龍田ひかりはあなたがスキ? 05
「お、お母さん……!」
「あなたが雅継くんなのね! も~! 会いたかったわ~!」
「えっ? ちょ、ちょっと、あ、あの――」
「いつもウチの朱雀がお世話になってます! あら、朱雀からは聞いていたけれど結構男前なのね~! やっぱり顔の好みは私と似てるのかしら」
「え、えっと、そ、その――」
「せっかくだから握手しましょう! いらっしゃい! 雅継くん!」
前条の母と名乗る人はそう言うと、僕が返事をする前にさっと手を握ってしまい激しくブンブンと振られてしまう。
こ、この人が前条朱雀の母親……? す、凄く明るい人だな……。
見れば見るほど前条朱雀と同じぐらいの髪の長さで顔の作りも殆ど同じ、大人びた感じと前条より大きな目元を除けば瓜二つである。
だがお胸の方は下手すると前条よりも上だろうか……正直手を振る度に激しくお揺れになる二つのお山様が気になりすぎて目のやり場に困る……。
しかも前条朱雀の好感度で低く見えがちだが、好感度も90%というのは最早恋愛対象のレベルじゃないか……ま、まさかな……。
「も~! 来てくれるならもっと早く言ってくれれば色々準備してたのに、蒼依! 何で教えてくれなかったのよ!」
「お、奥様……雅継様はここ最近忙しかったものでして――それで急遽来られることになったのです、で、ですから……」
「ふーん……? ま、いっか。そうだ雅継くん! 今夜は勿論泊まっていく予定なのでしょう? いまお布団を用意させるから――あら、でもやっぱり一つの布団で寝たほうが良いのかしら」
「奥様……!? それはお待ち下さ――」
「なあに蒼依? 私の言うことに文句でもあるのかしら?」
「い、いえ、ですが――」
「ちょっとお母さん! いい加減にしてよ!」
最早暴走列車でしかない前条母に蒼依さんは手が付けられず、完全に困り果てた表情になってしまっていると、横で不服そうな顔をしていた前条朱雀が少し声を荒げて話に割って入ってくる。
「あら? どうしたの朱雀そんな怖い顔しちゃって、もしかして雅継くんを取られるとか思っちゃって嫉妬してるのかしら?」
「そ、そんなんじゃなくて――」
「やだ、熱は下がっているのにまた顔が少し赤くなってるじゃない、も~! 本当に可愛い娘なんだから、このこの~!」
「や、やめて……ま、雅継くん助けて……」
「そ、そう言われても……」
前条母にぐいっと強引に引き寄せられた前条朱雀はそのままぎゅっと抱き締められ、ぐりぐりと頬ずり攻撃をされてしまう。
嫌がる彼女を助けようにも流石にこの間に入っていったら今度は僕が何をされるか分かったものではないので、苦笑いで返す外にない。
まあ間に入ってこう……埋もれたいという願望はあるけども。
「奥様、朱雀はまだ完全に治ってはいないので流石に……」
「あ、それもそうね、ごめんなさい朱雀――でもお母さん嬉しいわぁ、あんなに毎日のように朱雀が好きって言ってたあの雅継くんがお家に来てくれているのよ? もう私までただでさえ大きな胸が張り裂けてボタンが飛んでいきそう」
「え?」
あ、前条朱雀のちょっぴり下ネタが出てしまう癖はここが起源だったのね。
「お、お母さん……雅継くんの前で――」
「何言ってるのよ~! 五年前からずっーと雅継くんに会いたい会いたいって言っていたじゃない、その為に水泳も頑張って、雅継くんに見つけて貰えるよう頑張っていたのお母さん知ってるんだから」
「ご、五年前……ですか……?」
「そうよ? この子雅継くんと同じ水泳スクールに通っていたの、どうして好きになったのかは頑なに教えてくれないんだけど、とにかく一目惚って言って以来ずっと雅継くんの言葉を聞かなかった日はないぐらい」
「お母さん待って……そ、その話は――」
……五年前といえば確かに僕が水泳をやっていた時期ではある。
前条朱雀の今までの言動を考えると間違いなく水泳が僕と彼女を繋いでいるというのは察しがついていたが……まさかそんなに前だったとは。
ただ、その時の僕に女の子の知り合いはいなかった筈、やっぱり前条朱雀が一方的に僕のことを知っていたということになるのか――?
