020:邪神復活
邪神の封印が解けてしまった。
偶然解けたのではなく、クゥが解いたのは言うまでもない。
問答無用で襲われるものと思っていたユーリは、想像していた邪神のイメージと全く違う事に、只々驚くばかりだった。
「俺は、エミュール・ブラッド・レインストームだ。それより、今は宝暦何年なのだ?」
クゥもユーリの方を見る。
その事により、今の質問が自分に投げ掛けられたものだと慌てて認識する。
「え、ええと、今は宝暦8736年です。ぶ、ブラッド様は、な、なぜ封印されていたのですか?」
その際、折角なので一番疑問に思っていた事を聞いて見る。
「娘よ。ブラッドでいい。元は貴様と同じ人族だからな。俺が封印されたのは・・・今から約6000年程前という事になるのか。今もあるのかは知らんが、その頃、天空には、
神々の社を汚した罪として、仲間達は全員処刑。彼等を先導したブラッドは、地上に戻され封印された。
封印された理由は諸説あるが、実際の所は力が強大過ぎて、討伐で被害を出すよりも封印する方が手っ取り早いと当時の神々が判断したという事だ。
「それより、俺が気になるのは隣の子供だ。いや、子供という殻を被った化け物か?今の時代にはそんな輩がわんさかいるのか?」
今度はユーリがクゥを見る。
ユーリ自身、クゥとの付き合いは短い。
だが、クゥがどこか外見通りの子供ではない事は、ここまで一緒に居て気が付いていた。
故にユーリもその答えが知りたいと思っていた。
「分からぬ。だけど何か大きな使命があった気がする」
クゥは前世の記憶をなくしており、見た目程度の知識しか備わっていなかった。
しかし、同時に違和感は感じていた。
自分が何の為に生まれて来たのか。
何故、こんなに強大な力を持っているのか。
考えたところで現状、その答えに行き着く事もなく、答えが見つかるまでは、ただ自分がやりたい事をする。
クゥは、そう考えていた。
その後、これまでの経緯や互いに生い立ちなどを話す流れになり、3人は次第に打ち解けて行く。
「俺の
「クゥちゃんって、そんな凄い人だったんですね」
「うむ。我は凄いのじゃ。崇め奉るがいいぞ」
そんなこんなで、変な境遇で出会った3人は、この後次第に渦中の渦へと飲み込まれて行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え、
現在、リン達はスイと一緒に冒険者ギルドの一室で厄災の暴魔討伐に向けた作戦会議に足を運んでいた。
この場所に参加しているのは、各ギルドのマスターかサブマスター、傭兵の代表者、それに教会の聖女様、魔族代表のスイとリン、国王代理の10人だ。
「居所が分からないとは、どういう事だ!」
動向の調査に向かっていたギルドの調査隊からの報告によると、厄災の暴魔の居場所が掴めないようだ。
「まず、今更なんだが、本当に復活しているのか?」
「それは間違いありません」
そうすぐに断言するのは、教会に勤めている聖女様だ。
「厄災の暴魔が復活すれば、神様から教会へと神託が降ります。今から21日前の正午に神託が降りました。それは間違いありません」
「ならば、なぜ誰もその姿を確認出来ていないんだ!」
「それは少し違います」
次に発言したのは、剣士ギルドのサブマスターであるカイン氏だ。
「直接的に存在事態は確認出来ていませんが、出現地点付近の村が全滅している事は確認しています」
「それが厄災の暴魔の仕業だと?」
「恐らく」
しかし、誰も復活した厄災の暴魔の姿を見たものはいない。
故に復活自体が怪しまれていた。
「リンはどう思う?」
リンの隣に座っていたスイが語り掛ける。
「調べて見ましょうか?」
リンはそう言い、地の精霊ノームを召喚する。
まさかの展開に室内にいる全員がリンの行いに視線が釘付けとなった。
「ノーム、厄災の暴魔の居場所を探ってくれないかい」
ノームは礼儀正しく、ぺこりと一礼する。
「少々お待ち下さい」
目を閉じて大地に巡る精霊達と会話をしている。
その間僅かに10数秒間。
「分かりました。この場より南東側約500km〜700km圏内に反応を確認しました。少し距離がある為、この場所からでは正確な位置は絞り込めません」
「やはり、厄災の暴魔は既に復活しているようですね。ありがとうノーム」
「どういたしましてリン様」
来た時同様に、可愛らしくぺこりとお辞儀をしてノームは帰っていった。
