第29話 友の背中を飛び越えて

 地下通路の出口は、猫万魔殿ニャンデモニウムの正門のすぐそばに繋がっていた。

 猫万魔殿ニャンデモニウムは、魔王の名を冠する者が住処とするに相応しい、壮大な城であった。光沢の無い漆黒の物質で、継ぎ目もなく建てられた長大な尖塔の数々は、不自然なほどにねじくれ、とげとげしい形状をしており、空をも食い破らんとする巨人の牙を想起させる。


「うおっ! いきなり本番か!」


「驚いてる場合じゃないよ!」


 言うや否や、サックは門に向かって走り出す。他のメンバーもそれに追随する。

 アッツが門を破るためにと、魔力を練り聖剣を振り上げるが、ギトニャンがそれを制し、集団の先頭に躍り出る。


「こういうのは俺様の仕事だァ!!」


 筋肉と爪に恵まれた凶悪な腕が突き出され、門は木片と金具を撒き散らしながら砕け散った。

 さらには、門の向こう、猫万魔殿ニャンデモニウム内部にいた、数十、数百ものにゃん黒軍団員たちをも、その爪で蹴散らしていく。元四天王の面目躍如である。


「あっちの階段を上れば四天王と大魔王のいる特別階だ! さあ行けェ!」


 一行は階段を駆け上り、第2階層へ。その先に広間があったが、もぬけの空。

 広間の奥にあった階段を上り、さらに第3階層に上るも、同じような広間があるだけであった。広間の奥には、同様の階段がある。


「なるほど。さっき第2階層と、この第3階層は、それぞれ空席になっている、四天王ギトニャンと、スカル・ザ・ドラの階層。つまり、このさらに上の階には……」


「残りの四天王2人の階層と、大魔王の階層があるわけだね!」


 にゃん黒軍団の情報に明るいサックとミスミが考察する。


「うん。そして、序列的に、第4階層には――」


 階段を上った先には、サックの推測どおり――


「やはりか。四天王……白虎将軍」


 三人目の四天王、白虎将軍が、広間の中央で仁王立ちしていた。


「いかにも。吾輩は白虎将軍である」


 純白の毛並みに、対照的な漆黒の鎧。手に持つ槍は鮮血のごとき赤。ギトニャンを一回りもふた回りも大きくしたようなその巨体から、強者特有の覇気を漂わせている。


「みんな、ここは俺に任せて先に行くんだぜ」


 ひと目見て、一筋縄ではいかない相手だと判断したジュウシは、時間を無駄にしないため、アッツたちを先に行かせることを決断する。お約束のアレである。時間云々もそうだが、お約束のアレをやりたかったというのもある。ジュウシはちょっとニヤニヤしていた。


「私も残ります。拳闘士ひとりでは危険ですから」


 プリムも残ることを決めた。

 その身を武器として敵前にさらけ出す拳闘士と、傷を癒し活力を与える回復魔法使いは、相性が良い。

 という事情もあるにはあるが、プリムも、楽しそうにニヤニヤしていた。


「ふむ……自ら囮となり、仲間を先に進ませる、か。その意気や良し! その勇気に免じて、貴様らの策に乗ってやろうではないか!」


 白虎将軍も、ジュウシとプリムの勇気を褒める。が、ちょっと棒読み感があり、その口元はやはりニヤニヤしている。


「くっ、ジュウシ、プリム、頼んだぜ! 死ぬなよ!」


 アッツたちも上の階層に向かって駆け出すが、みんなニヤニヤしている。

 なんだかんだでみんな、お約束が大好きなのだ。


「ぷっ……俺に任せて先に行け……俺に任せて先に行け……! ふふふふふ!」


 ダイヤはツボにはまってしまったようだ。最後にジュウシがこちらを振り向いてキメ顏をしたのもひとつの要因だろう。

 やがてアッツたちが去り、残されたジュウシ、プリム、そして白虎将軍の3人は、お約束のネタがうまく成立したことに、満足したような顏をして、


「よし、やるか」


 と、真剣勝負を開始するのであった。

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