9 父の死

一度目の示談が成立してしばらくした頃


父が死んだ


もともとヘビースモーカーで

仕事を首になった後も煙草をやめなかった父


肺腺癌だったそうだ


長年の喫煙がたたり肺気腫がひどく

手術も不可能


放射線治療で延命を


そう言った話を


「どうせ死ぬのにもったいない」


そう言った母のせいで、父は告知後3ヶ月で死んだそうだ


私がなぜこれを知ったかというと


弁護士がたまたま県内物故者の中に父の名を見つけたから


弁護士には身上調書を提出していたので


ただ


すでに他人です


そう書き加えてある



あの一件以降


私は一度も元家族と話をしていない


地元にも戻っていない



正確には、


戻るにもどれない


帰るに帰れない


それが現状


不思議と涙も何も浮かんでこなかった


何の感情も浮かんでこなかった


ふ~ん


それが、すべて





示談はかわしたものの


1円もお金が入ってこないため私の生活は困窮したままだった


相変わらず車中生活を続けていて


年金が振り込まれた日だけ、銭湯に行く。


他の人や銭湯の迷惑になってはいけないと思い


銭湯の日は必ず朝一で行くことにしている



人間というのは不思議なもので


あったかいお風呂につかるだけでなんだか幸せな気持ちになってしまう


湯船に浸かる前にしっかり体を洗う


大げさでなく


真っ黒い汁が流れ出る


それすらなんか他人事



そんな日々を送っていた私が


再び救急車で病院に搬送されたのは2ヶ月後


冬のある寒い夜のことだった

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