022: 寂れた集落
「それで、二人はこれからどうするのだ?」
子供と少女と筋肉長身の不釣合いな3人組は、現在南の大陸最南端の樹海を宛てもなく彷徨い歩いていた。
厄災の暴魔であるクゥと盗賊によって全滅させられた村の生き残りであるユーリ、遥か昔神々により邪神と恐れられて封印されたブラット。
ブラッドの問い掛けにクゥはユーリの方へ振り向く。
その様を見たブラッドもまたユーリを見る。
それにより、自分が答えないといけない事を悟る。
「え、私?」
クゥが頷く。
私は…私がしたいのは…
「私の村は・・・盗賊達に滅茶苦茶にされてしまいました」
ユーリは、下を向き弱々しく話し出した。
「私に戻る場所はありません・・。許せない・・・みんないい人達だったのに・・・一体どうして、こんな事になってしまったの・・・」
「すまんな。恐らく我のせいだろう」
クゥがユーリに向かって頭を下げている。
その光景を見るだけならば、何も不自然な事はないだろう。
厄災の暴魔は、残虐極まりない事で知られている。
見知っている者ならば、他者に対して頭を下げるなど眼を疑う光景だろう。
しかし、辺境に住んでいたまだ年若いユーリや、約6000年の間封印されていたブラッドは、知る由もない。
クゥ自身でさえ、過去の記憶を持ち合わせておらず、もはや歴代の厄災の暴魔とは似ても似つかない存在だった。
「ユーリ殿、敵討ちならば、手を貸すが」
「駄目です」
きっぱりと即答で否定したユーリ。
これには、クゥも疑問の表情を見せていた。
「確かに盗賊達は憎いです。出来る事ならこの手で仕返ししたい。だけど、憎しみの連鎖は何処かで断ち切らなければならなりません。私が我慢するだけでそれが出来るなら・・・うぅ・・」
ユーリは涙を流していた。
今になって、家族や一緒に過ごした仲間達を失った悲しみが込み上げてきたのだ。
「まだ若いというのに、中々出来た娘のようだな」
クゥが何やらそわそわしている。
「どうした、クゥ殿?」
クゥは、前方を指差す。
ユーリとブラッドが指差された方向へと眼を向ける。
「賊か?」
「うむ、ユーリの村を襲った奴らだ」
「人数は?」
二人の会話についていけないユーリ。
慌てて涙を拭う。
「え、何?何も見えないですけど?」
「「伏せろ!!」」
突如として、3人の居た場所へと矢の雨が降り注がれた。
突然の自体を飲み込めずオドオドしていたユーリをブラッドが自身の背に隠す。
《
矢の雨は、着弾する前にクゥの放った魔法でその全てが地へと落ちる。
賊は矢が通じないと判断すると、武器を手に持ち真っ直ぐと3人に向かい迫って来た。
四方八方へ別れ、包囲一門打尽にするつもりだろう。
「手を貸そうか?」
「必要ない」
《
クゥから放たれた風の矢が的確に賊の数を減らしていく。
通常、
しかし、クゥの撃ったものは、まるでそれぞれが意思を持つかのようにロックオンされたミサイルのように次々と賊へと命中していく。
最後の一人が地に伏せるまで、そんなに時間は掛からなかった。
「今ので最後のようだな」
ブラッドの背後に隠れていたユーリがヒョコンと顔を出す。
「一体何が起こったの?」
突然の襲撃に、ユーリが震えていたのをブラッドは感じていた。
「ユーリの村からつけて来た」
「という事は、こいつらがユーリ殿の
ユーリは目を見開き事態を把握するべく周りに視線を送る。
所々に転がる無残な姿と成り果てた賊達。
この辺り一帯を覆っている血の匂い。
到底平和な日常でしか暮らしていなかったユーリに耐えられるはずもなかった。
ユーリは口に手を当て、嗚咽を漏らす。
その様に、クゥは首を傾げているがブラッドは理解していた。
「まぁ、年頃の娘ならばこれが普通だよクゥ殿」
2人はユーリが落ち着くまでその場に止まる。
「何かに監視されているな」
「うん、我もそう思う。たぶん不可視の魔法を使ってる」
「俺が暴こう」
「そんな事出来るのか?」
ブラッドはニヤリと笑みをこぼすと、何やら無音で詠唱を始めた。
《
