第20話 はたらくアジフライ、たくらむ氷
「な、な、なあ、アッツ、大変なんだぜ。俺、ダイヤさんに、背中押されちまったんだぜ。ひんやりしてて気持ちよかったんだぜ」
「うっせぇ知るか黙れ変態クソ野郎焼くぞ」
空気を読まずにダイヤダイヤと連呼するジュウシにアッツは完全詠唱イラフジアをぶちこんでやりたかったが、アッツたちは今、ダイヤに借りた寮の一室にいる。イラフジアの熱で部屋を焼いてしまうのはためらわれた。ちなみにイラフジアの油のほうはそもそもアッツたちが揚げ物なので問題にならない。
「どうしましょうか……?」
「……とりあえず、研究所でしばらく働いてみる。少しずつ、熱意を伝えていけば……」
剣聖は、ダイヤについて、気難しいが、熱意を示せば伝わると語っていた。ダイヤの心が動く可能性に賭けて、研究所で働くのだ。
「お、俺も働くんだぜ! 俺も研究所で働けるように頼んでくれ!」
「自分でやれクズが」
「うーん、私も、と言いたいところですが、全員で押しかけては迷惑ですし……チルドシティの中でできるボランティア活動でも探して、神官として働こうと思います」
かくして一行は、ダイヤに協力を拒まれた状況のまま、暗中模索で行動することになったのであった。
アッツの研究所勤めは、ダイヤを引き込むめどが立たないことを除いては、順調に進んだ。
アッツのアジフライ属性魔法は独学のものであるため、研究畑で扱いやすい体系的な魔法についての知識は乏しかったが、他ならぬ魔法研究者カチヤ・リコリス自身が、直々に指導してくれた。
「魔力を無駄遣いしている感じがするけれど、それを扱えるだけの保有魔力量があるのなら、問題ないのだわ。
魔法の効果範囲を狭めることがあるかわりに、魔力を集中して威力を高める技術、
魔法の威力を弱めることがあるかわりに、魔力を散らして効果範囲を広げる技術、
才能にあふれるアッツはそれらの技術を瞬く間に習得し、目的に応じて魔法を調整する術を得た。
土下座してダイヤを拝み倒すことによって晴れてダイヤ専属の小間使いの座を手に入れ浮かれまくってダイヤのそばでぶつぶつとダイヤ賛美の言葉を繰り返していたジュウシが鬱陶しかったので、試しに「
「これ、すごいですね! 教えてくれて、ありがとうございます!」
「構わないわ。ほんの基礎的な技術だもの。……まあ、そうね。感謝してくれるというのなら、あなたの勉強だけではなく、あたくしの研究もさせてもらわなくてはね」
ダイヤは、もう待ちきれないとでもいうように、目を細めてにやりと笑う。
「油と熱のアジフライ属性魔法。水と冷気の氷属性魔法。正反対の存在ゆえに、すこぶる仲が悪いけれど……その分、手を組んだときに発揮される力は、想像を絶するものになるはずだわ。名付けるとしたら、そうね……」
ダイヤは、もう十分に吊り上げていると思われた口角をさらに上げて、うら若き少女のように楽しげでありながら、妖艶の悪女のように深く響いてくる声で、言った。
「冷凍アジフライ属性魔法」
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