3.

「一目惚れでした」

 うっとりと少年は語り出した。

「俺、コンビニで万引きしたんですよ」

 10円のチョコ。食べたかったわけじゃない。暇つぶし。

「あっさりバレて、揉めてたら……」

『もう! 一緒に払うから待っててって言ったのに!』

 その時の事を思い出しているのか、穏やかに微笑む。

「天使かと思いました」

 誰にも見向きもされなかった自分。

「店員が連れの方ですかって聞いたら、俺の手からひょいとチョコを摘まんで……」

 身振り手振りで嬉しそうに、少年は刑事に説明をする。

『はい。友達です』

「って……」

 ぼろぼろと涙が溢れる。

 制服姿も、傾げた時に揺れた髪も、その場を覆す程の眩しい笑顔も。

「何もかも……」

『もうこんな事、しちゃ駄目ですよ』

 掌に置かれたチョコ。食べてしまうのはもったいなくて、部屋に飾った。

「独り占め……したかったんです……」


「やりきれねぇ」

 事情聴取を終えた刑事は椅子にもたれながら、煙草を取り出した。

「先輩。喫煙所でお願いします」

 嫌煙家の後輩に咎められ、はいはいと席を立つ。

 部屋を後にし、薄暗い廊下を抜け、非常階段へと続く鉄扉を押す。

 そして喫煙所とは名ばかりの踊り場に置かれた赤バケツの前に屈んだ。

 愛用のジッポでマルボロに火を点ける。

 深々と堪能すると、大きく紫煙を吐き出した。

「善意が悪意を呼ぶなんて」

 少女がした事は正解ではない。でも、不正解でもないのだ。

 進学校に通う女子高生と中学すらまともに通えず、自分の存在意義を見失っていた少年。

 違う世界に憧れ、彼女を手に入れれば自分もそこの住人になれると夢を見た。

「何かが変わると期待しても仕方がない……」

 ギリギリまで吸った煙草を水面に落とせば、じゅっと鳴る。

「……そんなわけ、ねぇだろ」


「遠くから見ているだけでした」

 日増しに思いは募る。

 だけど自分と彼女では、あまりにも住む世界が違いすぎて。

「でも、どうしてもちゃんと御礼が言いたくて……」

 ポケットにいつも入れていた十円玉。柄にもなく可愛らしい袋に入れて。

 彼女を思い浮かべながら選んだ。

「あの……!」

 あの日、勇気を出して呼び止めた彼女との間を遮られた。


「俺なんかより全然カッコよくて背も高くて、同じ制服着てる奴が颯爽と現れたんです」

 少年は泣き笑いしながら、続けた。

『誰?』

 当たり前のように彼は少女に尋ねる。

「万引きの事は伏せながら彼女が説明したら……そいつ、何て言ったと思います?」

 刑事は無言で待つ。

「そいつ……」

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