024: 追われる者と追う者
ユーリ視点
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「どうやら囲まれているようだな」
「え、何処ですか?何か見えます?」
「6人・・・いや7人かな」
「えっと、どの方向ですか?」
「大した事はないのだろう?」
「どうかな。動きはそれなりかな」
一人蚊帳の外で、全く会話に入れないユーリ。
ブラッドは前回の盗賊の襲撃を受けて、対抗策として、この辺り一帯に索敵されない特殊な結界を貼っていた。
しかし、あくまでも遠方から索敵出来ないだけであって、視認されれば何ら意味をなさない。
「折角来たんだからな、歓迎してやるか」
クゥが歩き出す。
【
背後から発せられた魔力の奔流の後、広範囲に渡り、白い巨大なカーテンがこの辺り一帯を取り囲む。
魔法を行使したブラッドにクゥが振り返る。
「逃げられぬように結界を貼っておいた。外部への連絡も遮断してくれる」
「ふうん。ブラッドはいろんな事が出来るんだな」
「伊達に長く生きていないさ」
ここでも話についていけない私・・・
だけど、ついさっき、自分の心の中の整理は出来たんだもん。2人の道標になろうって!
ユーリは何度も自分自身に言い聞かせた。
「待って下さい」
背後から発せられた言葉に前を歩く2人が振り返った。
「2人とも争いは駄目です!」
2人が疑問の表情をユーリに向ける。
「何故だユーリ。あっちはやる気満々だぞ?」
クゥは、至極当然の事だと反論する。
それに関してはブラッドも頷いている事から同意見のようだ。
「少なくとも、まだ何もされていません。こちらから手を出すのは駄目です」
「ユーリ殿、手をこまねいていては、足元を掬われる事もある。やられる前にやらねばならん」
「それでも駄目なんです。お二人はお強いのでしょう?先手を取られたくらいで負けてしまわれるのですか?」
いつもとは違い。ユーリは強気だった。
当然、内心ではビクビクしている。
私なんかが、ただの非力な私なんかが、この2人に意見して、ましてや聴いてもらえるわけがないと。
2人は顔を見合わせた。
「うむ。それもそうだな」
「ユーリ殿に従おう」
「ふぇ?」
予想だにしない返答に思わず変な声を出してしまった。
「い、いいのですか?」
「何がだ?」
「いや、私なんかの意見を聴いて頂いて」
クゥとブラッドが再度互いに顔を見合わせる。
「どうやら我々は今の此の世界に疎いようだ。ユーリ殿の意見を尊重しよう」
「別に構わぬが、あっちから攻めて来たぞ?」
クゥの視線の先には、2m級の火球3つが現在進行形で、こちらに向かって飛んで来ていた。
「俺がやるか?」
「任せる」
ブラッドが手を前へと翳す。
すると、今まさに迫って来ていた火球が綺麗さっぱりと消えてしまった。
「え、な、何が起こったの?」
事態に同様していたのは、ユーリだけではなかった。
茂みの向こうに隠れていた複数人もまた目を見開き動揺を隠せないでいた。
一難去ってまた一難。
地面に微かな揺れを感じたと思いきや、突如として地割れが発生し、3人を飲み込まんと、その距離を縮める。
しかし、あと僅かと言うところで、見えない壁に阻まれたかと思えば、まるで反射したかのように、地割れの進行方向が真逆に変わった。
そのままアタフタしている術者の方へと向かい呑み込んだ。
「何かしたな」
クゥの問い掛けに、ニヤリと無言で返すブラッド。
「争いを避けるなら、さっさと移動しよう。今ので少しは時間は稼げるだろうさ」
「そ、そうですね!早く移動しましょう。さぁクゥちゃんも早く!」
クゥの背中を押し、ブラッドの手を引くユーリ。
無謀にも彼らに挑んだ者達は、ユーリのこの行動により、命を救われた。
ブラッドがパチリと指を鳴らすと、ガラスが割れるような音だけ残し結界めいたものが砕け散る。
