5 心療内科

その夜も

その翌日も


実家からは何の連絡も無かった


不気味な沈黙


でもいい


もう相手にしない


そう心に決めてし合うと、どこか安堵している自分がいた


その後


まず役所に行き戸籍を移動させた


これで


私はあの家の戸籍から完全に独立できた


どこか晴れ晴れとした気持ちになった


その後


上司に言われた心療内科へ


言われた以上


行っておいた方がいい


そう思って向かったその病院の待合室に


上司がいた


上司は


私に話しかけるでもなく


顔を合わせるでもなく


そこにいた


そして


私が診察に呼ばれると一緒に診察室に入ろうとした


看護師に止められる上司


「私はこの者の上司だ。私にはこの者の診療状況を知る権利がある」


そう主張し続ける



数分後


上司は真っ青になった



到着した警察官の前


先ほどまでの威勢はどこへやらの上司は


警官に対し平身低頭謝罪しそのまま帰って行った


病院と私には一言もなかった



その後


病院で診察を受けた



軽い鬱


かなり精神的に参っている


「あれが上司じゃあ、君も苦労しているだろう」


先生の言葉が心にしみた



今なら

セクハラだ、パワハラだ

そういう言葉が浸透しているけど

当時はまだ年功序列・年長者の言うことは絶対

そんな時代



先生は


「短期でいいので一度病気休暇を取り精神を休めた方がいい」


そう勧めてくれた


ただ


当時は鬱は詐病


そんな風潮が根強かった


私は


検討します


そう告げてこの日は帰宅した



翌日


出勤した私は上司に別室へ連れ込まれた


そこで「承諾書」と書かれた書類を手渡された


内容の説明もなく


ここにサインしろ、と


私の印鑑はすでに押されていた


どうやら机の引き出しに入れていた印鑑を勝手に使用したらしい



後でわかったことなのだけど

前日

私の診療が終わった後

上司は自作のこの承諾書を持って再度病院を訪れ

私の診察結果を教えろ、と病院に要求したらしい

ただ

「筆跡が明らかに違いますね」

そう病院に指摘され

「出すとこに出していいんですか?」

その言葉を前に慌てて逃げ帰ったのだという



執拗にサインするよう迫る上司


これは強制なのですか?


私の言葉に


上司の命令に従うのが公務員だろう


そう言い頑なにサインを強要してくる


何かおかしい


こんなのおかしい


感覚でしかなかったけど


とにかくサインしたくなかった


この日


私は夜の11時まで別室でサインを強要されつづけた


他の部署の上司が


「こんなに遅くまで一体何やってんだ?」


そう心配してのぞきに来てくれていなかったら


まだ続いたと思う


他の部署の上司は


私が帰るまで見守ってくれたので


上司は何も言えなかった


この日


帰宅した私は一睡も出来なかった

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