「こいつは驚いたな」
ザワザワと周りが騒つく。
「わぁ!今のって5大精霊様ですよね!私初めて見ました!めっちゃ感激です!」
聖職者ギルドのマスターであるエルゥが子供のようにはしゃいでいた。
「エルゥ、今は大事な会議中ですよ」
「ごめんなさい・・・」
他のギルドマスターからの注意を受け、シュンと椅子の上で縮こまるエルゥ。
「少し話が脱線してしまったが、改めて各々の役割を確認する」
この会議を仕切っているのは、タムと呼ばれる男だ。
彼の職業は勇者だ。
勇者とは力があれば誰でもなれると言う訳ではない。
更に言えば勇者とは神から与えられる称号で、教会の最高責任者である聖女様を除いて、神と繋がりを持てる唯一の存在。
冒険者であり且つ数々な功績を挙げた者の中で、ほんの一握りの神に選ばれた存在。
それが勇者と呼ばれる者達だ。
この世界において、神と言う存在は絶対だ。
その神と繋がりのある存在もまた、最大限に敬われる存在となる。
それは時に、一国では王よりも強い権限を持つ場合もある。
神に選ばれる条件は、多くの学者達が頭を悩ましてきたが、未だ解明はされていない。
英雄級の働きをしている者がなれるとは限らない。
それどころか、過去には一介の騎士が勇者の称号を得た事例も存在していた。
勿論それは稀ではあるが、それ故に選ばれる理由は気まぐれなのではないかと唱える者までいた。
「先程の情報を参考に剣士ギルドとシーフギルドは、総力を挙げて厄災の暴魔の居所を探って欲しい。当然、見つけるだけで手は出さないように」
「分かりました」
「了解だ」
騎士ギルドのマスターであるアークとシーフギルドのサブマスターであるクウェンが了承する。
「傭兵達は戦える人物を増やしておいてくれ。もし大規模戦闘となった場合、一番数が多いのは傭兵の君達だけだ。ついでに言うと、後200人は最低でも追加で欲しい」
「増援は結構だが、俺達は金でしか動かねえ」
勇者タムは、この場に同席する国王代理の方へ目配せする。
「資金なら、こんな時の為に貯めてある国金を崩そう。この国を大地を守る為に一人でも多く戦力を集めてくれ」
「そう言う事なら、任せときな」
「王族の皆さんは都市間トランスゲートを使い、南大陸の他の国々との情報共有、連携をお願いします」
都市間トランスゲートとは、大国同士を繋ぐ転移門の事だ。
有事の際のみ使用が許されており、瞬時に遠距離移動する事が可能だ。
使用するには、膨大な魔力か高純度の魔石が必要となり、多用することは出来ない。
更には、使用が許されているのは、貴族の中でも選ばれた存在だけとなっていた。
一般庶民には縁のないものだった。
「分かった。諸国間との連携は任せて貰おう」
次々と指示を出していく勇者タムは、最後にリン達魔族に視線を送った。
ちなみに、リンは魔族側の陣営に所属していた。
「それ以外の人員は、各々の裁量で動いてくれて構わない。最後に魔族諸君、恐らく単純攻撃力的には君達が一番だろう。何故このタイミングでこの場で活動していたのかはこの際追求はしないでおくが、変な真似をすれば容赦なくこの切っ先の標的となるだろう。ああ、それと厄災の暴魔討伐の際は、大いに期待しているよ」
勇者が、リンに視線をくべる。
リン自身、勇者タムとは初対面だった。
しかし、タムはこの中にいて明らかに異質の気配を漂わしているリンの事が気になっていた。
(あいつこの席に着いてから、ずっとリンの事睨んでて、私何だか私居心地悪いよ!)
念話を送ってきたのは、風の精霊シルフだ。
リン自身はあまり気にしていなかったが、殺気まがいにも取れる勇者の視線にシルフは苛立ちを覚えていたようだ。
「それでは解散。自体に動きがあった場合は、再度召集を掛ける」
続々と参加者が会議室から出ていく。
リンもスイと一緒に出て行こうとした次の瞬間。
リンの手を引っ張る者が現れた。
「君には個人的に話があるから残ってくれ」
勇者タムだった。
スイと顔を合わせる。
「俺達は例の酒場にいるから」
「分かりました。後で行きます」
スイが出て行くと、勇者タムの気配が一変する。
凄まじい威圧をリンに向けて放つ。
しかし、リンは顔色一つ変えない。
目論見が外れたのか、勇者タムは首を傾げる。
「お前は、何者だ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます