中でそう尋ねるのだった。






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