027: 意外な事実

「やあ、あんたら冒険者かい?」


ここは、大樹ミラの数ある呉服屋の一つ、ギール工房。


店主のギールが、先程店に入って来た不釣り合いな3人組に声を掛ける。

店主が不釣り合いと思うのも無理はなく、一緒に居ることから恐らく仲間内なのだろう事は容易に想像付く。


一人は、まだ年端もいかない少年。

身なりはボロの布切れ1枚というなんとも見窄らしい格好だった。一見したら孤児にも見えるが、目付きが悪いため近寄り難い空気を醸し出している。

一人は、10代半ばの少女。

華奢な体躯で、こちらはボロとまではいかないまでも質素な服装だった。

あちこち擦り傷も見られ、衣服も破けており、際どい部分が見え隠れしていた。

顔立ちは悪くなく、小綺麗な格好をすれば道行く男性は放っておかないだろう。

最後の一人は、筋骨隆々の大型の人物。

年の頃は見た目30後半程度だろうか。

自信に満ちた顔立ち、何処か男らしさを感じ、女性にモテそうな感じである。

格好は、一目で分かる程に立派な高価な鎧を身に纏っていた。


パッと見、父親とその子供二人には見えなくはないが、格好の違いが不自然だった。

高価な鎧を着ているあたり、お金に不自由しているとは思えなかった。

そんな親が子供に対して服を買わないとは考えられず、結果道中で孤児でも拾ったのだと店主は勝手に自己解決していた。


実際は無一文だという事は当然店主は分からない。


「あ、えっと、あはは、冒険者ではないです。私たちは親子で、ええっと、こっちが父親です」


少女が辿々しく説明し、ペコリとお辞儀する。


「店主よ、この二人に服が欲しいのだが、適当に見繕ってくれぬか。それと、生憎とお金を持ち歩いていなくてな。これで足りるか?」


ブラッドは、懐から拳大の光り輝く巨大な宝石を取り出した。

流石にそれを見たギールは、驚きのあまり後ろにズッコケる。


「は、はいいい!お嬢様方に素敵な御召し物をご用意させて頂きます!!おい!シュリ降りて来い!お客様だ!」


声の裏返った店主の呼びかけに階段から現れた人物は、ギールの娘のシュリだった。

ニッコリと微笑み挨拶する。


「いらっしゃいませ、お客様」

「シュリ、後は頼むぞ。くれぐれも粗相のないようにな。くれぐれもだぞ」

「俺は外で待ってるぞ」


ブラッドは、そそくさと外へ出た。


暫くして、ユーリとクゥが見違える姿で店の外へと出てくる。


「ごめんなさい、色々と選んでいたら遅くなりました」

「別に急ぐ旅でもないだろう」


まるで何処かのお貴族様のように見違える格好をして出てきた二人。

あまりにも高価な支払いに店主が奮発してしまったのだろう。


クゥがユーリの袖をクイクイと引っ張る。


「ユーリ、これ動き辛いぞ」

「大丈夫、すぐに慣れますよ」


満更でもない様子に若干頬を薄紅色に染めているユーリだった。


そんな3人の前に一人の人物が近寄る。


「すみません、少しお話しいいですか?」


逸早く彼等の居所を付き止めたリンだった。


(リン、ちょっと話し掛けて大丈夫なの?あいつらでしょ?)

(うん、流石にこの展開は僕も想像してなかったよ。でもね、あまりにも雰囲気が違うと言うか、とにかく誰彼構わず襲いそうな雰囲気じゃない事は確かだよ)


リンは、ビーに頼み厄災の暴魔達の居所を掴み彼等の前に姿を晒した。

当初は先手必勝で奇襲を仕掛けるつもりでいた。

しかし、実際に彼等を見ると果たしてそれをしてしまっていいのか?と自問自答に駆られていた。


「あ、はい?私たちの事ですか?」

「ユーリ殿、下がれ」


何かを感じ取ったブラッドがユーリを後ろに下げる。


「どうやらこの御仁はクゥ殿に用があるようだな」

「ん、こんな奴知らんぞ?」


何処かピリピリとした剣呑な空気が場に立ち込める。


「単刀直入に聞きます。厄災の暴魔は貴方ですよね?」


「「「・・・」」」


暫しの沈黙が流れる。


「・・・・えっと」

「ん?何んだそれ?」


互いが顔を見合わせ、3人とも何の事だか分からないと言った感じだった。


(リン、人違いって事はないよね?)

(それはないよ。彼から感じる気配はあの時ほどではないにしても同じものだからね)


「よぉ、兄ちゃん達」


そんな3人の背後から近付く集団。


「おいおいこんな中層域に貴族がいるぜ、しかも護衛も一人・・・いや二人か?」


突然騒がしい第三者が3人とリンの前に現れる。


「今度は何だ?」

「その子供と娘、俺たちに貸してくれよ」

「え、何?私?」


5人連れの男たちはゲスな笑みを浮かべていた。

ユーリ達は知る由もなかったが、この辺り一帯はあまり治安の良い場所ではなく、こうした貴族を狙った誘拐まがいな犯罪行為がしばしば行われていた。


その中の一人が強引にユーリの腕を掴もうとする。


しかし、ブラッドに阻まれ掴もうとした男の腕がグシャリと変な方向に曲がる。


「ぎゃぁぁああ!いっ痛てえええぇぇ」

「な、何しやがる!」

「やりやがったな!おい、お前らやっちまえ!」


何処からか武器を手にした4人がブラッドへと襲い掛かる。


(ちょっとリン、あいつらヤバいんじゃない?)


ブラッドは一瞬の内に発動させた魔術で全員を地面へと縛り付ける。


「な、なんだこの重さは・・」

「動けんぞ・・」


動けず悶え苦しむ賊にクゥが近付く。

クゥが巨大な黒い腕を出現させたかと思うと…


「クゥちゃん、ブラッド!争いは駄目です!」

「ん、今度はあっちから仕掛けてきたのに駄目なのか?」

「はい、駄目です!もう十分です。解放してあげて下さい」


理不尽な力の差に、手を出してしまった事を賊は大いに後悔した。

襲おうとしたユーリ自身に命を救われた賊は、ただ一言「悪かった」とだけ告げ、一目散に退散した。


「で、お前はどうするんだ?」


これは、作戦変更かな・・。


「自己紹介がまだでしたね、僕の名前はリン・スカーレット。萬屋の仕事をしています。まぁ、いわゆる何でも屋ですね」

「その何でも屋が俺たちに何の用だ?」

「はい。それなんですけどね、この場所ではちょっと話しにくい内容ですので、出来れば場所を変えたいのですが宜しいでしょうか?」


3人は顔を見合わせた。

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リンの萬屋奮闘記 砂鳥 ケイ @satori332

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