sweet_home

@yoH28

第1話 28日目

 28日目。

 食事の支度をしないといけないわ。キッチンにはところどころ蜘蛛の巣が張っているけれど、私はそんなことは気にしない。蜘蛛の巣に触れるなんてこと、私、出来ないし。

 「あなたにっとっても大切なキッチンですものね。」

 今日の私は余裕があるの。たとえ醜い蜘蛛でも見逃してあげる。いえ、今日の蜘蛛ちゃんはその長い脚に色気さえ感じてしまうわ。素敵。ああ、それにしてもどうしようかしら。ええと、パンはあるわね。それと、まあいいわ。サラダを作っておきましょう。

 「その前に、ぶどう酒はあるかしら。」

 倉庫へ足を運ぶ。栓の空いてない瓶が3つもあった。

 「このラベルは南部地方のやつね。私、知ってる。南部のお酒は香りがいいから好きよ。暖かいところで惜しげもなく香りを振りまいて育ったのね。いけない子。」

 気分いいと独り言も陽気になるわ。

 「あら、これも知ってる。私が3日前に買いに行ったものだわ。でも、そうねぇ、このあたりのお酒じゃつまらないかしら。」

 「このお酒は駄目ね。これは、なんでもない日になんとなく飲むものよ。」

 今日のお酒は決まり。香りのいいお酒が一番いいわ。ご飯を食べ終わっても、ゆっくり飲んでいたいから。さあ、キッチンに戻るわよ。

 「っと、いけない。」

 熟成させておいたお肉があるのだった。閉まりかけていた扉を再びあけて倉庫へ戻る。浮かれているのね。ついつい行動に無駄が出てしまうわ。お肉をとったらキッチンへ。火をおこさないと。お野菜は菜園からとってきた新鮮なものを。

 「ああ、早く夜にならないかしら。」

 こみあげてくる気持ちがついつい口から零れ落ちてしまう。私のお口もなかなか我慢のきかない、はしたない子なのね。それでも夜が待ち遠しい。早く帰ってこないかしら。私の愛しい愛しいあの人。こんなに短い間にこんなに頭から離れなくなるなんて。私、馬鹿になっているのかしら。まだ会って間もないけれど、今日はいつもと違う自分を見せたいの。鼻歌を歌いながら料理をしましょう。おいしいぶどう酒に、とっておきのお肉。パンはいつも通りだけれど、これくらいは仕方ないわ。

 「ああ、そうだ。いいことを思いついた。」

 今日の私は浮かれているけれど、少し冴えているかもしれない。心が高ぶっているのね。何もかもがいい方向へ向かっている気がする。

 「料理が終わったら、着替えをしましょう。」

 今日はとっても特別だから、胸元の開いた素敵な服を纏いましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

sweet_home @yoH28

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る