第8話

 秋晴れの中、ホテルのバスに揺られて、披露宴会場に着くと、子どもの頃以来、孝宏の両親を二十年ぶりくらいに見た。二人はシワが増え、白髪になっていた。俺はそのことに戸惑いを感じた。新婦は、ふくよかな体型で、三一と新郎の年齢を考えると若かった。高校時代に柔道部で鍛え上げた立派な体格の孝宏と外見的に似合っていた。

 会場には、相当数の人が集まっていた。両家の親類、職場や地域の人たち――。両家を合わせて七、八十人はくだらないだろう。

(こういう式はそれなりに大事なのかもしれないな)

 俺は自分の席に着いて思った。子どもをつくらなければ、結婚する必要はないというのは浅はかな考えなのかもしれない。夫婦になることに特別な意味を見出すことはできる。それは一種の信仰だ。理沙の夫は、夫婦であることを特別視していた。理沙も最終的にはそこに心を動かされたのではないだろうか。

 結婚することで、人生は大きく制約される。それは確かだ。そのとき、結婚への決意を動機づけるものは自らの有限性の自覚ではないだろうか。孝宏の両親に限らず、誰もが老人になる。そして、いずれは土と還る。その運命を受け入れたとき、自由でいること、すなわち他の異性とも関係を持てることよりも常に同じ相手と二人でいることにより高い価値を見い出せるのではないだろうか。時間を共に過ごすことは、共に老いることとも言える。老いは長期的関係の中でのみ見い出される事象である。老いは、世間一般の位置付けがどうあれ、夫婦間では慈しむことができる愛の証のようなものになり得るかもしれない。

 会場の照明が落ちて、披露宴が始まった。全員が新郎新婦の入場を拍手で迎えた。(了)

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結婚という選択 spin @spin

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