8 示談

この後


紆余曲折あり

全てが終わるまでに2年かかった



この後

私は無料法律相談の弁護士を正式に雇い元上司との示談交渉に当たってもらった


成功報酬制度で

事後にまとめて精算させてもらう契約にしてもらえた



元上司は

示談金の額を最初100万円と提示してきた


これは弁護士がその場でつっぱねた


「私にも生活が」

「子供がまだ学生で」

「親の老後の面倒も」

「自分の老後のことも」


私と弁護士の前で元上司はえらく小さな声でいろんなことをしゃべっていた


細かすぎてあまりおぼえていないのだけれど


元上司は


最後まで私の顔を見なかったのだけは覚えている




この頃


私は拒食症と栄養失調、そして重度の鬱を煩っていた


病院からは入院を強く勧められたのだが


お金がなかった


生活保護をもらいながらずっと車中生活を続けていた


生活保護を受給するには住所が必用だった


「来月までに住所の申請がされなかった場合、生活保護を打ち切ります」


その月のお金を貰った私はその言葉に困惑するしかなかった


そんな私に見知らぬおじさんが月3千円で借りられるアパートを教えてくれた



2畳1間


鍵は南京錠のみで風呂もトイレもない

トイレはアパートの外にある工事現場によくある簡易トイレを使うしかない

そんな場所


住所を持たない年金受給者が、偽装によく使う場所らしい


お礼として千円要求された


おじさんは、

ここには素性のよろしくない人しか住んでいない

実際には絶対済まないように


そう強く念を押された


それでも


一応借りている部屋だしと思い、1度だけ泊まったことがある


その日

私は男っていうのは、女ならなんでもいいんだなということを

身をもって実感することになった


弁護士にキツく叱られ

病院で検査も受けた

私を襲った男もすぐに特定され、地方版のニュースでその逮捕が報じられた


「女性を暴行し……


アナウンサーの言葉を聞いて、あぁあれ、私なんだって

なんか、他人事のように思ったのを覚えている




2年にわたる交渉の末


私は元上司から5千万円を受け取ることになった


1千万円を即金で支払い


あとは年間500万円の8年払い


弁護士的にはかなり不満な金額だったそうなのだが


私自身がもうこれ以上長引かせたくなかった



元上司は最後まで弁護士を雇うことなく


最後まで1人で交渉の場にやってきた


示談書にサインした元上司は


「俺から金を搾り取れて満足か?」


最後まで目を合わせることなく


最後にそう言って私の前から消えていった




最初の1千万円はいまだに支払われていない


示談後


元上司は弁護士に対し言い訳を繰り返し


その後


毎月5万円の千ヶ月・83年払い

ただし、退職時に残金を一括で支払うことで示談金の支払いを終了する


再度の示談書を取り交わすことになった


この示談書がかわされたのは


最初の示談書から5年後だった



この元上司は

今年の3月に定年退職したが


まだ私の口座に残金は振り込まれていない


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