未来との会話
七式
未来との会話
「実は未来から来たんだ」
先輩は自分の皿に手を付けながら、人の賑わう店内でそう零した。あまり冗談を言う人でもなく、真面目で優秀な人だと思っていた。
「そうなんですね。何をしに来たんですか」
私は冗談に乗っかる事にした。
「まるで信じてないといった返答だな。そうだな、楽しみに来た。」
「楽しみにですか。未来より楽しい事がこの時代にあるんですか」
先輩は最後の一口を食べ終わり、水を飲み干しゆっくり話し始めた。
「今からずっと未来は平和な世界だ。今の時代の厄介事は全部解決していて、面倒事は全部機械がやってくれている。戦争も差別も無く皆平等だ。」
「まさに理想の未来像ってやつですね。」
皮肉交じりに答える。全ての人が望む未来だと思った。だが先輩はそれに笑いを堪えながら答えた。
「そうだろう。そうなるように今の人々が知恵を絞り、行動した結果の未来なのだから」
先輩は続ける。
「けれど面白いものではなかった。全てが合理的に管理され、予想できない未来が無くなるというものは。少なくとも私は。同じように過去に飛んだ人々は」
少し強い言葉に、今までの言葉を信じてしまいそうになる。
「なぜこの時代だったんですか。もっと面白い時代もあったのでは」
「確かにたくさんの時代があった。そのどれもが魅力的だった。どの時代でも良かった。自分で選びその責任すら自分の物になる事が、すでに望んだものだった」
唖然としてしまった。いくら冗談でもその話し振りは本当の事の様に思えた。
「食べないのか」
そう言われて初めて自分の食事が進んでいない事に気付いた。急いで自分の皿を平らげると、先輩がこちらを向いていた。
「信じてない顔だ」
「勿論ですよ。よくできた話だと思いますが」
その反応を楽しむように先輩は笑った。
「出ようか」
そう言いながら席を立つ先輩を追いかける。出口に立った先輩が少し大きな声で言った。
「◎▽✖」
ドコの言葉かは分からなかったが、数人が席を立ち私たちを見つめた。外に出た先輩は笑顔でこう告げた。
「未来の言語だ。何人かこっちを見ただろう。あれが管理された未来だ」
冗談じみた現実に笑いが出てしまった。
「それで、今の時代は楽しめてますか」
「楽しむ事を見付けようとする事こそが、すでに楽しい」
未来との会話 七式 @nanasiki
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