休暇

彼女は大晦日がスキ?

「今日は大晦日ね」

「そうだな、だんだん年が過ぎるのが早くなっている気がして恐ろしいよ」

「安心して頂戴、たとえまーくんが私の名前を忘れてしまうまでに年老いたとしてもずっと傍に寄り添ってあげるから」

「やだ……胸キュン……」

「ところでまーくんの三十一日の予定はどうなっているのかしら?」

「ん? そうだなあ、朝は部屋の掃除でもして、昼は緋浮美と逢花と一緒におせち作って――夜はバラエティで年越して、音楽番組見ながら寝落ちだな」

「至ってスタンダードなのね」

「それがいいんじゃないか、外に出たってどこも人だらけだしな」

「出掛けるような服も友達もいないものね」

「オブラートって知ってる?」

「でも私も似たようなものかしら、姉さんは違うみたいだけれど」

「あいつはそりゃな……でもお前が家でダラダラなんて意外だな、てっきり両親の関係で忙しいのかと思っていたが」

「年始になるとそういうイベントもあるけれど、私も案外テレビっ子だから――今年の曙VSボブサップとか楽しみよね」

「急に過去から来るの止めて貰えます?」

「時間を忘れて『殺せ! 殺せ!』って応援しながら見るのが痛快よね」

「サイコ」

「ただ小さい頃の大晦日って、どちらかと言えば親に連れられて神社で新年を迎えたりしなかった?」

「あーそんな時期もあったかな、境内が人で溢れかえっていて、全員でカウントダウンしたりとかな」

「年越しの瞬間宙に浮いてたんだぜ、とか言ってジャンプしたりね」

「あった、あった、懐かしいなあ」

「そんな下らないことでも楽しみを見出だせるんだから子供って凄いわよね」

「お金がなくて時間はたっぷりあるんだから当然と言えば当然だけどな」

「お金と言えばお年玉よね、まーくんは今年も貰う予定?」

「新年は父方の祖父母の家に親戚が集まるからな、貴重な収入源だし毎年申し訳ないと思いつつ有難く頂戴しているよ」

「小学生の頃に親戚の前で『お年玉マダー?』って言って両親に婆散るほど怒られた経験があるから謙虚に行かないとね」

「何で僕の黒歴史知ってるのかな?」

「さて、そんな話はどうでもいいとして」

「人の不発弾暴発させといてひどない」

「実は私、まーくんと初詣に行きた――――」


「やっほー雅継くん、私と雪音と一緒に初詣行かない?」


「明音? 唐突に何を言うかと思えば――」

「私とタイマン張りたいということね、いいわ、かかってらっしゃい、マケボノにしてさし上げるわ」

「えっ」

「やだなー前条朱雀さん、暴力ヒロインなんてモテないのにそんな盛っちゃって、乙女心が足りないヒロインは即刻滑り台行きだよ?」

「情けないおっぱいぶら下げてよくそんな台詞が言えるわね、胸の感覚が無くなるまで揉みしだいてあげようかしら。あ、ごめんなさい、そもそも揉めるバストがなかったわね、ひたすら乳首でも弄って変色でもするがいいわ」

「大事なのは胸の大きさじゃなくて心の大きさだよ前条さん、肉体だけの関係をご所望ならその淫乱な身体に磨きをかければいいけど」

「出た、身体で勝てないから精神で勝ろうとするタイプ、そういうの言っちゃう奴に限って一番許容が狭いのにどうして気づかないのかしら」

「そこまで自分を自画自賛している割には一番欲しいモノを手に入れられていないんだから世話ないけどねー」

「右ストレートでぶっとばす、右ストレートでぶっとばす、真っすぐいってぶっとばす、真っすぐいってぶっとばす、右ストレートでぶっとばす、真っすぐいってぶっとばす、右ストレートでぶっとばす、真っすぐいって――」

「ストップ! ストップ! 会って早々何をピリピリしてんだよ」


「まーくんと初詣に行くのは私という話をしているのよ」

「雅継くんと初詣に行くのは私という話をしてるんだよ」


「おおう……そりゃ凄く嬉しいんだけどさ……ただ実は先約があって……」


「う、嘘でしょ? まさかまーくんに巣食う新たな敵がいたなんて……」

「えー残念、一体誰なの? そのまーくんのハートを射止めた娘って」


「え? 逢花と緋浮美だけど」


「くたばれシスコン」

「くたばれロリコン」


「あんまりやで」

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