7.


「あの少年が手を下さなければ、この男が彼女を殺めていただろう」

 雲の上から、不思議な存在は見ていた。

「もしかしたらクラスメイトの少年かもしれなかったし、親友だと思っていた少女かもしれなかった」

 そして残された両親は自分達を責め続ける。

 刑事達は本当の闇に辿り着けないまま、これからも起こり続けるであろう痛ましい事件に翻弄される。


「何が真実なんだろうね?」

 誰に問うでもなく呟く。

 自分の仕事は彷徨う魂を導く事。

 しかし最近、その頻度が著しく上がっている。

 多くはまだ生きられた命なのに。


「人はどうして……」

 愛する者の命を奪うのだろう?

 その刃を向ける前に考えないのだろうか?

 そうした所で手に入れる事が出来ると思い込むのは、ただの驕りなのに。


「自分だけのものになったと満足するのは愚かな間違いだ」

 その命が消えた瞬間、永遠に失うのに。

 もう二度と微笑みかけてくれないのに。


 それでも生きていかなければならない。

 罪を償う為に。

 過ちに気付く為に。

 真実を求める為に。

 新しい愛を育む為に。

 絶望しそうな未来でも繋げていく為に。


「あの少女の魂は清らかで無垢で……だからこそ染められやすかった」

 真上から見下ろせば、様々な色。沢山の愛の形。

「だから、もうしばらくは見守るよ。今まで見て来れたんだ。あと少しなら我慢出来るさ」

 でも、この世が真の漆黒に染まりきった時は……裁きたる鉄槌が振り下ろされ、全てが無になる。

「その色も……」


 見てみたい、けどね。

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十人十色 深喜 @miki

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