第28話 山越え谷越え、魔を踏み越えて

 元にゃん黒四天王ギトニャンの口は固かったが、恐怖ナイトメア・アジ・フライデー快楽ハッピー・アジ・フライデーの無限ループには勝てなかったようで、馬車に揺られて数日経つころには素直になった。質問には全て包み隠さず即答。その他の余計な問答は一切しない。普段は黙し、微動だにしない。よく言えば従順。悪く言えば廃人である。

 ただし、一日に一度だけ、日が傾き、西の空が茜色に染まる頃だけは、虚空を見つめ、一筋の涙を流しながら、


「……おばあちゃん……。」


 と、一言呟くのであった。


「あ、これ聞いたことあるぞ。猫が時々なにも無いところを睨むフェレンゲルシュターデン現象だ」


「いや、これはもっと闇が深いやつだと思うんだぜ」


「そうなのか?」


「お前が犯人なんだから自覚を持つんだぜ」


 気の抜けた会話を挟みながらも、アッツ、プリム、ジュウシ、ダイヤ、サック、ミスミ、ギトニャンの総勢7名を乗せて、馬車は進む。行き先は、猫万魔殿ニャンデモニウム。一行は今、ギトニャンから聞き出した、秘密の地下通路を通っているのだ。


「しかし、サバフライ君はともかく、ミスミちゃんもついてきちゃって、ほんとに大丈夫なの?」


「だいじょうぶです! ご存知のとおり、私にも結界魔法の心得がありますから、サッキーの役に立てると思います!」


 アッツは思った。サッキーって、サッキーって、彼氏だからって公衆の面前でニックネームで呼んでんじゃねぇよリア充爆発しろ、揚げ損なったクリームコロッケみたいに爆発しろ、と。


「まあ、そんなに危険な所には踏み込みませんよ。せいぜいアッツたちのサポートをするくらいです。猫万魔殿ニャンデモニウムには四天王2人とにゃん黒大魔王だけではなく、上級子猫兵ハイ・ミャーセナリー大猫将ウォーリニャーも常駐していますからね。そのあたりの相手をするつもりです」


「つまり、サックたちが雑魚の相手をしてるうちに、俺たちが親玉をぶっつぶすわけだな!」


「そういうことだね。頼むよ、アッツ」


「任せろ! ……あ、でも、ギトニャンはどうしよう」


「俺も戦う」


 ギトニャンが久しぶりに自我を目覚めさせ、自ら口を開いた。


「ここまで来たからには……俺も、戦う。にゃん黒軍団を、潰すためにな」


 元にゃん黒四天王ギトニャンは、にゃん黒軍団を潰すと宣言した。


「俺はあのとき、お前に負けて実家に逃げ帰ったときに、もう悪さはしないと誓った。だが、それだけじゃ足りねェんだ。罪を償うなんて綺麗事を言うわけじゃねェが、散々迷惑撒き散らしておいて、もうしません、じゃ済まされねェ。もうしません、軍団ぶっ潰してきます、までいってこそ、男のケジメってもんだ。だから、頼む、アジフライ。俺を猫万魔殿ニャンデモニウムまで連れて行ってくれ」


 その真紅の瞳には、偽りを示す濁りはなかった。

 アジフライ属性魔法による洗脳がしっかり効いているようだ。


「それと、サバフライ。雑魚の相手は俺がする。お前はアジフライ達とともに行け」


「うん、分かった」


 もし洗脳が不十分で、ギトニャンに裏切られれるようなことになれば、敵地のど真ん中で敵がさらに増えることになる。しかしアッツ一行に、洗脳の効果のほどを疑っている者など誰ひとりとしていなかった。それほどまでに、鯵曜日アジ・フライデー系の魔法の精神干渉効果は高いのだ。




「よし。プリム、ジュウシ、ダイヤ、サック、ミスミ、それからギトニャン。いよいよ最後の戦いだ。絶対、俺たちの手で……にゃん黒軍団を、ぶっつぶすぞ!」


「おー!」


 一行は、アッツの口上に、拳をかかげて応える。

 やがて馬車は、地下通路の出口にたどり着き――


 アッツたちの最終決戦が、幕を開けた。

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