疑問をぶつけたくはあったが、前条朱雀の恋バナに花を咲かせたいのか前条母嬉々とした表情で、蒼依さんは平静な表情のまま話を続ける。
「私が言うのもなんですが、数少ない雅継様の写真を拡大コピーして部屋中に貼り付けていた時期もありましたからね、流石に狂気を感じましたが」
「あ、蒼依……ち、違――」
「結局雅継くんは水泳を辞めちゃってたから、頑張って全国まで行ったのに見つけられなかったのは残念だけれど……でも! 愛娘の何年経っても変わらぬ想いを諦めさせる程薄情な母親ではないわ!」
「私がメイドの総力を上げて雅継様の居所を特定致しました、そして今朱雀は五年分の想いを爆発させている訳です、お分かり頂けましたか」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
カオス。
そして僕はあまりの恥ずかしさにまともに話を聞いていられない、和三盆を喉元まで詰め込まれたような、そんな気分。
前条に至っては今まで一度たりとも聞いたこと無い悲鳴を上げたかと思うと布団の中に頭だけ潜り込み、激しく足をバタつかせる始末。
いや……まあそりゃそうだろ……前条朱雀は確かに僕に対して無尽蔵のスキンシップを行ってくるし、何なら平然と僕を好きだと言ってくれるが、それでもかなり自制した上での好意なのである。
だからこそ熱でコントロールを失った彼女には心を揺れ動かされた訳で、今もこうして会話がぎこちなくなってしまったというのに。
そこに追い打ちをかけるかのような暴露大会、しかもそれを母親や身近なメイドにされてしまっては正気でいる方が無理のある話だ。
「――ま、これで分かったとは思うけど、朱雀って実際はこういう子なのよ、大人っぽく見せて、深窓の令嬢みたいな雰囲気を演じているみたいだけれど、私からすれば全然まだまだ恋がしたい年頃の可愛い子供よ」
「中で暮らしている私達からすれば寧ろこれが普通ですね」
「うう……」
「だから雅継くん」
「あ、は、はい――」
「外だとちょっと変な子かもしれないけど、本当は普通の女の子だから、雅継くんが朱雀を好きになった時はちゃんと好きって言ってあげてね」
「は……はい! 勿論で――」
「まーでも、もし駄目だった時は無理矢理にでも結婚させちゃおうかしら? 雅継くんみたいな子なら婿養子も歓迎しちゃうし!」
「それもそうですね、ですが奥様、旦那様は如何致しましょうか」
「あの人ホント頑固な所だけがキズよねー、ま、娘の願いは私の願いでもあるし、何かあった時は私は朱雀の味方だけど」
「全くの同意見です」
「じゃあ、いつまでも邪魔しても悪いし、そろそろ私達は戻ろうかしら? 雅継くん、私はいつでも歓迎しているから遠慮なく遊びに来て頂戴ね?」
何なら身体的密着も大歓迎だから! と僕に返事の間など与えるつもりのないマシンガントークそのままに、部屋を後にするのだった。
部屋に残されたのは、呆然とした僕と、布団に顔を埋めたままの前条の二人。
「えっと……何というか……凄い母親、なんだな」
「……そうね、正直お母さんも大概子供っぽくて、そこはあまり好きじゃないのだけれど――でも、嫌いになったことは一度もないわ」
「…………そっか、でもさ今日は思い切って来てよかったよ」
「……どうして?」
「前条のこと、色々知ることが出来たから」
「…………」
僕は、敢えてそれ以上は何も言わないことにした。
本当は僕のどういう所を好きになったのかとか、僕を見つける為に水泳を続けていたことに感謝も、謝罪もしたかったけれど、きっとそれは彼女にとってとても恥ずかしいことで、本当は知られたくないことだったのかもしれないから。
だから人の秘密を無理に聞き出すのは性分じゃない、彼女の口からから話してくれるのであればそれは別だけれど。
それに、今無理に聞いてしまったら風邪が悪化しそうだしな。
故に前条は僕の言葉に反応しなかったが、暫くして顔だけ埋めていた身体を全て布団の中に入れてしまうと、もぞもぞと動きながら枕元に顔出す。
「ぜ、前条……?」
「……まーくん、今日は来てくれて本当にありがとう――でも少し疲れちゃったから、休ませて貰ってもいいかしら」
「――いいよ、まだ病み上がりだからな、僕に何か出来ることあるか?」
「私が眠るまで――――頭を撫でて……欲しい、かも」
「……分かった、おやすみ朱雀」
「おやすみなさい、まーくん」
そう言って僕は彼女の髪が乱れないよう優しく何度か頭を撫でると、前条は落ち着いたのか、優しい笑顔のまますぐ眠りについてしまった。
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