第17話 魔法都市チルドシティ

 魔法都市の名を冠するチルドシティは、その名の通り、都市であり、魔法の街である。

 サクサク街道を進んできた一行がまず目にしたのは、天を衝く壁。端を見失うほど幅が広く、都市の名に相応しく巨大なその壁はしかし、一般に市壁と呼ばれるそれとは一線を画すものである。

 その壁に厚みはない。その壁に色はない。ただ虚空に、確かにその壁が存在することの証たる、ガラス玉のごとき澄んだ光沢が浮かぶのみである。

 その壁の名は「大結界」。都市の内外を魔力で隔て、邪なるものから市民を守る、魔法で生み出されし大市壁である。


「あんな壁、どんだけ魔力を使ったらできるんだぜ……」


「空気中の自然魔力を取り込んでまかなっているらしいですよ」


「自然魔力って、そんなもの安定しないと思うんだぜ」


「なんでも、北の魔境から風に乗って豊かな魔力が供給されるそうで……大結界が展開されて数百年、いまだ破られたことはないそうです」


「ええっ、そういうの、逆に不安なんだぜ」


 破れない壁、落ちない城。えてしてそういうものは、物語の中では嬉々として破られ、落とされるものである。


「大丈夫ですよ。物語じゃあるまいし」


 プリムはそう言うが、残念なことにこれは物語である。しかも典型テンプレートの皮をかぶったとびきりのクソストーリーである。

 ネタバレすると第21話あたりで破られる。


「あれ、入れるのか?」


「ええ。普通の壁と同じように、門があります」


 街道を進んでいくと、確かにそこには門があり、そこだけ結界に穴が空いていた。

 門番に、フライタウンよりは厳しい所持品検査を受けたのち、一行はついに、魔法都市チルドシティへ足を踏み入れた。

 大結界も目を奪われるものであったが、都市そのものもまた壮観。つるりとした黒光りする石で継ぎ目もなく築き上げられた建物たちが、競い合うように高く、高く、天に向かって伸びている。その様はまさに、摩天楼。

 人の往来も盛んで、都市は喧騒と油の香りに包まれている。つい最近まで山ごもりをしていた一行には、息がつまるほどに刺激的なものであった。


「この中からダイヤさんを探すのか……」


「カチヤ・リコリスという魔法研究者が、どれだけ有名なのか、それにかかってるんだぜ」


「街の人に聞いてみましょう! す、すみません!」


 通りかかった男性は、プリムに声をかけられたことによって一瞬減速するが、あ、忙しいので、と言って通り過ぎていく。


「むう、都会の人は冷たいって、ホントなんだな」


「いや、あれは、プリムが美人すぎて、怪しい呼び込みだと勘違いされた感じなんだぜ。もっと騙されやすそうなカモに声をかけるんだぜ。純心そうな少年とか」


「いえ、あの、私たち騙そうとしてるわけじゃないんですよ」


「じゃ、俺が田舎者感丸出しで声をかけるよ。同情してくれるかもしれないし。お刺身お刺身岡星ドボドボ岡星食え食えお刺身むむ…京極!」


「どうしたんだい?」


「いや田舎者だからってアジフライ語はさすがに通じませ――って通じたすごい!」


「アジフライ語は聞き慣れてるからね……って、アッツじゃないか」


「うお、サック!」


 アッツの呼びかけに振り向いたのは、奇しくも、アッツの幼馴染にしてライバル、サバフライ一族の少年、サック・サバフライであった。

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