ユーリ達3人は、その場を後にした。
「この世界がどのような発展を遂げたのか、都市を見ればある程度の把握は出来よう。ユーリ殿、この辺りには小規模な集落以外に大都市と言うものはないのか?」
私だって、自分の村から一歩たりとも出た事がないんだもん・・・そんなの分からないよ・・・。
そ、そういえば、時々村に訪れていた行商人の方が、確か自分達は大樹のミラから来たと。
そしてその大樹は、その大きさから南大陸のかなりの範囲で見渡せると父から聞いた事があったわ。
「大樹の麓に大きな都市があるはずです。まずはそこを目指しましょう」
クゥが左右を見渡す。
「ユーリ、その大樹はどれだ?」
周りには、背丈を遥かに越える大木が所狭しと並んでおり、大樹どころか数メートル先さえも伺い知ることが出来ない。
「この場所からは見えませんね。取り敢えず、遠くが見渡せる眺めの良い所へ行きましょう」
私自身、その場所がどれだけ遠いのか見当もつかない。
行商人達は、皆が馬車で遠方まで訪れていた。
何処かに馬車が通れるだけの小道があるはずだけど、その場所を知らない。
開けた場所を探すべく、一行は進む。
勿論ユーリが先頭だった。
何時間歩いたのだろうか。
ただの村娘に過ぎないユーリは、長時間の移動に慣れていなかった。
足の節々が悲鳴をあげていた。
そんなユーリの異変を感じ取ったのか、以外にもクゥがその場に座り込む。
「どうしたクゥ殿?」
「飽きたから休憩だ」
「そうですね、休憩しましょうか」
見た目は子供でも、中身は規格外の強者であるクゥに、たかだか数時間歩いただけで疲れを感じるはずがない事はユーリにも分かっていた。
「歩くのに飽きたのじゃ」
しかし、クゥは見た目通りの幼い性格をしていた。
故にこの発言に2人は特に驚いた素振りは見せなかった。
「ユーリ殿もかなり辛そうにしているな」
「・・・はい、あまり歩くのに慣れていなくて」
「ならば、俺に任せてもらおうか」
ブラッドがスゥッと息を吸う。
「2人とも、それぞれ肩に捕まってくれ」
言われるがままに2人はブラッドの肩に手を乗せた。
《
一瞬にして景色が変わった事に2人がキョロキョロしていると、
「もう一度飛ぶぞ。手を離すなよ」
再び一瞬にして景色が変わる。
何度かこれを続けていくと、森林地帯を抜け、見晴らしの良い反り立った崖へと到着していた。
「凄いです!今のは何ですか?」
「ああ、俺の視界に映った場所へ飛ぶ事が出来る魔法だ。本来ならかなり魔力を消費するが、生憎何千年と溜め込んだ魔力があるのでな。1年間ぶっ通しで使用しても枯渇する事はないだろう」
(ククク、俺もただで封印されていた訳じゃないぞ神)
などと、ブラッドの心の声は語っていた。
ブラッドがドス黒いオーラめいたものを纏っていたが、二人は相談したわけではないが、敢えてのスルーを決め込んでいた。
クゥが真っ直ぐに指を指している。
「ユーリ、あれか?」
2人もその方向へと振り向く。
そこには、樹齢何千年か分からない程の、大樹に相応しいフォルムをした超巨大樹が己が存在を誇示せんと聳え立っていた。
「そうです。あの大樹の麓にこの大陸一の都市があるはずです」
「確かに、大規模な街らしきものが見えるな」
「え、この距離から見えるんですか?」
ユーリが驚くのも無理はない。
大樹が見えていると言ってもそのサイズは人差し指程度の大きさしかない。
常人ならば、その麓の都市など、ゴマ粒程度すらも視認出来ないだろう。
「勿論遠視を使っているに過ぎない」
先程から聞き慣れない魔法名。
2人が魔法の知識に疎い訳ではなく、既にこの世界には存在し得ない
現代で知っている者がいるとすれば、
そんなものとはつゆ知らず、只々凄いと頷くユーリだった。
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