第23話 何故、貴方は、

 殺猫巨人ゴロニャンタイタン討伐ののち、穴の空いた大結界には、ダイヤの魔法の氷で覆うことで、応急処置が施された。こうしておけば後は、時間はかかるものの、自己修復機能で元どおりになるのだという。

 また、スカル・ザ・ドラの死亡と同時に、ミスミ・フキノートの身体を蝕んでいた呪いも解けた。スカル・ザ・ドラこそが術者であったのだ。

 加えて、ミスミの両親が所属していた大結界管理機関の一部に、教会や神殿との癒着や、にゃん黒軍団との闇取引があったことなども発覚したのだが――ミスミと、その親友たる、サック・サバフライにとって、そんなことはもはや、大して重要ではなかった。


「よかった。やっぱりあいつが、術者だったんだ」


「うん。おかげで、呪いが解けて、元気百倍だよ! ありがとう、サックくん!」


 その言葉を聞いて、サックは俯き、肩を震わせる。


「うん……よかった……本当によかった……」


 涙が、俯いたサックの顔から落ちた。

 震えるサックの身体には、包帯が巻かれており、痛々しい戦いの跡が見てとれる。

 ミスミの頭の中に、疑問が生まれていた。それは、サックに出会った頃から感じていた、素朴な疑問。


「ねぇ、サックくん、聞いてもいいかな……」


「うん?」


「サックくんは、どうして私に、そこまでしてくれるの?」


 ミスミの質問に、サックは少し考え、涙を拭ってから、答える。


「うーん、それはね――」






 同時刻、アッツ、ジュウシ、プリム、そしてダイヤの四人は、研究所の寮の前で、旅支度をして集合していた。


「ダイヤ、俺たちについていこうだなんて、一体どういう心変わりなんだ?」


 アッツは、荷物を背負ったダイヤに尋ねる。


「ふん。何も心変わりなんてしていないわ。あなたたちがあまりにも危なっかしいから、仕方なく着いていってあげるだけなのだわ。あなたたちが、なるべく戦わなくて済むように、導いてあげるのよ」


 答えたダイヤに、プリムが質問を重ねる。


「失礼ですが、ダイヤさんは、どうして、それほどにも、戦いがお嫌いなんですか? 昔は、剣聖さんとともに、戦っていらっしゃったのに……」


「簡単なのだわ。前も言ったとおり、その剣聖との戦いの旅で、散々怖い思いをしたからよ。もう戦いなんて、こりごりなのだわ」


 ダイヤはまたしても、答える。

 質問が途切れ、黙々と、馬車に荷物を積もうとした、そのときであった。

 沈黙を保っていたジュウシが、口を開いた。


「悲しい恋を、したんですね」


「――っ!?」


 ダイヤは飛び上がって驚いた。ジュウシの言葉が、どこからそんな発想が出たのかと思うほどに、唐突だったから。

 そして、図星だったから。


「どっ……どうしてわかるの?」


 驚きのあまり、ダイヤは、否定することすら忘れてしまう。

 震えた声で、自分の過去を見抜いたわけを、ジュウシに問う。


「どうしてって、それは――」






【第3章 あなたに恋をしているから】


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