11 転機

緊急入院からしばらく


私は相変わらず車中生活を続けていた


弁護士の駐車場とは名ばかりの未整地の空き地の隅に置かれた車の中で寝起きして


トイレは弁護士の事務所が入っている建物を使わせて貰っていた



ただ


この頃になると弁護士も


早くいなくなってくれないかな


的な雰囲気をたまに見せるようになっていた


ただ


元上司との話し合いが振り出しに戻っていることもあり表だっては言えない


そんな感じだった




一時相当悪化していた私の体調は


暖かくなるにつれて目に見えて改善していった


食事は年金支給日に買った10kgのお米を

拾ったリアカーに乗せて車に持って帰る


ちょっとずつ水に入れてふやかし、それをすすっていた

拒食症がひどくてこれくらいしか口に出来なかった



この頃


人と話すのが鬱陶しく


顔を上げるのが嫌だった


この時期の私は地面を見た記憶しか残っていない



この春


一つの転機が訪れた


私の窮状を伝え聞いたらしい女性の人権を守る会みたいな団体が動き出した


年金を受け取りに来た私に


その団体の代表が話をしてきた


正直に言うと、この人の顔を私は覚えていない


この人の話を私は最初から最後までうつむいたまま聞いていた



この団体は


生活保護を受給して生活している女性に部屋を無償で貸してくれるという


その代わり県に補助金を申請する際に名前を使わせて欲しいといった


あといくつか条件をだされたはずなんだけど


今になっては、もうよく思い出せない



結果から言うと


私はこの団体が準備してくれた部屋に1日も暮らした事が無い



この会話の最中


代表の人が私が異常な状態なのに気がついた


手も足も骨と皮


頬もげっそりとなっていた


フード付きのパーカーで体を隠すようにしていたから目立っていなかった


その場で救急車が呼ばれ


私は再び強制入院させられた



今回の入院は結果から言うと私はお金を支払わなくてすんだ


生活弱者を支援する制度の中に医療費補助制度というのがあったらしく

私の今回の入院費用はすべてそれで賄ってもらえたらしい


らしいというのには理由がある


この時の私の入院は1年に及んだ


すでに歩けているのが不思議な状態にまで衰弱していたらしく


いつ死んでもおかしくなかったそうだ



不思議なもので


そう聞いてもなんとも思わなかった



ただ


ふ~ん


そうお思っただけ



1年経ち


見た目は痩せた女くらいにまで回復した私


ただ


鬱の症状は相変わらずで


いまだに人混みで顔を上げることが出来なかった


入院中、精神科のカウンセリングも何度も受けた


そのおかげで、少しはましになったけど


そんなものだった


入院中に、障害者の申請を受けた



精神疾患による障害2級



かつては鬱といえば詐病


そう言われ続けていた時代しかしらない私に


「鬱も立派な病気です」


精神科の先生はそう言ってくれたけど


心のどこかで


どうせあなたも私が嘘を言ってると思っているんでしょ?


そう穿った目をした自分がいる



人の言葉を素直に受け取れない


常に疑ってかかる



それはいまだに改善される気配がない


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