第15話 バイバイ下山

 荷造りを終え、吹雪のカーテンを背にした一行に、剣聖アルバートは、最後の言葉をかける。


「ときに、諸君……下界で悪さをしているという、にゃん黒軍団なる悪の集団について、どう思う」


「許せない。うちのプリムも、あやうく食べられるところだったんだ。あいつら、殺すことを楽しんでやがる。できればこの手で、ぶっ倒してやりたい……!」


 アッツの言葉に、プリムとジュウシもうなずく。


「うむ。私も同感だ。そして、私は、君達に、それを実行してほしいと思っている」


 剣聖の言葉に、一行はとまどった。


「しかし、私たちは、実力不足です。現に、溶岩龍ラーヴァ・ドラゴンさんとの戦いでは……」


「ああ、君達の弱点が浮き彫りになってしまった。しかし私があえて『弱点』という表現を用いるということは、これすなわち君達が、他の点では十分に強いということだ」


 剣聖の言葉に、一行はとまどいながらも、誇らしげな表情を浮かべる。


「さらに私は、君達の弱点を補ってくれる心強い人材を、ひとり知っている。私の若かりし頃の旅の仲間、強く、賢く、そしてなによりも美しい、氷精霊、ダイヤ」


 プリムとジュウシは息を呑んだ。剣聖を扱った物語では必ず、剣聖の名とともに語られる、氷属性の大魔法使い、ダイヤ。彼女の氷魔法は、溶岩龍ラーヴァ・ドラゴンの本気の炎をも、真正面から打ち破ったとされる。


「山を下りて、サクサク街道に乗り、北東の、魔法都市チルドシティへ向かうといい。彼女はそこにいるはずだ。カチヤ・リコリスという偽名で、魔法研究者として活動しているらしい。気難しいところもあるが、根気よく熱意を示せば、彼女はきっと、君達に協力してくれるだろう」


「何から何まで、ありがたいんだぜ」


「いいんだ。君達ににゃん黒軍団の件を押し付けたことの、せめてもの罪滅ぼしでもある。私は訳あって、ここを離れられないからな……。無責任な話だが、頼んだぞ」


「ああ! ダイヤさんを仲間にして、俺たちが絶対、にゃん黒軍団をぶっ倒してみせるぜ!」


 アッツは、どん、と、胸を叩いた。

 そこには、来たときよりも随分たくましくなった、硬くたくましい大胸筋があったのだった。




【第2章 吹雪吹き荒れる山、頂に】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る