紫色の神秘的なベールが辺り一帯を包み込む。
すると、3人から30m程離れた茂みの先に拳台程の奇妙な生物が姿を現した。
「ヤバいっす、バレたっす!逃げるっすよー!」
微かに聞こえた謎の声の後、
「何だったんだあれは?」
「さあな。害はなさそうだ」
やがて落ち着いてきたユーリを伴い、その場所を後にする。
偵察されていた以上、この場に留まるのは危険だと判断したのだ。
進行方向は、クゥの美味しそうな匂いがするという鼻を頼りに一行は進んでいた。
ブラッド自身も行く宛もないそうで、せっかく出会った縁だと、2人と行動を共にする事になった。
この辺りは獰猛なモンスターが蔓延っているはずなのだが、どういった訳か1匹足りともその姿を見せる事はなかった。
「集落だな」
ブラッドが生い茂る雑木林の先の開けた場所を指差した。
距離的にはまだ数kmは先だろう。
ブラッドは異常なまでの視力により、それを捉えることが出来ていた。
クゥにも把握は出来ていない。
クゥは、匂いを辿ってここまで歩いて来た。
当然ながらユーリにも見えてはいない。
「何も見えないですけど」
ブラッドは構わず歩き出す。
「そのうち見えるさ」
そのまま足場の悪い湿地帯を抜け、やがて開けた荒野へと出る。
その先に、暫定目的地であった小規模集落へ到着した。
「ユーリ殿の知り合いか?」
「いえ、この辺りに住む人々は基本的に自給自足しています。他の集落との交流はありません」
クゥがユーリの袖をクイクイと引っ張る。
「ユーリ、お腹が空いたぞ」
さっきから、クゥの腹の虫が鳴り止まない。
「食料を分けてもらいましょう。私が先頭を歩きますので、絶対に2人とも、暴れたり・・・・しないで下さいね」
ユーリは、ゴクリと生唾を呑み込む。
明らかに規格外の力を持つ2人に自分なんかが命令してしまって良いものか、言った後に後悔していた。
もしかしたら、次の瞬間には自分は殺されてしまっているかもしれないと。
しかし、返事は意外なものだった。
「分かった」
「了解だユーリ殿」
あれ、私生きてる?
良かった・・・
クゥちゃんが暴れ出さないように食糧を分けて貰わないと・・・・
頑張れ私!
ユーリは自分の頬を叩き喝を入れる。
「客人とは珍しいな」
入り口の見張りであろう、初老の村人にユーリは呼び止められる。
「私は、ここより南のバオ村の村長をしているユーリと言います。盗賊達に村が襲撃され、命からがら逃げて来ました。お願いです。暫くで構いませんので、寝所と食糧を恵んで頂けませんでしょうか」
ユーリは、頭を下げる。
「頭を上げてくだされユーリ殿」
2人の見張り役の片割れの若い青年の方が木製の簡素な門を開けるとユーリの元へと駆け寄る。
「それは、大変な目に遭われましたな、ですがもう安心です。どうぞ中へとお入り下さい」
「ありがとうございます」
ユーリの後ろ2人に目を向ける。
「村が襲撃された際に、私を助けてくださった冒険者の方達です」
「そうでしたか、それではお二人も歓迎致します。まずは、村長の元へとご案内致します」
ユーリは嘘をついてしまった事を少しだけ後悔していた。
本当は冒険者なんかではない。
しかし、自分を盗賊達から守ってくれたのもまた事実。
見張り役の青年に連れられ、村の中を案内してもらう。
ここは、ユーリのバオ村から北西に15kmの地点にあるサハラ村と呼ばれる所だった。
人口は100人ばかりで、どういった訳か大半が男達で占めていた。
「男性の方が多いのですね」
村長宅に案内される道中で集落内の様子を見て思ったユーリの率直な感想だった。
「10年ほど前の流行病で、女性しか掛からない病気が蔓延しましてね、その時に殆どの女性が犠牲になってしまいました」
「そうだったのですか、、ご配慮が足らず申し訳ありません」
見張り役は「構いませんよ」とニッコリとユーリに微笑む。
「着きました。中で村長がお待ちです」
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